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外伝 VII 「エリスさん、婚期を逃す。(7回目・表)」

2016年05月08日 15時30分08秒 | ためぞうの冒険・外伝(仮+試しなど。)
 外伝 VII



   貴女のその無垢なる魂が、

   再び、目覚めの迎える時が来る事を信じ、

   
   このような形で、貴女の心を、翼を、

   遥かなる未来へと繋ぐ事を、

   どうか許して欲しい。


   白きつるぎよ、

   我が親愛なる友、『クレリス』を、


   その無限とも言える時の流れに、

   幾度も起こるであろう、

   あらゆる厄災や、争いから守り抜いて欲しい。


   彼女が新たな目覚めを迎える為、

   まだ誕生しているかさえ、分かりもしない、

   未知なる大地への、


   その旅路が、

   晴れ渡る海原のように穏やかである事を、


   ただひたすらに願う・・・。



        - 伝説の時の工神、永遠のアリスの言葉より、抜粋。-



   VII 『白き聖剣。』



 見知らぬ濃い霧の中へと、

 迷い込んだ銀髪の少年。


 その銀髪の少年が、

 深い霧の中を抜けると、


 突然、景色は一変し、

 暖かな陽射しが降り注ぎ、

 木々の緑が、爽やかな模様を描く小道へと続きます。


 その先にあったのは、

 丁寧に刈られた芝生に、石造りの噴水や、

 鮮やかな花々咲き誇る、広い庭園です。


 庭の中央には、大きな二階建ての、

 白を基調とした、美しい洋館が建っていました。


 小道から繋がるように敷かれた石畳の床は、

 館の方へ向かって延びています。

 
 少年は、一旦はその敷地に足を踏み入れるのを、

 ためらいましたが、


 その洋館の前に、

 一人の金髪の少女の姿を見つけると、

 うっかり、その庭園に一歩、

 足を踏み入れてしまいました。


金髪の少女「どなたですか?」


 そう言った少女は、

 腰まで届く、プラチナブロンドの艶やかな髪を持ち、

 その顔立ちは端正に整い、

 淡いピンクの唇と、

 晴れ上がる空のような、

 引き込まれる青い瞳を持っていました。


 その姿は、お人形のように可愛らしいです。


 年の頃は、13~14才。

 絹のような白い肌を持ち、可愛らしいフリルの付いた、

 レース編みの白のワンピース姿をしています。


 その金髪の少女は、

 愛らしくスカートを揺らしながら、

 駆け寄るように、銀髪の少年の方に向かって行きます。


 銀髪の少年があたふたしている内に、

 少女は、あっという間にその距離をつめ、

 好奇心に満ちた表情をして、

 頭一つ高い、銀髪の少年の顔を見上げました。


金髪の少女「私は、『アリス』と言いますっ。」


 元気な声でそう名乗った金髪の少女、アリス。


銀髪の少年「アリス・・・ちゃん?」


アリスちゃん「うんッ。」


 邪王の姉と同じ名前を持つ、金髪の少女に、

 少年は、一瞬戸惑いますが、

 決め付けるような事は悪いと思い、

 平静を装うことにします。


 その金髪の長い髪に、

 柔らかに陽の光を流す、

 少女の表情は、


 まるで子供のように無邪気で、

 疑うという言葉を知らないような、

 純粋な、天使ような姿に、

 銀髪の少年の瞳には映りました。


 先にその名を名乗られたのでは、

 銀髪の少年の方も、

 自らも名乗らなくては、

 という気持ちにさせられます。


銀髪の少年「・・・実は、僕にはまだ、

      ちゃんとした名前がなくって。


      なんて説明したらいいのかな。

      色々、名乗ってはきたんだけど、

      全部、ウソの名前になっちゃうんだよね。


      ・・・うーん。」


 そう言って、少し困った表情になった、

 銀髪の少年の手を、

 アリスと言う名の少女は、

 その柔らかい手で優しく握りました。


金髪の少女アリス「お兄さん、いい人なんだね。

         ・・・ごめんね、困らせちゃって。


         じゃあ、お兄さんの事、何て呼べばいいかな?」


 この愛らしい金髪の少女は、

 彼女なりに気を遣っているようです。

 その繋がれた手からは、温かなぬくもりが伝わってきます。


 ちょっとだけ、

 その優しさに触れた気がした銀髪の少年は、

 金髪の少女、アリスにこう答えました。


銀髪の少年「そ、それじゃあ、しばらくは、

      その、『お兄さん』でいいかな?


