2008年に運慶作と推定される大日如来坐像が、ニューヨーク
クリスティーズのオークションに出品されることが発表されるや
いなや、国内のテレビ雑誌や新聞やメディアは一斉に
「運慶、米で競売へ!」とか「海外流出の恐れ!」とか
まあ騒ぎ立てたわけであります( ´ω` )
★文化財未指定「運慶」、米で競売へ…海外流出の恐れ
・鎌倉彫刻を切り開いた巨匠、運慶の作と見られ、2004年に初めて紹介された木造大日如来座像
(個人蔵)が3月18日、米ニューヨークで開かれるクリスティーズ社の競売に出品されることが
分かった。
売却の際に国への申し出が必要な重要文化財などに指定されていなかった。落札予定価格は
約1億6000万~2億1000万円。日本側から入札がない場合、彫刻史上、一級の重要作品が
海外に流出する恐れがある。
像高は66・1センチ。ヒノキ材で、表面は金色に仕上げられている。北関東に伝来した仏像
として美術商から入手したという所有者が2003年、東京国立博物館に連絡。エックス線撮影の
結果、底板で封じられた像内に運慶一派独特の形をした木札や水晶塔などが納められていた。
作風からも1190年代の運慶作品の可能性が高いと分かり、2004年、寄託作品として
同博物館が一般公開した。
ソースは古すぎてもう存在しませんでした。
これについてはもともとこの像があったのは栃木県足利市のお寺で
(樺崎寺跡の下御堂(法界寺)の本尊ということなんで寺自体は
現在はありません)足利市民たちが
「流出を防いでほしい!」
と13000人分の署名を集めて文化庁に提出。しかし現行の
文化財保護法では、国宝、文化財以外の美術品の輸出を制限する
ことは出来ません。
渡海紀三朗文部大臣(当時)は
「非常に残念だが(競売を)とめる術はない(;´Д`)」
とあきらめちゃいました。
今は亡き日本画壇の重鎮平山郁夫氏も
「指定外でも、レベルの高いものは流出しないルールも
制度化する必要があるんじゃないの?」
とコメントしてました。
とまあ行政から報道、国民レベルにまで事態は「今そこにある危機」
に大騒ぎしてたわけです。
騒動の発端は個人の所蔵者が、所有していた仏像の鑑定を
東京国立博物館に依頼したことにはじまりまっす。
顕著な運慶様式やX線撮影の結果確認された像内納入物などから
「これ運慶作じゃね!?」
って話になり作品は東京国立博物館に寄託されました。
この間博物館側とか文化庁とか東京都とかが所有者に対して
「買い取りますよ!」という交渉も行われたんですが
いずれも不調に終わりました。一言で言うと金銭的問題
そして所蔵者の意向でオークションにかけられたっつーわけです。
もう大体流れで見ればわかるけど、ようするに所蔵者は最初から
売るつもりで鑑定を依頼してたわけで、上記で言うとこの
運慶ではあっても「国宝」や「文化財」ではないわけですから
それを買い取りたい美術館や文化庁側も大枚をはたくことは出来ません。
運慶だということがわかれば所蔵者としては
「もっと高いんじゃない?」
と思いますが「国宝」や「文化財」ではないので買い取る金額にも
限度があるというわけです。その辺で折り合いがつかなかったという
ことでしょう。
その後の経過は最初に述べたように馬鹿騒ぎ
危機報道から1ヶ月経って、日本中が固唾をのんで
オークションがはじまったわけですが、当然世界中から
応札が相次ぎました。
300万ドルまでは10人以上
700万ドルまでも6人が競りに参加
最後は三越とアメリカの個人との一騎打ちになって
事前にクリスティーズ側は落札予想額として「200万ドル」
を予想してましたが結局落札額は
「1280万ドル」
日本円で言うとこの13億近い取引です。
オークション終了後、落札者は三越ですが三越は代理なので
本来の落札者は?ってことになったとき、宗教法人「真如園」
(真如円は真言宗小野流をベースにした在家教団)
がどうやら落札者であるっつーことや、今後美術館施設を
つくって一般公開をすることを明らかにしたことによって
「危機回避」の安堵感が広がって世論も落ち着いてきました。
今考えてみるとこの一連の騒動ってのは日本および世界が
