WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

茶色の鞄 …… 青春の太田裕美①  (加筆)

2006年07月29日 | 青春の太田裕美

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 太田裕美が好きだった。青春の一時、アイドルだったといってもいい。ところで、意外なことであるが、私と同世代の人には太田裕美の隠れ支持者が多いようである。飲み会などで、ちょっと昔の思い出話などになると、この「太田裕美」という名前が登場することが多いのである。しかも、ずっと昔の一過性のアイドルというのではなくて、今でもその記憶を大切にしている人が多いのだ。 太田裕美には、周知のように多くのヒット曲があるが、ヒット曲以外の一般的にはまったく無名の曲(アルバム収録曲)を愛する人たちも少なくない。彼ら隠れ太田裕美支持者たちの心の中では(もちろん私もその一人だ)、今でもそうした無名曲が鳴り響いているのである。
 

 10年ほど前、知人と酒を飲んでいる際、ふとしたことから太田裕美の話題となり、その人物が隠れ太田裕美支持者であることがわかったのだが、さらに会話をすすめていくと、彼が愛する曲は「木綿のハンカチーフ」でもなく、「最後の一葉」でもないという。まさかと思って尋ねてみると、なんとアルバム『手作りの画集』収録の「茶色の鞄」という曲だったのだ。その時の驚きはいまでも忘れられない。我々の間に一種の共犯関係のような奇妙な連帯意識が生まれ、互いにニヤッとほくそえんだのだった。そしてそれ以来、実は私は同じような体験を何度かしているのだ。最近、試しにウェッブで検索してみたら、まったく意外にも、この「茶色の鞄」が多くの支持を集めていることがわかった(古いアルバムもいまだに廃盤とならずに、CDとして発売され続けているのだ)。私にとっては、ちょっとした驚きだった。 

 アルバム『手作りの画集』は、よくできたアルバムである。テンポがよく、ポップな旋律をもつ人気曲「オレンジの口紅」からはじまり、ヒット曲「赤いハイヒール」や支持者たちの間で人気の高い「都忘れ」や「遠い夏休み」、「ベージュの手帖」などをへて、最後の曲がこの「茶色の鞄」なのである。聞き飽きしない構成だ。 

 それにしても、と思う。この時代の太田裕美における松本隆という作詞家の詩は、当時の若者の心象風景をみごとにつかんでいるものが多い。まるで、屈折した当時の自分がそこに映し出されているようである。名曲「茶色の鞄」の詩(1番)はこんな風である。 

   路面電車でガタゴト走り  橋を渡れば校庭がある 

   のばした髪に帽子をのせた 

   あいつの影がねえ見えるようだわ 

   人は誰でも振り返るのよ  机の奥の茶色の鞄 

   埃をそっと指でぬぐうと  よみがえるのよ懐かしい日々 

 「のばした髪に帽子をのせたあいつの影がねえ見えるようだわ」というところが良いではないか。「茶色の鞄」とは、かつてちょっと不良っぽい高校生が持っていたぺったんこの鞄だ。2番の歌詞はこうだ。 

   学生服に煙草かくして 代返させてサボったあいつ 

   人間らしく生きたいんだと 

   私にだけはねえやさしかったわ 

   もう帰らない遠い日なのに あの日のままね茶色の鞄 

   大人になってかわる私を 恥ずかしいような気持ちにさせる 

 「人間らしく生きたいんだと」というところがなつかしい。昔の高校生はこういうことを言ったんですね。「もう帰らない遠い日なのに あの日のままね茶色の鞄」というところが、時間の静止をイメージさせて秀逸である。具体的なモノをを登場させることで、イメージが広がっていく。3番(というか、リフレイン)だ。 

   運ぶ夢などもう何もない。中は空っぽ茶色の鞄 

   誰も自分の幸せはかる ものさしなんてもってなかった 

   誰かが描いた相合傘を 黒板消しでおこって拭いた 

   あいつも今は色褪せてゆく 写真の中でねえ逢えるだけなの 

 なんというか、せつない。多くの人が、自分なりの情景を思い描くだろう。「誰かが描いた相合傘を 黒板消しでおこって拭いた」などというところは、実に70年代的だ。色褪せてゆくアドレッセンスを見事に表現した名曲である。 

 

参考文献(太田裕美関連サイト)  ↓ 

http://www.force-x.com/~raindrop/ 

http://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/hiromiohta/ 

http://hiromi.m78.com/index.htm


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
袋小路どうですか?茶色の鞄と同じくらいいいと思... (akibaclinic)
2007-05-20 23:44:10
袋小路どうですか?茶色の鞄と同じくらいいいと思っています。
返信する
 コメントありがとうございます。 (平泉澄)
2007-05-21 06:16:52
 コメントありがとうございます。
「袋小路」もいいですね。ただ、全体の曲想としてはあまりにマイナー調で、私としては「茶色の鞄」のほうが好きです。ノスタルジックな雰囲気がなんともいえません。
 「袋小路」についての過去の記事もありますので、よろしければごらんください。

http://watercolors.blog.ocn.ne.jp/watercolors/2006/10/post_ceea.html
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ど~~~~~~~も! (貧坊ちゃま)
2007-09-11 15:48:36
ど~~~~~~~も!
初めまして、貧坊ちゃまと申します。 私は、中学1年からだったと思いますが、太田裕美のファンクラブに入っておりました。
この曲は、名曲だと思いますが、私が納得いかないのは、<埃をそっと指でぬぐうと>の部分が、何度聴いても、<おとめをそっと指でむぐうと>に聴こえるんですよね。 それでは・・あははは。
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