      ちゃんとした名前を決めたら、

      その時に、教えるってことで。


      ねっ、アリスちゃん。」


アリスちゃん「はーいっ。」


 うん、と大きく頷いた金髪の少女は、

 銀髪の少年の手を引くと、

 そのまま大きな館の方まで、向かっていきます。


 戸惑う少年でしたが、

 どうしていいかもわからないので、

 彼女をガッカリさせないように、

 その手を引かれるままに、付いて行くことにしました。



 ここで、話は一度、

 邪王アリスとの戦いの場面へと戻ります。


 邪王アリスの造り出した、

 あの闘技場のような箱庭は、

 今はもう、完全に崩壊していました。


 ですが、

 剣聖アレスティルと、

 もう一人の妹の邪王、フェノの手によって、

 事前に造り出されていた、

 代わりとなる防壁の前に、


 外の世界へのダメージは、完全に防がれています。


 ボロボロになった、

 聖剣オメガ・レプカを握り締め、

 石の様に固まっている、銀髪の少年。


 その姿は、まるで抜け殻です。


 少年の身体を守るように、纏われていた光の力は、

 完全に失われていました。


 本来の力を、

 箱庭の崩壊によって取り戻した、邪王アリス。


 彼女の抑えきれない、その憎しみにも似た狂気が、

 この場を、強烈な嵐のように、

 激しく荒らしています。


邪王アリス「おのれッ! おのれィ・・・。


      この身の奥底に、異物が入り込むとは、

      なんと、おぞましき事か。


      グッ・・・苦しい、

      想像を絶する拒絶反応に、

      自我が、崩れていきそうだッ!!!


      ・・・汚さぬ、断じて汚されぬぞッ!!!

      ハァハァ・・・、


      主の意に従わぬつるぎなど、

      このワタクシの力で、


      そこの目障りな、石人形共々、

      二度とは戻れぬ、真なる闇の深淵へと、

      叩き落としてくれるわッ!!!」

 
 取り乱した邪王アリスは、

 腰に帯びたもう一つのつるぎ、

 アダマンレイピアを抜いて、


 その蒼い細身の刀身に、

 彼女の持つ、膨大な魔力を、

 全力で注ぎ込んでいますッ!!


 苦しみに満ちた表情を堪えながら、

 かみ締めたその唇から、

 一筋の赤い雫を、大地へと染み込ませます。


 息も絶え絶え、

 邪王アリスは、こう放ちます。


邪王アリス「苦しい・・・、


      この身の自由を・・、拘束しようとする、

      ・・・呪われた白いつるぎなど、


      ワタクシには、もう無用のもの。


      ククッ・・・、

      このワタクシの最大魔力さえあれば、

      どうせ敵などいないのですからッ!!!」


 その膨大な魔力は、

 邪王アリスの左手にある、

 アダマンレイピアのキャパシティを、

 遥かに超えています。


 アダマンレイピアは、

 その耐久力を超えすぎた力の具現化により、

 大きく変形して捻じ曲がり、


 まるで死神の持つ鎌のような形へと、

 大きくその姿を変えます。


 狂気の鎌の刃先からは、

 刀身を黒一色に包まれていた時の、

 シュヴァルツメイデンのような、

 純黒の雫ではなく、


 限界に達した、その蒼いつるぎが唸りを上げ、

 黒ずんだ錆のように得体の知れない妖気を、

 止め処なく、鎌の刃先から漏れ出させ続けます。


剣聖アレスティル「邪王アリスッ!!


