女帝・卑弥呼をめぐる大発見のニュースが年明け早々、飛び込んできた。奈良県桜井市の桜井茶臼山古墳で、国内最多となる81面分の銅鏡の破片が出土し、卑弥呼が中国に朝貢した「正始元年」(西暦240年)と書かれたと推定される鏡1面分が含まれていた。「正始元年鏡」の国内での出土は、今回を含めてわずか4面。桜井茶臼山古墳のほかは、瀬戸内海岸や東国などの古墳に限定される。卑弥呼は、中国から下賜(かし)された正始元年鏡を重要拠点の勢力に与えて服従させた-。わずかな鏡の破片から、卑弥呼のしたたかな政権戦略がうかがえる。(小畑三秋)
■残り物にこそ“福”
「一度発掘したところをいくら掘り返しても、大したものは出ないのでは」
昨年初め、県立橿原考古学研究所による発掘調査が始まったころ、周囲の研究者から冷ややかな声ももれた。同古墳の調査は昭和24年に行われ、すでに鏡片数十点が見つかっていたからだ。
しかし、いざ掘ってみると、土の中から鏡片が出るわ出るわ-。計331点に上り、研究者の度肝を抜いた。大半が数センチ大の破片だったが、なかでも正始元年鏡は、卑弥呼との関係をクローズアップさせ、まさに「残り物に福」が残っていた。
正始元年鏡といっても、実際に見つかった破片のどこを見ても、「正始元年」の文字はない。見つかった破片は2センチ足らずしかなく、「是」という1文字が確認されただけだった。
この鏡片は本来、三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)と呼ばれ、復元すれば直径20センチ以上になるはずだが、残りの破片はすべて盗掘などで失われた。
橿原考古学研究所がこの破片をコンピューターを駆使して3次元測量したところ、群馬県高崎市の蟹沢(かにざわ)古墳出土の「正始元年陳是作鏡…」と記された三角縁神獣鏡と、「是」の文字の形が完全に一致。これによって、今回の鏡も本来は「正始元年」と書かれた三角縁神獣鏡であることが分かった。
■歴史の証言者
「五尺の大刀二本、銅鏡百枚などを与える。持ち帰って汝(なんじ)(=卑弥呼)の国中に示せ」。魏志倭人伝には、景初3(239)年に朝貢した卑弥呼の使者に対する、中国・魏の皇帝の言葉が記されている。使者は翌年の正始元年、下賜された銅鏡などを倭国(=日本)に持ち帰ったという。
卑弥呼は、中国の権威を帯びた銅鏡を各地の勢力に配布して国内を統治したことがうかがえ、その銅鏡こそが、桜井茶臼山古墳出土の正始元年鏡との見方が強い。
まさに、魏志倭人伝との結びつきを直接物語る歴史の証言者。
正始元年鏡が見つかったのは、大和政権中枢に位置する桜井茶臼山古墳のほかは、山口県周南市の竹島古墳▽兵庫県豊岡市の森尾古墳▽群馬県高崎市の蟹沢古墳-の3カ所で、いずれも当時の都・大和から遠く離れた地方だった。
近藤喬一・山口大名誉教授(考古学)は、この3カ所にこそ注目する。当時の大和政権にとって、朝鮮半島や中国とのメーンルートは瀬戸内海だった。近藤氏は「瀬戸内海航路を確実に掌握するため、山口・竹島古墳の被葬者に正始元年鏡を与えた」と推測。豊岡市の森尾古墳に副葬された点については「瀬戸内海が使えなくなった場合、日本海航路を“保険”として確保するため」とし、「群馬・蟹沢古墳にあるのは、東国を押さえるためだった」と指摘する。
そして今回、桜井茶臼山古墳で見つかった点について「地方に配布する立場にいた大和政権中枢部の人物が保持していたことが、ようやく証明された」と話す。
■白熱バトル
わき上がる卑弥呼フィーバーとは裏腹に、「卑弥呼とは無関係で鏡は日本製」とみる研究者もいる。正始元年と記された鏡が中国で1枚も見つかっていないことなどが主な理由だ。
1月7日、桜井茶臼山古墳出土の鏡ついての発表が行われた橿原考古学研究所での記者会見。
「卑弥呼がもらった鏡の1枚に含まれるのか」という記者からの質問に対し、菅谷文則所長は「正始元年の鏡を見て、ただちに邪馬台国という単語が出てきそうだが、それに踊らされるべきではない」と強調。「正始元年鏡は、倭国の使者が帰国してから、日本国内で作られたもの」とし、卑弥呼が下賜された鏡ではないとの自説を述べた。
桜井茶臼山古墳では、見つかった81面のうち三角縁神獣鏡は26面で、全体の3分の1だった。「王者の鏡にしては数が少ない。三角縁神獣鏡の価値は、桜井茶臼山古墳の調査によって半減した」との意見も出始め、「何でも卑弥呼に結びつけて大はしゃぎするのは、ナンセンス」という研究者もいる。
これに対し、卑弥呼の鏡説を唱える研究者らは猛反発をみせる。「三角縁神獣鏡に描かれた文様の変遷は、中国の出土遺物にみられる文様の変遷と共通している」と客観的な根拠を挙げ、「中国製は揺るがない」と反論。「三角縁神獣鏡を中国製でないというのは、鏡をきちんと勉強していない証拠。荒唐無稽(むけい)な論理だ」と批判するなど、早くも白熱したバトルが繰り広げられている。
