WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

鳥になることのベクトル

2006年11月14日 | 今日の一枚(E-F)

●今日の一枚 84●

Eric Dolphy     Last Date

555_1  「音楽は聴いたとたんに空気の中に消えてゆき、もう二度とつかまえることはできない。」( When you hear music after it's over , it's gone in the air . You can never capture it again )という有名なことばで終わる伝説的アルバムだ。エリック・ドルフィーは、1964年6月29日、ベルリンで客死したが、その直前の6月2日にオランダで録音されたアルバムだ。

 先の言葉はあまりにも有名で、ジャズ・ファンの中では言い古され、それに敢えて触れることさえ憚られるほどだが、この言葉が有名になったのはやはり、その音楽をよく表しているからなのだと思う。かつて、浅田彰はこのアルバム収録の⑤ You Don't Know What Lave Is を論じた文章の中で「鳥になることのベクトル」(『名演!Modern Jazz』講談社)という表現を使った。80年代ポスト・モダン・ブーム時代のあまりにスノッビシュな表現で、今となってはちょっと口にするのが恥ずかしい面もあるが、よく考えてみる、ドルフィーの音楽をとなかなかよく表した言葉のようにも思える。浅田の言葉は、ジル・ドゥルーズとフィリックス・ガタリの『ミル・プラトー』の中の「音楽というのは、ジャヌカンからメシアンにいたるまで、ありとあらゆる仕方で鳥の歌に貫かれている」という表現を引いたものだが、「鳥の歌」とはドルフィーの音楽については、至言というべきではなかろうか。

 ラジオの放送用に録音されたものであり、リズム・セクションが弱いとの批評もあるようだが、むしろそれだからこそ、ドルフィーがより自由に自分のプレイをしているように思える。じっくり聴くと、ドルフィーは本当に鳥になろうとしているようだ。


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