         もしやこの地上で、

         ダークフォースを用いるつもりかッ!!!」


邪王フェノ「やめて、お姉さまッ!!」


 六極の名を冠する者たちの間において、

 交わされていた暗黙の了解。


 彼らにとって、この地上世界は、

 残された、最期の楽園。


 この地上世界において、

 闇世界の力の根源である、


 『ダークフォース』の行使は、


 まさに禁忌の力であり、

 永きに渡りそれを封じ、その意思を貫いて来ました。


 あらゆるもの全てを完封する、

 絶対的な存在の支配下の中でしか、

 制御出来ない、その闇の力の暴走を、


 今の状態の剣聖アレスティルや、邪王フェノの、

 彼ら二人の力を以ってしても、

 喰い止めることは出来ないからです。


 この地上世界は未だ、脆く、危うい状態にあります。

 
 彼らが主神と仰ぐ、

 エクサーと崇められる者だけは、

 その力を備えているかも知れませんが、


 この地上世界には、まったくの無関心で、

 地上など、滅びるならばそれも定めと、

 一切の干渉を拒絶しているといった有様です。


 だからこそ、彼ら六極の神々は、

 自らの拠点を闇世界に置き、

 その配下の魔神たちにも、

 地上への無用な干渉を、徹底して許しません。


 彼ら、六極の神々や、魔神たちが、

 勢力を誇示するその闇世界は、


 安易に用いられた、

 ダークフォースの影響によって、

 世界の大半が崩壊した、光無き世界です。


 彼らの住まう、その闇世界は、

 闇の暴走の力に耐えられる者だけが、

 存在を許されるという、


 争うという目的以外に、何ら意味を持たない、

 過酷な世界と成り下がっています。


 人の身で立ち入れば、

 すぐさま闇の毒牙に蝕まれ、

 瞬く間に押し潰され、

 点となって、消え去る事でしょう。


 狂気に満ちた邪王アリスは、

 その青い瞳をギラつく様に血走らせ、


 ためらう事無く、

 その闇の力、ダークフォースを、

 黒ずんだ鎌と化した得物に、

 注ぎ込み続けますッ!!


   パリーィィィンッ!!!


邪王フェノ「もう、お止めください、

      お姉さまッ!!!」


 邪王フェノの築いた分厚い防壁が、

 ガラスの割れる様な高い音を立てて、

 その一部が崩れ去ります。


剣聖アレスティル(どうすればいい・・・、


         邪王アリスを今、

         瞬間的にダークフォースを用いて、断てば、


         フェノ殿まで、その命が危うくなる。


         一つの命を共有する姉妹・・・、

         知らねば、情けなどかけずに済んだ。


         ・・・いや、言い訳などいらぬッ!!!)


 ですが、剣聖アレスティルのその手は、

 生じた迷いで、つるぎを抜くことが出来ません。


 この争いに関わるには、

 彼は、あまりに善良で実直でした。


 それが、彼の剣聖としての成長を、

 止めている要因でもありました・・・。


 すると、邪王フェノが、

 その細身のつるぎを抜いて、

 禁忌の力、ダークフォースを解放しますッ!!


邪王アリス「フフッ・・・、


      フェノが、このワタクシを拘束する、

      忌まわしき白のつるぎを、


      ハァハァ・・・。

      深淵へと送ってくれるというなら、

      任せてもよいでしょう。」


邪王フェノ「いえ、その白き聖剣は、

      私たち双子の姉妹を、


      いかなる厄災や不幸から、

      守り抜いてくれた、


      大切な、たからものです。


      私が砕くのは、

      その醜く変化した、アダマンレイピアの方ですッ!!」


邪王アリス「・・・なるほど、


      ついに、このワタクシに逆らうだけの、

      勇気を持てたというのですか・・・。


      クックックッ・・・、

      ならばもう、

      最も最強に近い、我ら姉妹に、


      グハッ・・・、ハァハァ。


      この未知なる力を秘めた、白のつるぎは、

      もう用済みだと言っているものだと、


      ワタクシには、聞こえてならないワッ!!」


 邪王フェノの張ったその防壁は、

 音もなく消え去り、


 その持てるだけの力が、細身のつるぎに注がれ、

 次第に銀光の刀身が、闇色に満たされていきます。


剣聖アレスティル「止めよッ、フェノ殿!!


         姉妹同士で、相打つ事はなどないッ!」


邪王フェノ「アレスティル様になら、

      邪王のいない闇世界を、託せると感じました。


      どうせ、我ら姉妹に代わる者など、

      ・・・すぐに用意されるでしょうから。


      お願いします、一度だけ、

      この隔離世界を、何とか維持して下さい。」


 こうして、邪王姉妹の争いが始まろうとした、


 まさにその時ですッ!


