チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その53

2013-11-20 19:07:18 | ADHDとともに「君の星座」
 何日かして、ナガタさんの親御さんからも電話が来た。やっぱり、向こうも私との結婚は無理と判断されたらしい。そりゃそうだろ。無茶苦茶だもん、ナガタさんの人生に対する考え方。紙に書けば立派な経歴の人だけど、あんな人についていったら、こちらの人生とんでもないことになる。しかし、びっくりしたなぁ。私以上に世間を知らない人がいるなんて。男の人ってもっと世間を知ってると思っていた。
 医院の近所のコーヒーショップ。ケータイのアラームで意識が戻る。
「お疲れ様です。」
夕方の受付に挑むべく、休憩室に戻ったら、午前のスタッフさんとマエハシさんがいた。
「お疲れさまです。ツキシロさん、今日は夕方もですよね?近所で休憩されてるんですか?」
「はい。家に帰る時間はちょっとないですし。あそこのコーヒーショップにいます。ブログの原稿書いたりして。ハハハ。」
マチダさんと談笑する横から、
「受付の仕事の勉強もしてね。」
マエハシさん!何だよ、何もわかってないアホみたいに!
 腹を立てながら先に受付に下りると、奥さんが。
「あ、お疲れ様です、ツキシロさんも聞いておいていただけますか?このままいくと、受付も手が足りませんので新たに募集をかけました。電話がかかると思いますので・・・」
「はい、わかりました。」
募集かけてるんだ。ということは、私の仕事が減る、収入も。そもそも大した額じゃない。連休があったせいだと思うけど、今月のお給料はやっぱり十万円に届かなかった。週に二日は十二時間勤務、朝六時半には家を出て、夜は十一時半まで帰れない生活なのに。
 本当に、早く何とかしなくちゃ。早く仕事を身につけて、正式な雇用に移らなくちゃ。
「ツキシロさん、入力間違いありました!」
しまった!
「す、すみません!」
「入力直して、患者さんにお詫びの電話入れてください。」
この頃、マエハシさんは別の手に出てきた。お約束の三十秒説教と、
「返事して!」
精神的圧力。その後、
「今の、ノートに書いて!」
 診察券の返し忘れ、カルテを片付ける場所を間違えた。ハンコの押し忘れ・・・逐一突きまわされた挙句、やっと終わりの時間。受付を引き上げようとしたその時。
「ツキシロさん、今日失敗したこと記録しましたよね?それ、全部読み上げて。」
あまりにも屈辱的で声が震えてくる。
「会計のときは・・・返し忘れがないか・・入力は・・・」
「そうでしたね、それ、帰りのバスでも読み返して!」
なんだよ、チクショウ!

 
 

 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その52

2013-11-19 18:32:20 | ADHDとともに「君の星座」
 「じゃあ、私じゃ駄目じゃないですか!」
思わず声を上げてしまい、医療事務という仕事について。
「あの仕事は、お医者さんの秘書みたいなもので、長く働いてくれる人を探されるんです。正直、看護師さんほど転職には恵まれてないんです。もし、共稼ぎするとしたら、個人の医院では時間的に厳しいですし・・・」
ナガタさん、黙って聞いてるけど、どう思ってるだろう?ナガタさんの希望からすると、私はかなり該当しない相手だと思うけど。
 それから、
「私は、中学から私立に行って、そのまま上の高校に上がりました。大学は推薦で行ったのは、実は私、試験とか苦手で。」
しばらくお互いの学校時代の話とかして。そこから、ひらめくように見えた。このナガタさんがどういう人物か。
「ありがとうございました、気をつけて。」
 プルルルル・・・新幹線で帰る道で、今日の話を整理しながら・・・あの人、かなりとんでもないわ。
「ただいま。」
お父さんもお母さんも、夕食の準備に追われている。
「あら、お帰り。どうだったの?」
「うん、一緒にいたのは三時間ぐらい。まあ、ゆっくり話すわ。」
おじいちゃんも一緒に、とりあえず、夕食をゆっくり食べて。それから三人で隣の部屋へ。
 畳に座って、静かに話を始める。
「で、どうだったの?」
「ちょっと待て!ハルカが話すのを待て!」
全くそのとおりだよ。昔からそうだ。何かを言おうと思ったら先に言い出して。そして、口をふさぐんだ。
「あの、結論から言わせてもらいます。私、この縁談はお断りにします。」
「え!」
あれだけ期待してたんだし当たり前だと思うけど、びっくりしてる両親。
「あの人、離婚するわ。」
これは、今日話している中で直感的に感じたこと。
「そう・・・で、どうしてそう思った?」
「学校時代の話しててわかった。あの人、今いるところで一生懸命がんばろうって気持ちがない。もっと上、もっと上って、向上心があると言えばあるけど、あの人は乗り換えることでそれを解決しようとしてる。」
一呼吸置いて、
「ああいう人はね、家族に困難が起きたら放り出して出て行く。もう一回転職するって話だったけど、あの人、新しい仕事決まったら、家族も乗り換えるわ。ケータイ乗り換えるぐらいの感覚でね。」
なるほど、という顔のお父さんお母さん。
 しばらく、状況整理。私の現状、彼の現状、そして、希望。
「そりゃ、無理な話だな。要するに、世間を知らないでめちゃくちゃ言ってるな。」
「そうよね。彼のところに行くには仕事やめなきゃいけないわよね。バリバリ働いてる女性なら、無理よね。もっと転職が簡単な仕事の人か、始めから夫婦別居かにしないと。」
結論として、ナガタさんとの結婚は成立不可能。我が家は三者意見一致で、お断りとなった。
 
