第２章 トラキアへ １２７

　二人は、じいっと、互いを見詰め合った。
　『到底、私たちの為せることではありません。何卒、収砦ください。それとともに、今年の収穫のための耕作の件、了承いただければ幸いです。』
　エノゼリアスは、側近のゼレカスと周囲に聞き取れないような小声で、二言、三言話し合って、目線をアエネアスの方に向け、おもむろに口を開いた。
　『承諾っ。アエネアス殿。貴方の申し条、エノス領主としてしかと承諾した。安堵なされよ。それで今日これからポリメストルの砦へ出向かれるのか。』
　『できれば、今日これより、砦の引渡しをしたい。その心算です。』
　『判った。我が方も隊を整えるゆえ、暫時、時間をいただきたい。よろしいな。ところで貴方がたの戦勝を祝って、ささやかではあるが酒肴を整えてある。祝杯を交わそう、如何かな。あ～あ、それから、隊の方たちにも酒肴を楽しんでいただこうと思っている。ゼレカス、小物に言って手配せよ。』
　『お心遣いありがとうございます。喜んでご厚意をお受けします。』