WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

この素晴らしき世界

2007年08月30日 | 今日の一枚(K-L)

●今日の一枚 197●

Louis Armstrong

Satchmo - What A Wonderful World

Watercolors0012_3  サッチモことルイ・アームストロングのベスト盤『サッチモ・ベスト/この素晴らしき世界』である。といっても、単なるベストではなく、かなり録音の悪いライブ演奏が数曲混じっている。タイトル名でもある「この素晴らしき世界」もどこかのラジオの実況録音である。録音は悪いが、なかなか趣があっていい。雑多な録音の寄せ集めのようなアルバムだが、私は結構気に入っている。

 サッチモを一時代前の音楽家だとして、博物館に陳列するようなことがあってはならない。確かに彼は黄金の1920年代から活躍し、ジャズ史上に不朽の足跡をのこした音楽家であり、そういう意味では博物館に展示される資格は十分にあるだろう。けれども、1971年になくなったサッチモは、今なお現役である。彼の音楽ほど人を勇気づけ、あるいは励まし、楽しい気分にする音楽があるだろうか。彼の音楽を聴くといつも、心がウキウキし、人生は素晴らしい、世界は素晴らしいと思いたくなる。私は、心が風邪をひいた時、ときどきサッチモを聴く。サッチモはいつでも私を勇気づけ、元気を与えてくれる。「この素晴らしき世界」と大きな声で叫びたくなるほどだ。

 このアルバムでは、①「この素晴らしき世界」と⑦「明るい通りで」が特に好きだ。いずれもどこかのライブで録音はかなり悪いが、曲の芯の部分がしっかりと伝わってくる。疲れた心を癒し、人生はすてたもんじゃない、もっと素敵なことがあるに違いないと思わせてくれる。月並みな言い方だが、それは明日への活力といってもいいかもしれない。サッチモは素晴らしい。ここういタイプの音楽家はそうはいない。不遜な言い方だが、その意味でサッチモは今でも「使える音楽家」なのだ。


フォー・クール・ワンズ

2007年08月30日 | 今日の一枚(C-D)

●今日の一枚 196●

Carmen Mcrae

Carmen For Cool Ones

Watercolors0011_3 私の住む街でも、少しずつ秋の気配を感じるようになってきた。私の街の港は「東洋有数の漁港」ということになっているので、もともと海産物には事欠かないのだが、秋はとりあえず、さんまと戻りガツオということになる。子どもの頃からの習性だろうか、この季節になるとパブロフの犬のようにさんまやカツオが食べたくなってしまうのである。というわけで、私の家の食卓には近頃、さんまとカツオが交互に登場する有様である。山育ちの妻は、はっきり言って辟易しているが、仕事帰りに私が買ってしまうのだ。

 カツオとは客観的な関係はないが、今日の一枚はカーメン・マクレエの1958年録音作品『カーメン・フォー・クール・ワンズ』である。ジャケット写真のカーメンがカツオを連想させる。たいへん主観的な感想で恐縮だが、私はかねてより、カーメンの顔を見るとカツオを思いおこしてしまう。カツオを売っている魚屋の女将さんをイメージしてしまうのだ。この作品は、カーメンのデッカにおける第7作目で、初めてのウェストコースト録音だ。室内楽風のエレガンスな演奏をバックに、カーメンがクールに歌いまくるという趣向だ。当時カーメンは35歳、まさに彼女独自の世界が形成されようという時期である。

 カーメンが好きである。といっても、カーメンに開眼したのは比較的最近で、アルバムを収集しはじめたのもここ10年ぐらいである。以前は、ご多分にもれず、エラやサラのボーカルを、すごいすごいといいながら聴いていたものだ。カーメンの歌は何というか、身体にすっと入ってくるのだ。そして繰り返し聴くと、スルメのようにますます味わいがでてくる。サラやエラのように、仰天するようなすごさを感じる訳ではないが、最も身体にフィットする気がする。チャーリー・パーカーを基準にすべてのジャズを評価するというあの後藤雅洋氏も、カーメンを「僕の一番好きなジャズボーカリスト」といっており、何だかほほえましい気になる。恐らくカーメンは多くの人にとって「好きな」ボーカリストなのかもしれない。

 ⑫ I Remember Clifford がやはりすばらしい。私の所有するCDのジャケット帯には、「アイ・リメンバー・クリフォードのヴォーカル・ヴァージョンの決定版がここに!!」と大げさな表現で記されているが、それもまんざら出鱈目ではないと思わせるような歌唱である。ヴィブラートが身体に反響し、胸が、いや血液が共鳴して震えているのを感じる。

 ああ、切ない。胸が震える。やっぱり、秋だ。