WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

やはり、「スターダスト」は美しい

2009年01月11日 | 今日の一枚(K-L)

◎今日の一枚 215◎

Lionel Hampton All Stars

Stardust

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 1947年のジャスト・ジャズ・コンサートの模様を収録した、ライオネル・ハンプトン・オールスターズの『スターダスト』。大名盤である。ジャズ入門書などにも必ずといっていいほど取り上げられる超有名盤である。超有名盤であるが、私がこのアルバムを購入してちゃんと聴いたのは比較的最近のことだ。

 十数年前、山形蔵王の野外ジャスフェスティバルでたまたまライオネル・ハンプトン楽団の演奏に出会ったことがある。夏にスキー場で行われたライブである。そのときは、「とりたてて特徴のない普通のジャズ」という印象で、特に啓発される何ものかや、心を揺さぶる何ものかを感じなかった。むしろ、ずっと昔の有名人が博物館的に演奏しているという印象だった。それ以来、私の中のライオネル・ハンプトン株に高値がつくことはなく、ずっとこの超有名盤に接することなく過ごしてきたわけだ。 数年前に、たまたま仕事で知り合った年上の知人に薦められ、遅ればせながらこのアルバムを聴いた次第である。

 名盤という評価に異存はない。素晴らしい演奏である。特に冒頭の「スターダスト」の美しさは、多くの評者が論ずる通りだ。中には「ハンプトン一世一代のソロ」などという評もあるようだが、きっとその通りなのだろう(ハンプトンの他の演奏を聴いたことがないのでわからないが……)。ハンプトンの揺れる感じのvibが美しいのはいうまでもないが、出だしのウィリー・スミスのアルトがなんとも言えない味わい深さを表出している。デリカシーのある演奏だ。続くトランポットやテナーサックスだってなかなかのものだ。スキャットボイス付のベースソロもユニークだ。スタイルは古いが実に表情のある、起伏に富んだ演奏である。だいたい、1947年は大戦がおわって2年後なのだ、日本では憲法が施行された年だ。現在の地点から見て、革新的な演奏を求める方が無理な話だろう。

 実に気持ちよく聴けるアルバムである。ライオネル・ハンプトンを気持ちよく聴ける私は、やはりそれなりに年をとったということなのだろうか。それともやはり、このアルバムの持つ力なのだろうか。村上春樹氏は『Portrait In Jazz』の中で、ライオネル・ハンプトンについてその「生ぬるさ」を認めつつも、一定の評価を与えた後で次のように語る。

《 時代とともに野垂れ死にし、風化していった数多くのいわゆる「革新性」に、どれほどの今日的意味があるのだろうか 》

耳に残る言葉である。

 


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