 


 
 




ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その51

2013-11-18 21:16:51 | ADHDとともに「君の星座」
 ブロロロロ・・・疲れきった頭に、今日の出来事がループする。マエハシさんが受けた患者さんのカルテなのに、
『やって!』
処理を押し付けられ。会計済みのカルテがたまってきて、会計ノートに記録しようと思ったら、あの人、ノートを引っ張り返して独占するし。今日はかなり忙しかったのに、あの人は一人、でーんと座ったままで命令だけして。それで、奥さんが来たとたんたって、しゃかりき動き出すんだ。腹立つけど、どこの職場にもいる人かもしれない。ほら、仕事しないでずーとシフト組んでたりする人。そういう人でも、クビになったりしないのに。
 十一時三十五分、帰宅。
「お帰り。遅くまでお疲れ様。」
「・・・・・。」
無言なのは、婚活のこと。いい加減うちの親には頭にきている。家を出たら?とも言われるけど、私にはその気はない。
『出ていけ!』
また、フラッシュバックが来た。
 明日はまた祝日。ナガタさんに会いに行かなきゃいけないんだ。新幹線に乗って。夕食、シャワーもそこそこに、明日の準備。
「ハルカ、その赤い発疹。どうなの?薬は飲んでるの?」
うるさい!
 そして、日付変わり朝。
「ハルカちゃん、早いな。見合いか?」
おじいちゃんまで!追い詰められた気分で出かけていく。広いプラットホーム、新幹線。知らない街へ・・・でも、地図ぐらいどこでもあるし。待ち合わせのホテルのロビー。しばらく待っていたらナガタさんが来た。
「こんにちは。」
今日は、不機嫌な様子はない。
「じゃ、お昼行きましょうか。」
今日は私がしっかり、この人が何を考えてるかを聞き出さないといけないんだ。
 お茶をしながら、話を切り出す。
「あの、婚活って、かなり無理ありますよね。始めて同士でであって、いきなり深い人間関係を作っていこうなんて。」
「ですよね。僕の回りも婚活の人多いですけど・・・。」
実際、どのぐらい決まってるんだろうか?しばしの沈黙の後、ナガタさんから口を開いた。
「僕は今、住んでいるところがよくないですから。出来るだけ実家に近いところに戻りたいというのもありますし、もう一回ぐらい転職するつもりなんです。だから、お嫁さんも実家に近いところからもらいたい。」
この辺は普通の話だけど、話に耳を傾けているうちに、だんだん彼という人物が見えてきた。
「正直に言うと、収入も多くないですからね。奥さんはバリバリ働いてくれる人がいいんです。」
え!

 


ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その50

2013-11-17 18:57:27 | ADHDとともに「君の星座」
 いい歳して、家出なんて格好悪いことしないで。だいたい、女の子が夜中に一人で街にいるなんて、いい獲物よ!悪い人に連れて行かれたらどうするの!・・・そういう家出に追い詰めたの、誰だよ!
 連休の間、親とは口を利かず。自室に閉じこもってパソコンやゲーム。ツカツカツカ!お母さんだ。
「ハルカ、ナガタさんと会う日、早く決めなさい。追いかけていきなさいよ!」
「・・・・。」
やれやれ。ケータイを開いて、ナガタさんへのメールを下書きし始めた。
 その前に、また仕事だ。
「おはようございます。」
今日は一日通し勤務。そろそろ半袖のポロシャツ一枚でもいい時期なのにカーディガンを着てるのは、体に出来た赤い発疹が引かないから。お医者さんには悪いものではないといわれたけど・・・。あーあ。この四月から忙しくなって、一週間に三食、つまり、一日は食事を取ってない状態だもの。その上、休みらしい休みが一日もない。
『若いんだから!そのぐらい出来る!』
 受付開始。本格的な仕事の始まり。今日こそは失敗しないように、がんばらないと!
「こんにちは。今日は?」
リハビリ、それだけの人はリハビリ票を渡してカルテにはこのハンコ。診察の人は、注射の人は。保険証が変わった人は。保険会社の書類を持っていた人には・・・間違えないように、一生懸命やるほど、
「受付してもらっていいですか?」
途中で仕事を中断させられて。もう!いい加減にしてよ!
 午前中はアライさん・・・休憩時間、午後診のお仕事・・・夜の十一時十分。こんな時間でも結構、バス停に人がいる。ブルルルル!私のケータイだ。この歌は電話の着信。マエハシさん?!
「はい、ツキシロです!」
『あの、マエハシです。ツキシロさん、夜のゴミ出しですけど、ダンボールが残っていました。』
え!
「そうでしたか!すみません!」
『言ってましたよね、ダンボールのゴミも一緒に出すって。』
すみません・・・ケータイを耳にペコペコ謝って、通話終了。きっちり三十秒の説教だ。
 マエハシさん。午後診の一番の厄介者はこの人だ。そりゃ、出し忘れたことは悪いかもしれないけど、ゴミの出し忘れぐらい、次のゴミの日に出せばすむのに!腹を立てながら、系統番号を青く灯しているバスに乗り込んだ。
 

 
 
 

 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その49

2013-11-16 14:20:20 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、十三歳。中学二年生。
 ナオキの寝息、階段を上がってくる足音・・・あーあ。こんな苦労、誰かにあげたいわね。全くだな。ハルカは何考えてるのか。わかってないのよ、自分がどれだけ幸せかってことが。いい学校に行って、これだけ親に手をかけてもらって・・・どうして。理由もなく殴ってるだけじゃない。勉強が嫌い、部活をしないってすごいつまらない理由で。頭からすっぽり布団をかぶって、唇をかみ締めて・・・

 ネットカフェの深いマットの上で、いつもバッグに入れて連れ歩いているゲームキャラのぬいぐるみを愛でたりしながら、眠れたのか眠れてないのか。今、五月でよかったよ。布団がなくてもなんとかなるし。さて、もうすぐ六時。そろそろ出よう。追加料金とられる前に。外に出ると明るい。だけど、まだ目覚めない街・・・
 九時、十時。だんだん人があふれてきた。連休だし楽しそうな人多いな。反面私は!いつの頃からか、連休が大嫌いになっていた。中学受験の時は勉強させられるから嫌、中学生の時は家にいても怒鳴られたり殴られたりで嫌、社会人になってからは仕事がなくて収入が減るから嫌。そして、今回は婚活。
 あまりうろうろすると、消耗するな。だけど、家に帰る気もしない。デパートも開いたし、中のベンチで休むことにした。あーあ、どうして私は報われないのかな?しんどいことばっかりなのかな?世間の人って、もうちょっと人生楽しんでる気がする。私は小さい時からしんどい思いばっかり。そういう意味では、ナオキも。
 ナオキ・・・今、どうしてるのかな?研究は進んでるんだろうか?博士号は取れそうなんだろうか?兄弟、離れているのにメールもしていない。お父さんお母さんが私の婚活のたびに怒鳴り散らす理由はわかってる。私は仕事が不安定、ナオキはまだ学生で、卒業してもすぐに仕事がない可能性が高い道。親だって、いつまでも生きてはいないから・・・この閉塞した状況を打破する一番手っ取り早い方法が、私を結婚させるということっていうわけだ。
 ナガタさんは、何人目の婚活相手だろうか?もう忘れるぐらい色んな婚活してきたけど・・・繁華街をさまよい、居場所を探し続ける中、ブルルルル!
『今、どこにいるの?せっかくの連休なのに台無しにして!』
お母さんだ。返信せずにメールを閉じた。正直、口を聞く気も顔を見る気もしない。もう二、三日は帰りたくない。連休明けの仕事もこのまま・・・
 やっぱり、そんなこと出来ない。シャワーも浴びなきゃいけないし。
「ただいま。」
聞こえない声でこっそり家に戻った。また次の日付が変わる、直前だった。
 
  

 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その48

2013-11-15 22:10:33 | ADHDとともに「君の星座」
 もう知らない!あんな親なんか!・・・見慣れた繁華街。だんだん日が暮れていく。デパートも閉まって、人気まばらなゲーセンももうすぐ閉店。乗り物ももうすぐなくなるけど。

ケイコ。ハルカちゃん、帰ってこないぞ。どうするんだ?危ない目に遭ったら!

