『木を植えた男』
ジャン・ジオノ 作
フレデリック・バック 絵
寺岡襄 訳
時おり、開いてみたくなる本です。
自分を静かに見つめ直したい時に。
わたしにとって、この本は、讃美歌のようなものです。
崇高なものに触れられるのです。
荒れ果てた地に、たったひとりで木を植え続け、広大な森を作り出した男の話です。
いつも静かな感動に包まれるのですが、
先日読み返してみた時に、特に心に残ったところがありました。
それは、木を植え続けた男は、その結果や評価を、ほとんど知らなかったということです。
どれくらい広い森になったのか、お役人たちにより“自然”保護区に指定されたことも、ひとびとが驚嘆したことも、男にはわからなかった。
それは、毎日はるか遠方で黙々と木を植え続けていたから。
少しの時間も惜しんで、植えていたから。
自分がよいと信じることを続ける、この強さ。
その奥には、大きな悲しみがあったのですが。
たぶん、それがあってこその、ひたむきな行為だったのでしょう。
実らず、枯れる木も多く、男は希望を失うこともありましたが、
やめなかったのです。
おじいさんになるまで。
男は、幸せだったのでしょうね。
そこまで強く信じ、続けられることがあったのですから。
読み終えるといつも、
さあ、わたしはどう生きよう、
と考えます。
この本を読むと、どんなこともできそうに思えてきます。
結果も評価も、後世の人に委ね、(誰からも忘れられるとしても)、
自分が最善と信じることを、続けていきたい。
そんな風に、このいのちを使えたら、わたし冥利に尽きるだろうな、と思うのです。