チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「希望の樹」第9章 人切り包丁 その8

2012-12-02 19:34:33 | 福祉の現場から「希望の樹」
 本当に早いもので。
「もう、二月ですね。」
「ね、本当に早いね。」
頭には、ナツメさんの帽子。
「タマキちゃん、良かったね。良く似合ってるね。」
「本当ですか?」
ナツメさんに、感謝しなくちゃ。
ブロロロロ・・・
 タカモリさんとの送迎。
「サカタニさん、アライさん、アサクラさんは三月末までいるみたいけど、サカキさんは一歩先に辞めるみたいわ。」
そうなんだ。サカキさんは、ご自身の下宿の引っ越しの都合もあるみたい。
「やっぱり、所長ですか?」
「それしかないでしょ。アサクラさんはアカリちゃんの件も怒ってるみたい。」
うんうん。私も同じく怒ってる。
「あーあ。私達も、一日も早く辞めたいね!」
「そうですよね!」
 非公開情報なのに、皆もう知ってるんだな。いずれにしても、私達怒りの会も、全員が無事に辞めるまで、酷い目に会わないように安全に立ち回らなきゃ。ブロロロロ・・・
 「はーい、苺とバナナ、どっちがいい?」
今月の行事、チョコレートフォンデュしてるんだ。ほら、バレンタインシーズンだからね。利用者さんにも、一緒にフルーツを切ったり、缶詰を開けたり、出来る事をしてもらって。
「おいしい!」
チサトちゃん、かなり満足そうだ。
「エミさん、お風呂終わりました!」
はーい!
 後始末に手がかかるのか、所長を含め入浴介助の人は三人ともお風呂場に戻ってしまった。皆から離れてぽつんと置かれてる状況のエミさん。何だか気の毒な気がして。
「お風呂お疲れさまでした。今、チョコレートフォンデュしてるんです。」
車椅子ごと、皆のテーブルに連れていって。
「一口いかがですか?」
ほんの小さなひとかけらを食べさせたその時、
「ゲホン!ゲホン!ゲホン!ゲホン!ゲホン!」
大変だ、喉に詰めちゃった!
「大丈夫ですか!」
背中を叩いて出そうとするけど、駄目だ!その時、
「僕がやります!」
アライさんが来てくれて。喉の奥から、食べさせたものが出てきた。
「はい、もう大丈夫、良かったです。」
・・・良かった。
 本当にすみませんでした。何度も頭を下げて謝る。
「いえいえ。お風呂あがられたら、一番にお茶を飲ませてあげてくださいね。」
「わかりました・・・本当にすみませんでした。」