 邪王アリスの圧力に、

 軋むように強くその身を押し付けられた、

 緑髪の戦乙女が、


 この閉鎖空間の中に、音もなく忍び寄った、

 影の存在に気付きます。


戦乙女エリス「ル、ルフィアなの・・・。」


剣聖アレスティル「!?」


 そこには、長く美しい桜色の髪を持つ、

 神々しいほどに端正な容姿を持つ、

 麗しい一人の女剣士が立っていました。


剣聖アレスティル「この我が、その気配すら、

         感じ取れないと言うのかッ!!」


 二人の邪王姉妹もすぐさま、

 ルフィアと呼ばれた女剣士の方へと、

 振り返ります。


 六極の神々の中において、

 一人だけ、別次元の強さを誇る、絶対的な存在。


  『美髪王ルフィア』


 神格が第一位にある、

 彼女の姿を目の当たりにする事など、

 滅多にある事ではありません。


 他の全ての六極神を、一手に相手しても、

 その髪を揺らす事無く、

 一閃にて討ち滅ぼすと云われ、


 激しい争いや、時の流れの中、

 幾度も入れ替わっていく、

 主神エクサーに与えられし、

 六極という限られた椅子を、


 一度として、その座を譲る事がなかったのは、

 唯一、彼女しか存在しません。


 無論、彼女を軽んじて挑んだものは、

 一太刀浴びせる事すら許されず、

 その座から、姿を消していきました。


 まさに神の中の王。


 ですが、ルフィアと呼ばれた彼女からは、

 邪王アリスや、フェノの放つ、

 その絶大なる闇の力の顕現、


 ダークフォースが、全く感じられないのです。


邪王アリス「クックックッ・・・、


      神の中の王と謳われての慢心ですか?


      ワタクシを見下し嘲笑うのも、

      ハァハァ・・・、今のうちです。


      理解出来ていないなら、

      その身体に、

      ・・・しっかりと教えてあげましょうネ。


      今、この檻の中で、

      誰が最強であるのかという事をッ!!」


 桜色の髪を持つ女剣士は、

 邪王アリスの言葉に、

 興味すら抱く様子もなく、

 涼しい顔をして、こう言います。


ルフィアと呼ばれた女剣士「お待たせしましたね、


             エリスさんっ。」


 その彼女の、あまりに軽い言葉に、

 戦乙女を演じているエリスさんは、

 えっ!? っと、

 きょとんとした表情をして見せます。


 確かに、

 ルフィアと呼ばれた、その彼女は、

 エリスさんの知る人物だったのです。


 そして、相手にもされなかった、

 錆びた闇を纏う、邪王アリス。


邪王アリス「ゴミのように、

      無様に消えて、無くなりなさいッ!!!」


 邪王アリスは、怒りを露わに、

 邪悪な力を蓄えた、その異形の鎌を、

 ルフィアと呼ばれた、桜色の髪の女剣士に向かって、

 猛烈な勢いで振り下ろしますッ!!


 ・・・刹那、周囲の音が消えました。


 邪王アリスの目に映るのは、

 粉々に砕け散る、その異形の鎌と、


 闇へと還る、ダークフォース・・・。


 邪王アリスのそれを、

 瞬く間も無いほどの剣速にて掻き消した、

 もう一人の、

 桜色の長い髪を持つ、女剣士。


邪王アリス「ルフィアが二人!?


      そんなッ!!」


剣聖アレスティル「一体、

         この場で、何が起こっているというのだッ!」


 新たに現れたの女剣士は、

 抜刀する仕草すら見せる事なく、

 邪王アリスの禁忌の力を封じて見せました。


 この時、妹の邪王フェノは、

 つるぎに纏わせたダークフォースを、

 そっと闇へと還します。


 彼女は、邪王姉妹と剣聖アレスティルに向かって、

 こう放ちました。


桜色の髪の女剣士「我の名は、ルフィア。


         そこに在られるは、

         我らが主、


         『聖王・バルエリナス』様であられるッ!!


         我ら如きが、

         並べる御方ではない。


         皆、控えよッ!!!」


 ルフィアは、

 邪王姉妹と、剣聖アレスティルの身体を、


 その驚異的な、

 これまでに感じた事も無い、恐るべき力で、

 強引に平伏させますッ!!


剣聖アレスティル「何と言う、次元を超えた力・・・。


         これが六極神、

         ・・・第一位の実力だというのか。」


邪王アリス「クッ・・・、


      このワタクシは、今なお、

      その心の奥底を穢され続け、


      その身は、こうも無様に、

      捻じ伏せられるというかッ・・・。


      ・・・グハッ!


      ハァハァハァ・・・、

      許せぬッ!! 決して許さぬぞッ!!!」


邪王フェノ「・・・お姉さま。」


 妹の邪王フェノは、

 これまで見せたことも無い、

 痛みを堪えるような表情を見せ、


 姉の身を守るという一心で、

 その可憐な白い柔肌に、

 幾つもの赤い線を刻みながら、

 立ち上がると、


 強大な相手である、

 ルフィアの前に立ちはだかります。


邪王アリス「な、何をしているのですか、


      フェノッ!!」


邪王フェノ「・・・私は、今までずっと、

      お姉さまに守られて生きて参りました。


      そして、ご承知の通り、

      私たちの命は二人で一つです。


      今、その鎖を断ち切り、

      お姉さまに全てを託します。


      何者であっても、我が姉に危害を加える事を、

      この私は許しませんッ!!!」


邪王アリス「!?・・・、フェノッ!


