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地域経済を元気にするためのヒントを、人との出会いと経営学の2つの視点から考えるブログです。

橋本酒造 ~その模倣困難な経営資源~

2009年08月11日 | 経営に学ぶ

以前このブログでご紹介した「怪しき漆職人」こと山谷尚敏さん。ブログに書いたように、実に多趣味な人です。 http://blog.goo.ne.jp/hirano2009/e/ca10827091e057aa2b4e068ac54fd1bd

その山谷さん、実は大のお酒好き。そのブログにはたびたびおいしい日本酒のお話しが出てきます。7月14日のブログにもおいしそうな日本酒が写真入で登場。山谷さんはおいしいお酒が手に入ると、ご自分で塗った器で楽しむことが多いのですが、今度もまたお手製の器で満足げに飲んでいる山谷さんが想像されます。このあたりは、同じく山中漆器で活躍されている喜八工房の酢谷喜輝さんと同じですね。

「とある場所に住む怪しき漆職人の不定期ブログ」 http://yamhis.exblog.jp/                              

 「喜八ブログ」http://www.kihachi-web.com/kihachi/

山谷さんのブログに刺激(?)された私は、さっそく加賀市の蔵元を訪ねてきました。訪問した先は加賀市動橋町にある橋本酒造。創業二百四十年といいますから、石川県内でも指折りの老舗です。

動橋にあるお店を訪ねると、そこは「大日盛酒蔵資料館」として店舗がそのまま資料館に。昔ながらの酒造りの用具や先代のコレクションなどの、多くの資料が展示されています。ざっと見ただけでも、酒造りの歴史が一覧できるのです。

面白いのは古い酒樽を利用した茶室。中に入ってみると、なんだか秋田かどこか雪国の冬の風物詩「かまくら」のような感じで結構楽しめます。試飲コーナーもあって常時4~5種類のお酒が試飲できるそうなのですが、車で訪ねた私には無理ですね。

今回お訪ねした一番の目的は、有形文化財に指定されている橋本酒造の主屋「橋本本家」の建物を見学すること。こちらの建物は見学料500円が必要ですが、これにはお土産が付いています。そのお土産とは・・・

橋本酒造の代表的ブランド、「大日盛」のワンカップでした。試飲コーナーで残念な思いをした私でしたが、これはうれしいお土産です。

「橋本本家」は江戸時代から続く由緒ある建物です。どの部屋やお庭にも、長い歴史を経てきた伝統の重みを感じます。

さて、こうした伝統を誇る橋本酒造ですが、その経営を取り巻く環境はけっして楽観できるものではありません。日本酒業界を巡る経営環境については、(社)中小企業研究センターが次のような報告をしています。

日本酒離れの指摘がなされて久しく、日本酒業界は、全体として縮小傾向にある。しかもその傾向は20年以上も続いている。そのため、企業数は年々減少し、収益力も低下している。アルコール消費が頭打ちとなる中で、ビールやワイン、焼酎の台頭により縮小するパイの争いに苦戦し、さらに最近は流通構造の変化の影響を大きく受けて、日本の伝統産業である日本酒メーカーはまさにその存続のための対応を迫られている。                                                       (社)中小企業研究センター調査研究レポート「伝統産業の酒造りおよび日本酒メーカー(蔵元)の展望について」 http://www.chukiken.or.jp/study/report/115.html

たしかに、日本においては昔からに祭や冠婚葬祭などの伝統的な慣習に、日本酒は欠かせないものでした。けれども、ここにも消費生活の変化が影響しています。親戚や隣近所の住民が集まって酒を酌み交わすという行事も縮小し、一方ではビールワイン焼酎ブームなど、日本酒以外へのシフトも顕著です。また、2003年には酒類販売が事実上自由化され、スーパーやコンビニでの販売が増加した結果、大手食品卸売企業による地方の小規模卸売業者の合併、併合等、卸売部門の業界再編が進行しているとのこと。こうした中で、ロット、価格、物流等の条件が厳しくなって、従来の流通チャネルを失い苦境に立たされる日本酒メーカーも少なくないそうです。

こうした社会の変化に対応して、日本酒メーカーが生き残っていくために、さまざまな努力が行われています。その中でも私が注目しているのが、「ご当地」銘柄の取り組みです。日本酒メーカーのほとんどは中小企業で、中小企業基本法の定義による大企業は9社に過ぎず、しかも年間製成量100kl(約555石)以下が65.6%と「小」企業が支配的な構造になっているのですが、それゆえにどの町にも「ご当地」銘柄が存在しています。それぞれの銘柄はその土地の米や水、自然環境の影響を最大限に活用して醸造されています。ワインやビールの本場・ヨーロッパでは、どこへ行ってもその土地の人たちご自慢のビールやワインがあります。まさに「地域資源」そのものなのです。

経営革新に取り組んでいる各地の酒造メーカーは、その土地の地域資源としての存在を消費者にアピールすることで、新しい顧客獲得に努めています。そして新市場におけるマーケティング戦略のひとつとして有効となるのが、その商品の背景にある「物語性」なのです。日本酒メーカーは減りつつあるとはいえ、2000社近く存在しますし、日本酒の銘柄はそれこそ無数に存在しています。ややもすれば差別化が難しいこの日本酒市場においては、「物語性」を打ち出すことによって、消費者に強くアピールすることができるのです。

とくに「歴史と伝統」という物語性は、他社が容易に模倣できません。「製品の品質に対する信頼」「企業そのものへの信頼」を消費者に訴求する上では、きわめて有効な「経営資源」といえるでしょう。

こうしてみると、橋本酒造の「経営資源」は際立っています。大聖寺藩の十村役(地域の大庄屋)を務め、藩主も訪れた家屋を保存し、また現当主で十代目というとびきりの歴史と伝統をお持ちなのです。現在でもこの素晴らしい経営資源を活用しておられますが、私が拝見した限りでは、まだまだ活用の余地があるように思えました。今後はいかに他の経営資源との相乗効果を図りつつ、他社との差別化を図っていくか・・・今後の橋本酒造さんの挑戦に期待しています。


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