抱える美術品に対するさまざまな問題を浮き彫りにしたのかなと
私は思っています。
日頃海外で「お墨付き」をもらったもの(村上隆とか草間弥生とか)
を逆輸入することにたいして「よくやった!」と抵抗しない
日本人がここまで運慶に対して「流出許すまじ!」ってムキになった
のですよ。
ここまで盛り上がった理由のひとつとして、実際みたことなんざ
なくても、いいものに間違いない!という判断(停止)できる
「運慶ブランド」
だったということだと思います。
08年の2月11日の読売新聞では
「内外に問わず公開の意思の無いコレクターに
渡らないよう祈るしか無い」
と懸念をあらわにしています。
真如園が落札した後の芸術新潮では
「これほどの仏像がみすみす外国人富豪の家に装飾品に
される可能性にさらされただけでも不快感を禁じ得ない」
とまあ顕著ですね。
美術品の個人所有や売り買いに対するナイーブな感情が
伝わってきます。
美術品というものはすべからく公共の目に観覧されるもんであって
少数の裕福な個人が「ひひひ!」と笑いながら頬擦りするなんて
けしからん!ということを言いたげです。
までも結果だけ見ちゃえば落札者となった真如園と代理人の三越
は、お金は飛んだものの大きく名声をあげて、
出品者には莫大な対価があって、
クリスティーズにも大きなマージンが入って
「関係者はみんなハッピー!」でめでたし
とも言えちゃうのかなという気もします。
ここからは個人的な意見ですが
運慶の作品が1個しかないのであれば、断固として死守するべきだと
思います。
しかしながら日本にありさえすれば良いとは私は思いません。
日本国内にある日本美術で大事にされてない粗末な扱いのもんが
多すぎる現実も見ないと行けないと考えます。
実際この像だって「運慶ブランド」という鑑定結果が出なかったら
騒動にもならないでしょう。
大昔に存在したお寺の本尊がめぐりめぐって美術商から
買い取った人がそれをオークションにかけたという話で
この時点で仏もくそも無く散々な扱いですが....
それを今の日本で「流出許すまじ」という風潮にはならなかった
でしょう。「運慶」ってことがバレなければ
世界中のどこにあるにせよ、その美術品が「大事にされるか」
が第一だなと思うのです。
ミケランジェロの作品が1点日本に存在すれば、イタリアに
行くチャンスの無い人でも、ミケランジェロに触れることが出来る
もっと見たいと思ったらイタリアに行けば良いんです。
現在海外に運慶の作品は一点もありません。
日本の優れた仏像に出会って「もっと見たい!」と
思える外国人が日本を訪れてくれればそれはそれで
良いことじゃないかとも思うのです。
どこにあるかより大事なのはどう扱われるか
だと思います。
事実最後まで競り合ったアメリカのコレクターは保管の条件や
美術館への寄託まで事前に検討した上で応札したと言われています。
アメリカで一般公開するつもりだったということですね。
「コレクターの品格」を問うなら、ここ数年再評価がすすみ
日本美術ブームの先駆けとなった伊東若冲とか有名ですね。
江戸絵画のコレクターとして知られるジョー・プライスさん
なんかは訪れる研究家とか学生(主に日本人)のために
自宅近くにゲストハウスを設けて便宜を図り、
ロサンゼルス郡立美術館には日本作品を展示するためだけの
ギャラリーを寄付。
所蔵品を寄託して、多くの人に江戸絵画のすばらしさを
知ってもらおう!と日本人にもなかなか真似の出来ない
努力を続けてます。
日本にも海外から流出した作品が多く存在しています。
正倉院にはメソポタミアの工芸品がありますし、京都の禅林には
中国からの水墨画がありますし、国立西洋美術館には松方幸次郎
が収集したヨーロッパ美術がいっぱい。
それらの「流出」美術品が日本で生まれ育つ美術をどれだけ
豊かにしてきたかは知らない人はいないはずだと思います。
100年。1000年という長いスパンで見た場合、美術品の
往還は美術史によって、うんと豊かな実りとダイナミックな展開
をもたらしてくれるもんなんじゃないかな~と私は思います。
もし面白いと思ったらポチっとよろしくです(´∀`)