      今すぐ、お止めなさいッ!!

      これは命令ですッ!!!」


 妹の邪王、フェノの前に、

 とても美しい細工の施された、

 金色に輝く、砂時計が現れます。


 その砂は、全てが微細に煌き、

 七つの輝きを放つ宝石たちの集まりです。


 それはまるで、命の潮流のように、

 金色の砂時計の中に、∞(無限)という流れを描き続け、

 一度として底に溜まることは、ありません。


 それこそ、命の器の呼ばれる秘宝、

  『ジュエル オブ ライフ』でした。

  
邪王フェノ「お願い、ジュエル オブ ライフ・・・。


      私に、一欠片の勇気と、

      その力の全てをッ!!」


邪王アリス「フェノ、お止めなさいッ!


      もういい・・・、

      ワタクシは負けたのですッ!!」


 邪王アリスの叫びも虚しく、


 邪王フェノの持つ、

 ジュエル オブ ライフは、


 大いなる奇跡の力を、この地に光臨させようと、

 その煌きを大きく増して行きます。


 この時、聖王とよばれたバルエリナスは、

 邪王アリスの方を向いて、微かに微笑んで見せました。


邪王フェノ「!? どういう事ッ!!!」


 邪王フェノの意思とは別に、


 ジュエル オブ ライフは、

 その煌きを鈍らせ、


 次第に、その姿を消して行きます・・・。


邪王フェノ「な、何をしたと言うのですッ!!」


美髪王ルフィア「黙れと言っているッ!!


        そなたは、ただ頭を垂れて、

        平伏しておれば良いッ!!!」


 腰に帯びたつるぎに手をかけ、

 眉を顰めたルフィアを、

 聖王バルエリナスが、制止します。


聖王バルエリナス「およしなさい、ルフィアさん。


         姉想いのよい妹ではありませんか。


         それより彼らを、

         その無用な呪縛から、

         解いてあげるのです。」


美髪王ルフィア「ハッ、かしこまりました。」


 その瞬間、周囲を押し潰すような、

 ルフィアの強大な力が、消えてなくなります。


 聖王バルエリナスが、邪王アリスを見つめると、

 彼女を襲っていた、酷い苦痛が、

 ウソのように和らいでいきます。


 そしてそれは、

 今度は、温かなものへと変化していくのです。


邪王アリス「何故・・・こんな。」


邪王フェノ「お姉さまッ!!」


 妹のフェノは、姉のアリスを強く抱きしめ、

 その頬に、一筋の銀光を流します。


 邪王アリスは、この時、

 妹のフェノにかける言葉を持ってはいませんでしたが、


 これほどの安らぎを得たのは、

 その数万年を超える永い人生の中で、初めての事です。


 聖王は、邪王アリスの拘束から開放され、

 立ち上がる緑髪の戦乙女に向かって、

 軽い調子で、こう言いました。


聖王バルエリナス「もうバレてるでしょうけど、


         私、エリスさんの弟さんの、

         山本 貯蔵(ためぞう)君の担任のエリナです。


         この時代に、私の力を持ち込むのに、

         少々、手間がかかりまして、

         ごめんなさいネ。


         ついでに、持って来ましたよ。


         エリスさん、ほら、この上です。」


 そう言って、普段と変わらない様子で、

 さらっと、空の上を指差すエリナ先生に、


 エリスさんも、その場にいた者たちも、

 つられて、夕陽に染められたハズの大空を見上げました。


剣聖アレスティル「なッ! これは、何なのだ!?」


邪王姉妹「私たちが、

     勝てる理由もないハズ・・・。」


 そこにあるのは、

 天空を覆い尽くすほどに、巨大な、

 鋼鉄の天体です。


 その、星とも言える球状の天体は、

 草原の大地を、

 まるで日中のように、眩しく照らし出します。


エリスさん「これって、もしかして・・・。


      えぇーーーッ!?」


エリナ先生「はい、

      オリジナルの機動要塞、フォーリナです。」


 エリナ先生は、本来の力である、

 聖王バルエリナスの力の一部を、

 ルフィアの力を使って再現し、


 遥か遠い、銀河の果てにある、

 エリスさんの本拠地、


 惑星フォーリナを、

 この地へと、星ごと移動させたのです。


エリナ先生「これで、

      本来の力を取り戻していだだけますよね?