家には帰る気がしない。連休で幸い、しばらく仕事もないし。さて、どこへ行こう?財布の中も一万円ちょっと。銀行から出せなくないけど、手数料取られたくない。ゲーセンを出て、夜中の街。迷った末、二十四時間営業のファーストフード店に入った。
「ハンバーガーとコーヒー、一つずつください。」
 なるべく広めの、目立たない位置のソファに深く腰掛ける。はぁ・・・この二日間の出来事が頭の中をぐるぐる回り始めて。ナガタさんはこれで交際を辞めようって言ったんじゃない!婚活という交際だから、どうするかって!
『いや!彼はもう結婚できる!』
『しばらく田舎に行くぐらい、辛抱しなさい!』
一回目に会う前からそればっかりだった。直接話をしてる私だって、三回会っても何も相手のことわからないのに!たぶん、相手だって。

ドアホ!要するに気が小さい。ドアホ!大した仕事もしてないくせに、プライドだけ高くなりやがって。ドアホ!ドアホ!ドアホ!

「あの、寝ないでくださいね。」
お店の人に声を掛けられてしまった。ここにも長居出来ないか。仕方ない。他を探そう。
 再び深夜の繁華街へ。相変わらず車は通るけど、お店は殆どシャッターが下りて。どこへ行こうか。コンビニじゃ座るとこすらないし。大通りから一筋入った道に、あ、ネットカフェだ。表の看板には料金表。ここなら、朝まで充分過ごせる。
「すみません、初めての方ですね?ご登録お願いします。」
会員登録がいるんだね。免許証持ってよかったよ。機械で手続きして、
「このお部屋お願いします。」
パソコンつきの、横になって休める個室を取ってもらった。館内図を見ても、ネットカフェの中って結構複雑。テレビで知ってたけど、マンガにパソコンにカラオケに、シャワーまであって、ジュースは飲み放題。確かに過ごせる環境だな。
 よいしょ!押さえてもらった個室に入り、しっかりとドアを閉めた。無料のジュースもたっぷり持ち込んで。パソコンでブログの更新だけをして、そのまま横になった。

あーあ・・・

婚活にも疲れたけど、それ以前に親に受け入れられないことに疲れた。疲れたというか、もう悲しい。昔から、私が何を言ってもまず受け入れる人たちじゃなかったけど・・・いや、受け入れてもらわなきゃいけないんだ。そうしないと、たちまち生きられなくなってしまう。大事なのは結婚じゃない、働くということ。なぜ仕事に躓いているかを解明し、手立てを講じる必要性を。

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その47

2013-11-14 19:44:51 | ADHDとともに「君の星座」
 今の子はね、バシッ!甘やかされてるから、バシッ!怒ってほしいんですって、バシッ!恵まれすぎてるのよ、バシッ!世の中はもっと厳しいんだから、バシッ!

