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アメフト観戦記や読書日記を綴っていましたが、最近は古墳(コフ)ニストとして覚醒中!横穴式石室をもつ古墳にハマっています。

船を編む

2015-05-24 14:48:03 | 読書日記
 「船を編む」
 三浦しおん 著 光文社文庫

 2012年本屋大賞受賞作ということと、内容が辞書を作成する現場が舞台になっている、また映画も話題になったということでちょっと読んでみたいなあとかねてから思っていたところ、最近、文庫化。これは読まねばいけないということで早速近所の本屋さんで購入、これまた近所の皮膚科で診察を待っている間に読み始める。グッと本の世界に引きずり込まれてしまい、一瞬診察の順番を告げられてもわからなかったほどだ。その後寝食を忘れてと言うと大げさだが、テレビなどを見ることもなく一気に読み終わってしまった。注意力散漫と言われる私としては珍しい出来事ではある。
 物語は、玄武書店という出版社の辞典編集部へ馬締さんは引き抜かれるところから始まる。辞典の編集というのは、考えてみれば当たり前で非常に細かい作業が長い期間をかけて作られる。そのためそれなりに資本力のある出版社でないと難しい。本書でも物語が始まってから、辞典が出来上がるまで14、5年かかっている。それだけ長い時間一つの仕事に打ち込んでいられるというのは大変だなあと思う反面、うらやましくもある。私のお役所稼業が20年を少し超えるが、何年かごとに部署が変わる。一時は、何故か毎年のように変わっていた。なかなか一つのことに長期間集中して仕事をするということがない。だから、こういう作業をうらやましく思うときがある。また、自分自身、昔からこういう仕事に対する憧れもあったりするからなおさらである。
 残念ながら、現実は、組織に中で生きていこうという気があんまりない癖に、妙な人懐っこさがあるものだから意に反して厳しい現場に配属されやすいという状況になっている。角度を変えてみると、それなりに世の中と折り合いをつけてやっているということになるのかな。
 今の世の中、なかなか長い期間をかけて良いものを作ろうという余裕がないのか、そういうものの大切さがわからなくなってしまったのか割とすぐに結果の出るものが良いとしているところがある。成果主義の功罪と言えば言えるような気がする。結果がわからないものに時間がかけられないというところかな。最近は、大学とか研究機関もそんな風潮になっていて、目立つ学問ばかりに目がいっているような気がする。

 辞書を作るってのは大変な作業で、言葉って、言葉があるからこそいろいろな知恵や知識が伝達されていくのだが、意外とその重要さがわかっていなかったりする。色々なものをどの言葉で整理していくのかというのは、人間を形作っている分子みたいなものなんだろうと思う。世界をポジティブな言葉で彩るのか、ネガティブな言葉を当てはめるのかで世界の見方は大きく変わってくるはずである。人と人はその言葉を媒介にして繋がっていくのだが、その言葉がうまく伝わらないから困るんだなあ。自分の想いはうまく届かなかったりする。この小説でも、言葉をどう表現していくのかつないでいくのかということがテーマになっていると思う。
 主人公の馬締さんが、恋人の香具矢さんに恋文を送るのだが、それがなかなか伝わらない。(文庫化に際して、付録でこの恋文が収録されている。)だからこそ言葉は大切なのである。ただ、最近の僕は、言葉が雑になっているなあと思うことしきりではある。

 小説の中でなるほどと思ったのは、辞書を作るのはかつて国家事業であったが、今の日本は民間の出版社が作っているという話。国家が関与するということは、言葉を国がコントロールすることである。そういった社会は果たして健全なのかどうか。同じことが歴史でも言える。国家が歴史書を作る。当然そこにはあるイデオロギーが込められているといっていい。今の日本は、そういった意味では健全な国家なのだろう。

 小説のラストでは、出版社が作る「大渡海」(「船を編む」という書名は、この辞書の名前から来ている。)という辞書が、完成する直前に監修者である松本先生が、癌で亡くなってしまう。そして、その出版記念パーティーに席で松本先生の奥さんからお礼を言われると同時に手紙が手渡される。いい話なんだけども読者を泣かそうとし過ぎではないかと穿った見方をしてしまうおじさんでありました。

 作品に出てくる登場人物が、癖はあるもののみんな前向きでいい人たちばかりが出てきます。そういう意味では、読後よおし、頑張ろうという気になる本ではあります。ちなみに私のお気に入りは猫の「トラさん」ですね。(最近、すっかり半野良の猫がお気に入りだなあ。)そして、小説の中でうらやましいなあと思うのは、アパートの一階部分を蔵書で占拠していること。私の家も世間よりは多く本があるのだが、置き場がなくなって閉口している。今や本は悪者扱い。本を買ってくると必ず置き場もないのにというお小言が・・・。本を好き放題置いておける環境。うらやましい・・・。
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