      エリスさん。


      いえ、『戦いの女神 ジラ』さん。」


剣聖アレスティル「ジラ・・・だと。」


邪王姉妹「・・・ジラ。」


 六極という神格の座にある三人は、

 その『ジラ』という名に、

 驚きを隠せないでいます。


 かつては、破壊神と恐れられ、

 現在は、戦いの女神の名で伝えられる、

 幾多の戦天使たちを統べし、

 異界の大いなる女神の名。


 その名は、この辺境の世界にも、

 広く伝わっていました。


 その戦いの女神である、

 エリスさんは、

 聖王をしているエリナ先生に、こう尋ねます。


エリスさん「・・・何で、今日のヘアカラー、

      ピンクなんですか?」


エリナ先生「聞くとこ、そこですか?


      まあ、私はバルエリナスである時は、

      あらゆる光を纏うことが出来るので、


      ドッキリ、ルフィアさん!?

      をイメージして、ピンクなわけですが。


      ついでに申し上げさせて頂くと、

      元の世界では、

      もう数か月ほど経過しておりますので、


      春のブライダル特集号のモデルは、

      桜をイメージしたピンクのヘアカラーで染めて、

      きちんと、エリスさんの代役勤めて参りましたー。


      どうか、安心して下さいネッ!!」


エリスさん「あ、あたしの婚期を、

      また延ばす気なのかいッ!?


      せ、折角の、

      またと無いアピールチャンスだと思って、

      恥ずかしいの我慢して、仕事受けたのにぃぃぃ・・・。


      くぅ・・・やっぱり、

      何かしら試練的なワナを、

      無意識に作っちゃうわけね。


      ・・・とほほ。」


エリナ先生「あらまあ・・・。


      ほら、ジューンブライドですか、

      まだ色々とイベントありますよね?


      脱線しないで、

      折角持ってきたんですから、

      フォーリナ、

      ちゃっちゃと、使っちゃって下さいなッ。


      あと、話し方、素が出てますョ。」


 二人の奇妙なやりとりに、

 周囲の者たちは、

 何を言っているのか理解出来ずに、

 深く考え込んでいます。


 何か、きっと理解し難い、

 究極の神の領域の話辺りと、

 勘違いして、


 その、恥ずかしい話に聞き入っています。


エリスさん「・・・。


      (これ以上の醜態を、

       周りのヤツらの想い出メモリーに、

       残してやるわけにもいかんッ!)」


 気を取り直したエリスさんは、

 ワザとらしく、フォーリナの方に向かって、

 右手を突き上げ、


 必要もない、魔法の詠唱的なセリフを、

 ごにょごにょと並べ立てると、

 こう叫びます。


エリスさん「来たれ、神剣ラグナロクよッ!!」


 その言葉を発した瞬間、

 見た事もないような、美しい白銀の鎧が、

 今は、ワンサイズ小さい背丈の、

 エリスさんの身体に、

 煌く魔法のように、装着されると、


 その手には、

 セバリオスが所持する、『神剣・ラグナロク』が、

 握られていました。


エリスさん(クゥーーッ・・・、


      フォーリナ級の初号艦の装備の充実っぷりは、

      マジ、ハンパねーなッ!!


      古蔵(銀河最大勢力の覇王。)に返す前に、

      いくらか、ネコババしとくかね。)


エリスさん「あとで、埋めたの、

      地図とかに残して、掘り出しゃ、

      いいだけだしなぁ・・・。


      ホント、全部、

      最新鋭の物ばっかって、


      アイツどんだけ、カネ持ってんだ。


      ちくしょうッーー、

      うらやまし過ぎるぜッ!!」 


エリナ先生「心の声、もれまくってますョ。」


 フォーリナからの干渉で、

 真の力を取り戻したエリスさんですが、


 その神々しさとは相反して、

 すっかり、うっかり者と化しています。


 邪王姉妹も、剣聖アレスティルも、

 目にした事もない、『神剣』の名を持つ、

 ラグナロクの姿に魅入って、


 エリスさんの痴態など、

 目にも入っていませんでしたが、


 その恥ずかしさに、頬を赤らめた、

 緑の髪の戦女神さんは、


 ううんッ、と襟を正して、

 それなりに格好をつけて見せました。


剣聖アレスティル「・・・我ら如き、

         かの戦女神の前では、

         塵の様なものなのか・・・。


         最強と信じていた、あのルフィアさえ超える、

         洗練された美しい力の波動を、

         この胸の奥底に感じてならない。」


 この時、

 剣聖アレスティルや、邪王姉妹も、

 もはや、彼女たちの前では、


 自分たちが、

 ただの一戦士に過ぎないという事実を、

 思い知らされたその事が、


 実は、心地良かったのです。


 六極の座にある者が背負う、

 その壮絶で、果てしなきプレッシャーから、

 初めて開放された瞬間と、

 言ってもいいかも知れません。


 戦女神の本来の煌きが、

 聖王の拘束をも解き放ち、


 エリスさんのその姿が、

 次第に大人の女性のものへと変化します。


エリスさん(お、乙女の若さ(エナジー)がぁぁぁッ!!!)