60年ぶりの再発掘で見つかった指先大ほどしかない鏡片。卑弥呼の対中国外交や国家戦略を浮き上がらせる一方、考古学者たちの研究者魂を一気にヒートアップさせた。
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■残り物にこそ“福”
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昨年初め、県立橿原考古学研究所による発掘調査が始まったころ、周囲の研究者から冷ややかな声ももれた。同古墳の調査は昭和24年に行われ、すでに鏡片数十点が見つかっていたからだ。
しかし、いざ掘ってみると、土の中から鏡片が出るわ出るわ-。計331点に上り、研究者の度肝を抜いた。大半が数センチ大の破片だったが、なかでも正始元年鏡は、卑弥呼との関係をクローズアップさせ、まさに「残り物に福」が残っていた。
正始元年鏡といっても、実際に見つかった破片のどこを見ても、「正始元年」の文字はない。見つかった破片は2センチ足らずしかなく、「是」という1文字が確認されただけだった。
この鏡片は本来、三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)と呼ばれ、復元すれば直径20センチ以上になるはずだが、残りの破片はすべて盗掘などで失われた。
橿原考古学研究所がこの破片をコンピューターを駆使して3次元測量したところ、群馬県高崎市の蟹沢(かにざわ)古墳出土の「正始元年陳是作鏡…」と記された三角縁神獣鏡と、「是」の文字の形が完全に一致。これによって、今回の鏡も本来は「正始元年」と書かれた三角縁神獣鏡であることが分かった。
■歴史の証言者
「五尺の大刀二本、銅鏡百枚などを与える。持ち帰って汝(なんじ)(=卑弥呼)の国中に示せ」。魏志倭人伝には、景初3(239)年に朝貢した卑弥呼の使者に対する、中国・魏の皇帝の言葉が記されている。使者は翌年の正始元年、下賜された銅鏡などを倭国(=日本)に持ち帰ったという。
卑弥呼は、中国の権威を帯びた銅鏡を各地の勢力に配布して国内を統治したことがうかがえ、その銅鏡こそが、桜井茶臼山古墳出土の正始元年鏡との見方が強い。
まさに、魏志倭人伝との結びつきを直接物語る歴史の証言者。
正始元年鏡が見つかったのは、大和政権中枢に位置する桜井茶臼山古墳のほかは、山口県周南市の竹島古墳▽兵庫県豊岡市の森尾古墳▽群馬県高崎市の蟹沢古墳-の3カ所で、いずれも当時の都・大和から遠く離れた地方だった。
近藤喬一・山口大名誉教授(考古学)は、この3カ所にこそ注目する。当時の大和政権にとって、朝鮮半島や中国とのメーンルートは瀬戸内海だった。近藤氏は「瀬戸内海航路を確実に掌握するため、山口・竹島古墳の被葬者に正始元年鏡を与えた」と推測。豊岡市の森尾古墳に副葬された点については「瀬戸内海が使えなくなった場合、日本海航路を“保険”として確保するため」とし、「群馬・蟹沢古墳にあるのは、東国を押さえるためだった」と指摘する。
そして今回、桜井茶臼山古墳で見つかった点について「地方に配布する立場にいた大和政権中枢部の人物が保持していたことが、ようやく証明された」と話す。
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わき上がる卑弥呼フィーバーとは裏腹に、「卑弥呼とは無関係で鏡は日本製」とみる研究者もいる。正始元年と記された鏡が中国で1枚も見つかっていないことなどが主な理由だ。
1月7日、桜井茶臼山古墳出土の鏡ついての発表が行われた橿原考古学研究所での記者会見。
「卑弥呼がもらった鏡の1枚に含まれるのか」という記者からの質問に対し、菅谷文則所長は「正始元年の鏡を見て、ただちに邪馬台国という単語が出てきそうだが、それに踊らされるべきではない」と強調。「正始元年鏡は、倭国の使者が帰国してから、日本国内で作られたもの」とし、卑弥呼が下賜された鏡ではないとの自説を述べた。
桜井茶臼山古墳では、見つかった81面のうち三角縁神獣鏡は26面で、全体の3分の1だった。「王者の鏡にしては数が少ない。三角縁神獣鏡の価値は、桜井茶臼山古墳の調査によって半減した」との意見も出始め、「何でも卑弥呼に結びつけて大はしゃぎするのは、ナンセンス」という研究者もいる。
これに対し、卑弥呼の鏡説を唱える研究者らは猛反発をみせる。「三角縁神獣鏡に描かれた文様の変遷は、中国の出土遺物にみられる文様の変遷と共通している」と客観的な根拠を挙げ、「中国製は揺るがない」と反論。「三角縁神獣鏡を中国製でないというのは、鏡をきちんと勉強していない証拠。荒唐無稽(むけい)な論理だ」と批判するなど、早くも白熱したバトルが繰り広げられている。
60年ぶりの再発掘で見つかった指先大ほどしかない鏡片。卑弥呼の対中国外交や国家戦略を浮き上がらせる一方、考古学者たちの研究者魂を一気にヒートアップさせた。
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