 人間って、関わられたように関わっていく。講師時代に思い知った。どれだけ自分は良くしてやるんだって誓っても無駄。絶対に自分がその年齢だった時の嫌なことばっかり思い出す。もし、自分の子がもっと幸せだったら嫉妬やっかみになって・・・私は、子どもに向き合えない。子どもが中学生になったら絶対に無理。それに気づいてから、結婚はやめておこう。その気持ちが強くなった。
 五月、連休の初日。婚活相手のナガタさんと三回目に会う日がやってきた。
『自分らしさなんてものはないんだから!そんなもの、受け入れてもらえないの!』
この言葉も何回目か。心にも体にも釘を刺されながら。今回はナガタさんがこちらに来るって。ブロロロロ・・・ゆっくり目に私はバスで繁華街に出かける。
 約束の時間、約束の場所にナガタさんはいた。
「こんにちは。」
「あ、こんにちは。」
何だろう・・・だいたい、笑顔が多い人でもなければ口数の多い人でもないけれど、今日はどことなくぶすっとしている。予約してくださってたレストランでも、
「今年はちょっと寒いですね。」
「ま、そうだね。」
この程度しか話はなし。どうしたらいいのかな?こちらから無理に話を振らないほうがいいのかな・・・
 それからデパートの喫茶室に移動して、注文したお茶を飲みながら二十分ぐらいして、ようやくナガタさんが口を開いた。
「あの、ツキシロさん。」
「あ、はい。」
「これからの交際のことですけど・・・どうしますか?」
「え?」
「会うのはこれで三回目ですけど、この交際、結論を出すにはまだまだお互い時間がかかる。で、この交際を一度止めて、お互いに他の相手を探すか、それとも、まだもうしばらくこの交際を続けるか。・・・ツキシロさん、結婚は急がれてますか?」
「え?はい。年齢も年齢ですから、ある程度は。」
 何を聞かれているのか、話の真意も理解できず。そう答えるのが精一杯で帰宅。
「ばか者!なんてこと言ったんだ!」
「何も言ってないじゃない!別に、断るって話じゃないでしょ?しばらく時々会うか、会わないか、って話じゃない!」
私の横で、お母さんはオロオロ泣いている。
「ワー!とんでもない親不孝よ、この子は!もう、うちの家もお終いよ!」
 日付変わって翌日も、おじいちゃんが休んでいる別室で。お父さんお母さんから朝から延々と怒鳴り散らされ。
「そこまで言われるんだったら、私、もう、家を出て行く!これからアパート探しに行く!」
「ああ!お前みたいなの!どこでも行ってしまえ!」
言われるまでもないわ!私は最低限の荷物だけ持って、家を飛び出した。
 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その46

2013-11-13 19:15:58 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、十三歳。中学二年生。
 四月になった。もうすぐ新学期が始まる。
「中学だし、クラス替えもあるでしょ?登校しようと思うんなら、今がチャンスだと思うよ。」
お医者さんのアドバイスで、始業式から私は、登校を再開した。確かにクラス替えで、教室に一年の時の意地悪はもういない。だけど同じく、クラスメイトの名前が覚えられない・・・

『あの、合唱部のほうにとお話してましたけど・・・まあ、教室にいかれてますし、好ましいですけどね。』

登校するなら合唱部に入れ。そんな交換条件みたいなことを突きつけられて。中学の先生って変。勉強より部活のほうが大事みたいなこと言う。確かに、教室にもいたくないけど、部活なんてもっと嫌。
『あんたなんか、どこにも就職できないわ!』
あんなことばっかり言われながらいる意味なし。そもそも私、部活と勉強の両立なんか出来ないし。
 一応、朝から教室にいて、授業もそこにいる。自分の席について教科書も一応開いて。
「ツキシロさん!ちゃんと話し聞いてる?」
クスクスクス・・・先生はたぶん、私を心配して言ってる。だって、四ヶ月は学校に来てないんだもん。それでも授業はよくわかる。わかるわからないというより、私は好き嫌い酷いんだよね。国語はまず嫌い。もう一つは家庭科。私、嫌いなことは見向きもしないし、全然頭に入らないんだ。
 担任の、解散の合図と共に、まっすぐに家に帰る。帰ったって、ナオキが塾の宿題やってるし、そんなに休まらないけど。よいしょ!宿題ぐらいなら出来そうな感じ。夕ご飯の後で間に合うか。それまで自分の部屋でゲーム。そこに、お母さんが来た。
「ハルカ、おかえり。ゲーム?」
「うん。ナオキが勉強してるし。」
「・・・・まあ、いいけど。どうだったの?学校。」
「授業は全部受けた。」
 お母さんも、私がやっと学校に行けてよかったと思ったところなんだろうな。優しい口調。だけど、登校すればするほど理不尽な要求を。
「個性なんてものはないんだ!皆と同じ!」
「才能があるんだから、合唱部に入りなさい!」
・・・一体何だよ!才能って個性そのじゃないの?一方では個性はない、一方では個性を伸ばせ?
「ハルカ、いいな、今度の中間テストは全科目百点取れ。百点でなかったら半殺しの目にあわせるぞ!」
 そう、この頃からだった。身を硬くしてじっとしていることが多くなってきたのは。そもそも、体を動かすことが好きなのに。完全に萎縮して。ぴくっとでも身動きしたら、何を言われるか。それが怖くて仕方ないのだ。 


ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その45

2013-11-12 14:21:50 | ADHDとともに「君の星座」
 午後二時。今日は一日通しだから、
「それでは、一度上がらせていただきます。また四時半に戻ります。」
制服のポロシャツから着替えて、足早におかわり自由のコーヒーショップへ。
「ホットコーヒーとクリームパン一つください。」
週に三日は、こんな感じのお昼ご飯。朝と夜はちゃんと食べてるからいいようなものだけど、この頃、確実に痩せてきている。もう、ジーパンのベルトが一番内側でもゆるい。
 向こうの席で、大学生っぽい男の子と女の子が向かい合ってお茶しながら勉強している。楽しげに語り合う様子を見ながら・・・私には、ああして気楽にお茶したりお話したことなんかない。女の子同士でもなかったのに、男の子となんてもっと。私にはきっと、もっと気楽な人間関係みたいなのが必要だったんだと思う。
『お前はもう、友達付き合いなんて年齢ではない!』
ううん。お父さんはいつもそういうけど、人間は段階を経ないといけないと言ってきたのもうちのお父さん。矛盾もいい加減にしてくれ!
 コーヒーカップを投げそうな衝動をぐっとこらえながら、私はクリームパンを一口かじった。とにかく、余裕がない。お金にも気持ちにも・・・ふと、袖の隙間から見える腕が気になった。赤い発疹。何かな、これ。痛くもかゆくもないんだけど。
 うとうとと眠って、夕方四時三十分
「こんにちは、よろしくお願いします。」
今日は、マエハシさんがお休みで、替わりに、アズマさんが来ている。アズマさんは私と同い年なんだけど、生まれ月の関係で私は一つ学年が上って関係で。すごくおっとりした人で、話しやすくもある。ちょっと、患者さんの波がひいた時に、
「ツキシロさん、マエハシさんとはどうですか?」
「え?」
「あの人、きついでしょ?自分は何もしないのに。」
こういう時、本音を言っていいものなのか。恐る恐る返事している。確かに、マエハシさん。自分がやればいい仕事も押し付けるし、皆がばたばたしてる時も、あの人はずっと椅子に座って会計ノートの計算やシフトの調整ばっかりしている。確かに腹が立つタイプだけど、どこの職場にもいる人といえばそうなんだよね。
 アズマさんが、オグラさんと。
「あ、この人、薬の数が違う!」
「ごめん!薬局とご本人に電話するわ!」
ほら、何年か勤めてる人でも、失敗はあるじゃない。大丈夫、私、まだここに来てやっと半年。これからいくらでもやり直していける。大丈夫、大丈夫。




ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その44

2013-11-11 19:14:36 | ADHDとともに「君の星座」
 ナガタさんと三回目の交際日が決まった・・・これでよかったのかな?確かに、まだ断る決定的な理由もないし。といって絶対にこの人という決定打もない。
『何としてもあの人に!』
親から物凄い精神的オーラを押し付けられながら。
 悩みながら出かける仕事。
「あ、すみません!」
処方箋、渡し忘れてた!走って追いかけたり、電話したり。
「受付してもらっていいですか!」
私ばっかり、きつく言われてる。怒られてばっかりいる。
 だけど、こうして繁盛している医院。患者さんも本当に色々で。
「医療券の処理お願いします。」
医療券とは、生活保護を受けてる人が窓口に持ってくる書類のこと。あらかじめ、役所に連絡してこれをもらってから来られるものらしいけど、緊急の場合はこちらから役所に連絡入れて受給者であることを確認し、後で書類をもらう。・・・この書類も結構来る。お年寄りだけでなく、私と同じ三十代の人、学齢期の子どもをかかえる家庭も。
 それ以外にも・・・発達障害じゃないかな?って思う人も結構いるんだ。私、講師経験のおかげでそういう人を見抜く感覚が磨かれたみたいで、こうして受付していてもよくわかる。
 プルルルル!
「はい、ヤマダ整形です。・・・すみません、院長、患者さんからお電話です。」
カルテを出して電話を回す。こちらが伝えたとたん、
「この人おかしい!」
院長まで声をあげている。普通、定期的に診察に来てたら、頻繁に電話で聞きなおすなんてしないものね。
 発達障害は、お医者さんでもその専門の人でないとわからないもの。むしろ、研修を受けたりしてて、教職関係の人が一番知ってるって言うぐらい。うちの院長は整形外科だし、知らなくて当然かも。だから、言ってあげたい。本当にそう思う。だけど、絶対にそんなこと言えない。こういう立場だし。いや、どんな立場であっても。あなたに障害があるんじゃないかなんて、絶対・・・