 そのあまりの美貌と、

 日輪の如き輝きを、

 長い緑の髪にを揺らすように、撒き散らしながら、

 白銀の鎧を可憐に纏う、

 凛々しい戦女神のその立ち姿は、


 無言のオーラと、

 さりげない眼差しだけで、

 この場に居合わせた六極神たちに、

 強い敬意の念を抱かせるほどです。


聖王バルエリナス「良く見ておくことです。


         あなた達のこの記憶は、

         ルフィアを含め、


         六極神のその誇りの為に、

         この私が、その一切を消し去ります。


         もし、留めておきたいと願うなら、

         その心の奥底に、深く焼き付けるのです。


         これから起こる、その奇跡の瞬間を。」


 戦女神としての記憶・・・。


 その膨大なる経験値を取り戻した、

 エリスさんは、


 この時、この場所に、

 確かに自分が居た事を想い出します。


 空を覆う、フォーリナに蓄えられた、

 膨大なメモリーにより、

 内なる奥底から、湧き上がるように甦る、

 伝説の戦女神ジラとしての記憶と、

 気高き中にも、荒々しさを宿すその魂。


 それが彼女の、

 完全なる覚醒を瞬間を迎えさせるのです。


 そして、

 それと同じくして、

 彼女の雰囲気そのものが、

 一変します。


戦女神ジラ「私は、エルザードという名の世界に、

      名を刻む女神の一人、『ジラ』。


      この世界に、

      戦女神としての、

      最期の使命を果たす為、


      この地へと訪れた。」


 膨大な力を秘めるジラの強い思念の影響で、

 『エリス』という人格は、

 完全に塗り替えられています。


 そこにいるのは、

 伝説の破壊神・・・。


 今でこそ、称号を戦女神と改めてはいますが、

 その戦女神の破壊の力に、

 もはやこの場にて、

 彼女に相対し得る者など、存在はしません。


聖王バルエリナス(流石は、

         ジラさんと言った所でしょうか。)


