クワガタ~スズメバチ等の覚書

   Photo & Text by こよみ

ゲンシミヤマ・2-形態と生態について

2020-11-23 00:33:51 | ゲンシミヤマ

ゲンシミヤマの形態と生態について

デンティクルスゲンシミヤマ(以下ゲンシミヤマ)の

幼虫飼育に失敗して数か月。

あの奇妙な成虫の形態の秘密が知りたく

初夏に、産卵済み成虫ペアを入手しました。

このペアは前飼育者のもとで二桁の産卵を済ませていたので

更なる産卵は期待できませんでしたがある程度の生態観察なら可能と思い

容器にマットを詰め、飼育を開始しました。

 

↓赤みのある系統 左:オス 右:メス  ミャンマーカチン州産

↓ オス

 

奇妙な性差

ゲンシミヤマといえば他種には見られないオスの頭・胸部にある横筋があまりにも強烈で

ついついそこに気をとられてしまいそうになりますが

よく見るとこのクワガタには奇妙な性差が認められます。

 

↓  左:オス              右:メス

↓  左:オス              右:メス

↑ やや毛深いので涼しく湿度のあるところを好むのか?

↓ オスには頭部と胸部に明瞭な横筋  ↓ メス

 

上画像の通り、これだけ性差があるので直感的には左がオス、右がメスと思えるのですが

細部を見ていくとその形態に少し違和感を感じます。

 

↓ 間違いなく上がオス

 

クワガタムシのメスの大アゴや前脚脛節(注1)の形状は

その種の産卵場所・形態と深い関係があります。

例えば、オオクワガタなどのように朽ち木を削って産卵するタイプなら

大アゴはシャープに見える傾向にあります。

そして、前脚脛節の幅はさほど広くはありません。

一方、マルバネやミヤマクワガタなどのように腐食の進んだ木質や土中(フレーク)に潜り

比較的柔らかい場所に産卵するタイプなら、大アゴは太めで丸みを帯びる傾向にあります。

そして、前脚脛節は先端にかけて幅が広くなる傾向にもあり

土中で活動しやすい形状をしています。

 (注1)前脚の腕に当たる部分

 

↓ミヤマクワガタの前脚脛節の幅 オス=狭い  メス=広い

↓ノコギリクワガタの前脚脛節の幅 オス=狭い メス=広い

↓ヤエヤママルバネの前脚脛節の幅 オス=広い メス=広い

↑ メスの前脚脛節の幅は一回り以上大きなオスに匹敵する

 

上画像のようにミヤマ・ノコギリともにオスの前脚脛節の幅は狭く

メスは産卵のために土中等に潜りそこで活動しやすいよう先端にかけて広くなっています。

このように雌雄行動の違いは形に現れ

これが一般的なクワガタムシの性差の一つでもあります。

 

ゲンシミヤマの場合、オスは大あごが太く、頭・胸部には横筋があり

前脚脛節の幅は、メスのそれより広いのです。

一方、メスにはオスのような横筋はなく、前脚脛節の幅はオスより狭くなっています。

つまり、一般的なクワガタの雌雄前脚脛節形状の違いが

ゲンシミヤマでは逆になっているのです。

 

↓ オスの大アゴと前脚脛節  ↓メスの大アゴと前脚脛節

 

このことからゲンシミヤマオスの前脚脛節形状は「潜る」ということを推察させます。

それは、メスより顕著に表れておりこのおもしろい性差について

飼育すると何かわかるのではないかと考えました。

 

↓ 雌雄ともに体に厚みがあり、飛翔能力は低いと思われる

 

飼育下での観察

飼育下での管理温度は他種との兼ね合いで21度前後です。

容器に詰めたマットはミクラミヤマの幼虫用を流用しました。

 

↓ 底部から8cmほどは、やや硬詰め

 

観察ではオスはあまり地上に出てこず、メスは潜ったり出てきたりを繰り返していました。

それ以外はこれといった変化を感じなかったため

観察途中でマットをかき出し内部の様子を何度か確かめると

底部付近にいくつもの坑道が認められました。

オスは、坑道内で頭を出口側に向けた状態で発見でき

メスは、マット内のどこからともなく出てきました。

 

↓ 底部で坑道がいくつも見つかる

↓ 坑道から出てきたオス

 

やはり、オスの前脚脛節形状は潜るために不利でない形のようです。

今回の観察からゲンシミヤマの暮らしぶりを勝手に考察すると

オスは、土中や腐食した樹木の堆積部等に坑道を掘ってメスがやってくるのを待ち

メスは、オスが作った坑道を利用して土中等に入り込み、産卵しているのかもしれない。

そう考えると、ゲンシミヤマの前脚脛節形状の雌雄の違いが

自然に思えるようになりました。

また、オスの頭・胸部にある横筋も一連の行動と関係があるものと思いますが

にわかに答えなど出るはずもなく観察は終了しました。

 

↑ ↓ 坑道から取り出しても体表はあまり汚れていない(オス)

↓ プリンカップに移すと徘徊を続けるオス

 

最後に

観察した成虫は2020年1月上旬に羽化し、同年6月上旬に活動を開始。

メスは、前飼育者のもとで二桁の産卵をした後

私のところで12日間生存しました(産卵はなし)。

オスは、約1か月生存しました。

 

↓ 8月中旬 メス死亡

 

今回は短い期間の観察でしたがゲンシミヤマの形態と生態について

少し知ることができたように思います。

私の手元にはもう成虫はいませんがゲンシミヤマの奇妙な姿に飽きることができず

新たに幼虫飼育を始めています。

 

↓ ゲンシミヤマ終齢幼虫



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