a journal of sociology

社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

パリのテロについて、遅ればせながら雑考

2015年12月14日 | 社会問題
 パリで起きたテロ事件について、遅ればせながら私なりの雑考をしてみたいと思う。

 まずテロの対象について。

 レピュブリックというパリ市街がテロが中心的に起きた場所だが、場所の選び方がフランス社会を対象としたものであることが明確で、それにはかなり落ち込んだ。他方で、サッカーの試合で大観衆がいたパリ郊外のスタッド・ドゥ・ラ・フランスでは、スタジアムの外で爆破があっただけだったのが、対照的だったと思う。

 ただ単に、被害の大きさだけを考えれば、スタジアムを主要なターゲットにした方がより大きな被害を出したはず。これは私個人の勝手な憶測だが、サッカーファンにはアラブ系の住民も多い為に、あくまでも部分的な襲撃にしたのではないかと思う。この点を考えても、実行犯はフランスやヨーロッパで育った人間だと私には思われた。ISが背後にいたのは確かだろうが(治安の悪いフランスでも、さすがにカラシニコフ銃は、手に入れられない)、標的の選び方やその後の逃走を見ても、これは欧米社会の中で育まれた憎悪と無関係ではないと思う。

 私が仏に留学したのは2001年の9.11の二週間前だった。その後、アラブ系の住民に対する差別的扱いは、大変なものだった。パリでは日本人の扱いは、アラブ系の住民とは別物だったろうが。それでも留学当時のパリで知り合った仏海外県の出自を持つ友人からは、パリでのアパート事情について、仏人の私達(アフリカ系フランス人)より日本人の方がアパートが借りやすいのは差別的と言われたことがある(ただし、日本人の仏滞在者は、ものを壊さずアパートをきれいに使うし、騒音も出さないので、貸し手にとっては良い借り手と思われているところもある。ただし、彼女の発言はそれとは別のレベルでしたのだと思う)。

 ただ、私が留学したのは地方都市なので、そうした日本人の待遇はなく、外国人として一括りに差別されたが(苦笑)。移民出自の仏人と同じ待遇をされたという経験は、ある意味よい経験だったが、苦しいことには代わりはなかったが……。それでも、私は留学として滞在したので、期間が過ぎれば帰国できたのだが、仏で生まれたり育ったりした移民出自の人々にとっては、差別は逃れられない厳しい環境だったと思う。

 実際、パリから留学先の都市に移ったばかりの時、ユース・ホステルで滞在をして部屋探しをしている時に知り合った仏育ちのアラブ系の知人は、パリから仕事を探しにその都市に移ってきていたのだが、駅で90分ぐらいの荷物検査をされて、それにひどく憤りを感じていた(まあ、2001年の同時多発テロがあって間もない時期に、大荷物を持って駅に到着したので、わからなくもないのだが)。

 それから14年が経つわけだが、その時期に10代や20代の多感な時期を送ったことを考えれば、彼らが受けた差別がどれだけ深刻な影響を与えたかは、想像に難くない。そうした状況が今回のテロを生み出す土壌になったことを、フランス社会は気づいているのだろうか?

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