 実は、聖王バルエリナス自身は、

 今の彼女を、さらに上回る力を秘めていますが、

 この時代に、それを再現する事を避けているのです。


 戦女神ジラは、まだエリスとして、

 この大地に転生していない時代です。


 それ故に、

 この時代に、彼女の命の器は『ジラ』として、

 実在していました。


 逆に、もう一方の聖王バルエリナスは、

 ルフィアと、フォーリナの力を借りて、

 この時代へと顕現しています。


 過去の世界に、

 自身の完全体を持ち込まない聖王は、

 その歴史にあった史実、

 過去への干渉を、


 彼女なりの配慮で、

 最小限度に、留めているのでした。


 紛う事なき、

 オリジナルの心と身体を持った、

 戦女神ジラは、


 課せられたその使命を果たす為に、

 この場所に立っています。


剣聖アレスティル「我がつるぎと、

         同じ名を持つ世界がある・・・。」


 剣聖アレスティルは、

 その手にある聖剣、エルザードを見つめています。


 戦女神ジラは、新緑のように鮮やかな、

 腰まで伸びた髪を靡かせ、


 聖王バルエリナスの方へと振り返り、

 彼女を前に、深く一礼します。


戦女神ジラ「『創世主 アリスアリサ』の、

      使者殿にお会い出来る事を、


      この身に余る光栄と存じます。」


聖王バルエリナス「流石に、貴女にまでは、

         ごまかしきれないようですね。


         ルフィアが私に付き従うのも、

         それを感じたからなのでしょう。


         となれば、

         何を成すべきかなど語らぬ方が、

         宜しいようですね。」


戦女神ジラ「ご配慮に、感謝致します。」


 そう言ったジラは、

 石像のように固まり、

 心さえも失っているような、

 その銀髪の少年の姿を見つめます。


戦女神ジラ「貴方の戦いは、

      まだ続いているのですね。


      待ちましょう。


      貴方のその想いが、

      彼女の、酷く絡まった糸のような、

      強い警戒心を、


      柔らかに解きほぐす、その時を・・・。」


 ジラが、そう銀髪の少年に語りかけた時、

 その表情はすでに、

 戦女神のものでは、なくなっていました。


 この時、聖王バルエリナスは、

 少し後ろめたそうな感情を抱いて、

 優しい笑みを浮かべるジラの方を、

 見つめています。


聖王バルエリナス「ごめんなさいね、エリスさん。


         ・・・いえ、戦女神ジラさん。


         あの、アリスアリサだけには、

         『クレリス』の事を、

         決して、知られたくはないのです。


         それは、この私の見えない背中の翼の、

         その先に繋がる、


         エルザードの複製品として、

         生み出されたエクサー。


           『エルザーディア』


         その彼女を、

         アリスアリサの、あやつり人形としてではなく、

         自我を持つ、一人の女性として、

         目覚めさせたいと願う、

         この私のわがままです。


         だから、貴方に課せられた重要な使命の、

         その本命となる『無垢なる乙女の魂の保護』は、


         きっと失敗する事となるでしょう。)


 ジラは、邪王姉妹の方へ歩み寄ると、

 妹に寄りかかるようにして、

 白きつるぎを、その手から離せないでいる、

 邪王アリスの方へと近付きます。


邪王フェノ「どうか、この愚かな姉に、

      その大いなる慈悲を・・・。」


 そう祈るように、

 懇願した妹の邪王フェノに、

 すでに戦女神としての、

 その凛々しい表情を解いているジラは、

 ゆっくりと、こう返すのです。


ジラ「もうこの場所に、

   争いは、存在しないのです。


   それに、この私の力が、

   貴女がたを超えているのは、

   空に浮かぶ、あの小太陽のおかげでもあります。


   これから、私は、

   女神としての最期の役目に、

   向き合わなくてはなりません。


   願わくば、

   姉上のアリス殿の手にする、

   その白いつるぎを、


   一度だけ、この私の手に、

   委ねては下さいませんか?」


邪王アリス「!?」


 この時、邪王アリスのその表情は、

 まるで、何かに怯えるか弱い少女のようにも見えました。


 ジラの問いに、妹のフェノが頷いて見せると、

 白きつるぎを握り締める、邪王アリスの手を、


 ジラが、その細くしなやかな指先で、

 そっと、柔らかに包み込みます。


 鉄のように冷たく硬直していた、

 邪王アリスのその手は、

 緩やかに解かれていきます。

   
邪王アリス「手に、感覚が戻った・・・。」


 その持ち主を、ジラへと変えた、

 白きつるぎを見上げる、邪王アリス。


 白きつるぎから離れたことで、

 初めて知る、


 その壮大な喪失感に、

 邪王アリスは、心の奥底から震え出します。
 

 ふと、その彼女に、

 空いた左の手を差し伸べる、ジラ。


 邪王アリスは、

 ジラのその手を、強く両手で握り返します。


 手を通じて確かに感じる、

 白きつるぎの、その脈動。


 それは、母の心音が子を落ち着かせるように、

 とても心地よい、安心感を彼女に伝えます。


 邪王アリスは、無言のまま、

 目を閉じています。


 ジラは、妹のフェノを見て頷くと、

 その手を、姉のアリスに繋いだまま、

 白きつるぎとの対話へと、臨みます


聖王バルエリナス(自らの意思で、

         あの『クレリス』を宿すつるぎとの、

         対話が叶うというのですかッ!?


         ・・・それは、超える者のみに許される、

         この私にも叶わぬ、まだ見ぬ遠き夢。


         つまりそれは、


         戦女神ジラが、

         究極の到達点を、知るという事の証明。
        

         ひたすらに封印し続け、

         一度として、己の為に使わなかったと、

         言う事なのですね・・・。


         何と言う、穢れなき乙女の意思とその誇り。


         そして、その役割を終える、

         その最期の瞬間まで、

         その片鱗を、歴史に見せる事もまま、

         役割を、終わろうとしているのですね。


         ・・・私は貴女という方を、

         大きく計りかねていたようです。


         つまりは、

         この心さえも、見透かそうと思えば、

         見抜けた理由ですね・・・。


         ・・・感謝します。


         まだ至らぬ、この身に、

         夢にまで見た奇跡を、

         垣間見るチャンスをくれるという、

         その貴女に・・・。


               『永遠の戦女神、ジラ』。)



 そして、

   クレリスとジラの対話が始まります・・・。


                 そのVIIIに続きます。

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