日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

冬晴れの日の歌、2首

2012年01月14日 | 日記
 年末年始の混雑を過ぎたたころ、用事で空の旅をしました。夕方の便で、西の空が見える窓際の席から、雲海の果てに日が刻々と暮れてゆく様子を見ていました。夕映えの赤みが色を失い、かつ昼間の明るさがまだ消え失せない、ほんのわずかのあいだ、天と地がモノクロの印画のように、世界に張り付きます。雲海の静かな襞が山並を覆い、そのヘリから見える集落には、まだ灯りが点っていませんでした。
 つぎの歌だけを読むと、夜明け方の情景を思い浮かべるだろうと思います。詞書や現代語訳を読み合わせてはじめて、上空からの景色であること、夕方の情景であることがわかります。しかしこの状況説明を短歌に盛り込むのは、字数からしても無理ですので、誤解も可として、このままにしておきましょう。

ほのしろき くものふすまに おおわるる さとのねむりや やままにさむる
ほの白き 雲の衾に 覆はるゝ 里の眠りや 山間にさむる
(夕映えが消え、ほの白い雲が薄べりとなって地を覆うころ、その下で眠っていた山間の里が、やがて灯りを点しはじめて、目が覚めたようになるのでしょうか)

 帰宅後、いつものように、森の散歩を終えて、人気のない広い公園に座っていると、ほとんど風もない中、落葉した木々のあいだから、ときおり鳥の立てる音や小さな草ずれの音が、耳のすぐそばに聞こえてきました。すると、にわかに吹き始めた荒々しい風が、いつ止むともなく吹きすさび、耳を聾しました。

ふゆがれて もだすこだちに ききいるを あれたつかぜの なおふきやまず
冬枯れて 黙す木立に 聞き入るを 荒れ立つ風の なほ吹きやまず
(落葉して音もない木々のあいだから、ときおり鳥の立てる音や小さな草ずれの音が、耳のすぐそばに聞こえてくるのに聞き入っていると、にわかに吹き始めた荒々しい風が、いつ止むともなく吹きすさび、耳を聾しました)

 見入り、聞き入っていると、歌の形をとりやすいような気がします。


***『歌物語 花の風』2011年2月28日全文掲載(gooブログ版)***
***『和歌集 くりぷとむねじあ』2011年10月26日全文掲載(gooブログ版)***

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