ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

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数より質だ、という発言の質が問題だ!

2011-02-21 20:46:43 | 社会
人数などを減らしたいときに、人はよく、数より質が大切だという言い方をします。一方、減らされたくない場合には、質はもちろん大切だが、その質を支えるためにも十分な数が必要だといった言い方をします。質と数、どちらが大切だとは言いきれない、微妙な問題です。どちらも大切だ、というのがご都合主義的言い方かもしれないですが、正しいような気もします。要は、両者のバランス・・・

この質と数とをめぐって揉めているのが、フランスの政界と教育界。公務員削減の典型的な対象とされ、急激に減少する教員数。政府側は数より質だと言い、一方、組合を中心とした教師や生徒たちは、教員の数が減れば教育の質も悪化すると訴えています。そこに、サルコジ大統領の発言が、火に油を注いだ・・・14日の『ル・モンド』(電子版)です。

政府と法曹界との対立に続いて、次は教育界。フランスの教員数が国際的に見て著しく少ないことが明らかになった。首相府直轄のCAS(le Centre d’analyse stratégique:戦略的分析センター)によれば、生徒100人当たりの教員数でフランスはOECD(仏語表記では、OCDE)加盟34カ国中最も少ないそうだ。

初等教育(小学校)から高等教育(大学等)までの平均で、児童・生徒100人当たりの教員数、フランスは6.1人。公務員の数の多さで有名なスウェーデンとは比較にならないほどであり、9.0人のギリシャやポルトガルよりも少ない(財政危機も相俟って、この両国に対しては完全に上から目線ですね)。

細かく見てみると、中等教育(中学校・le collègeと高校・le lycée)では7.1人で平均的なのだが、初等教育(小学校)と高等教育(大学等)では児童生徒100人当たり5.0人の教師しかいない。

2003年から2008年までの期間、文部科学関連の公務員は、定年退職した文官の三分の二を占めている。退職者の補充は、文部科学関連の公務員では2003年の110%が2008年には63%に激減している。教員だけに絞れば、2003年の122%が2008年には71%に減少している(ということは、2003年当時は、辞める人よりも採用した人数が多かったということですね。児童・生徒数が増えていたのでしょうか。それが一転、2008年には急減しています。極端な政策転換なのでしょうね)。

実際、2007年から2009年にかけて、初等・中等教育において5万人の教員が削減された。2013年までに、同程度減少されることになっている。しかし、CASはレポートの中で、初等教育と高等教育において他のOECD加盟国よりも教員数が少ない現状を見れば、教員削減は一律に行うべきでなく、初等・高等教育においては削減幅を調整すべきだ、と述べている(政府直轄の機関でも、言うべきは言う。決して、御用機関ではない。いかにもフランスらしいですね)。CASはまた、教員の給与が国際レベルより低いことも指摘している。

一方、サルコジ大統領は、1月19日、教育界へ向けた年頭のメッセージで、教員削減を擁護し、次のようにその根拠を説明している。フランス社会において、われわれは数よりも質を考えるべきだ。1990年代初頭と比べ、生徒数は60万人減っているが、教員は45,000人増えている。教員数ではなく、教育の質と給与の質で対応したい。

しかし、2月11日にテレビ局・TF1のインタビューに答えた際に、サルコジ大統領は、ここ20年で生徒数は50万人減り、教師は34,000人増えていると述べている(1月と2月に語った生徒数、教員数の増減の数字が異なっています。どちらが正しいのか、あるいはどちらもいい加減なのか)。大統領は、数の問題だけにとらわれるのは止めにして、質の問題に取り組もう、と言うに留めている。しかし、来年秋の新学期には、16,000人分のポストが補充されないことがすでに決まっている。

・・・ということで、政府は数より質だと言って教員数を減らし続け、それでいて質の向上についての具体的な政策は語っていない。しかも、教員削減の根拠となる数字が、発言の度に異なっている。単に国の財政赤字の削減のために公務員である教員を減らしているだけではないか、と見られても仕方がないのではないでしょうか。2人退職したら補充は1人だけ、という方法で公務員を削減しているフランス。その結果が教育の質の低下につながっては、禍根を将来に残すことになりかねない。大きな問題ですね。

ただし、国家財政の破たんを救うためには例外なく公務員を削減すると明言し、実行しているフランス。その決断力と実行力は、たいしたものです。称賛に値するのではないでしょうか。公務員削減、無駄の削減による予算捻出と大見得を切っておきながら、結局なにも実現できていない我等が現政権より、ずっと頼り甲斐がありそうです。

ところで、教員の数、日本はどのくらいなのでしょうか。2005年のOECD調査を見てみましょう。『ル・モンド』の記事とは逆で、教員1人当たりの児童・生徒数に関するデータです。数字の小さい方が、数的には恵まれていることになります。

(左=初等教育、中=中等教育(中学・高校)、右=高等教育)
・日本     :19.4  13.9  11.0
・フランス   :19.4  12.2  17.3
・ドイツ    :18.8  15.1  12.2
・アメリカ   :14.9  15.5  15.7
・韓国     :28.0  18.2  ―
・イギリス   :20.7  14.1  18.2
・フィンランド :15.9  13.9  12.5
・スウェーデン :12.2  13.0   8.9
・ギリシャ   :11.1   8.3  30.2
・イタリア   :10.6  10.7  21.4
・メキシコ   :28.3  30.6  14.9

教育においてもそれぞれのお国柄が出ていますね。世界は広い。日本は小学校での教員数が少ないのに対し、中学、高校、大学と進級するに従い学生にとって恵まれた環境になっているようです。日本と同じような傾向にあるのが、ドイツ。さすがエマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)によって同じ直系家族(la famille souche)に分類された国同士です。こんなところまで似ているのですね。

大きな変化ではないですが、日本やドイツと逆の傾向にあるのが、アメリカ。小学校ほど教員数では恵まれています。一方、小学校の教員数が少ないのは、韓国とメキシコ。基本を学ぶ小学校で、はたして児童の指導が十分に行えるのかどうか。それとも、韓国においては、この環境が国民の競争力の源なのでしょうか。メキシコは中学・高校でさらにひどい状況になる。それが大学では恵まれた教員数に。進学者数が少ないのでしょうか。

面白いのは、やはり南欧。小学校から高校までは、多くの教員がいるのに、大学へ行くや一人の教員が多くの学生の指導をすることになる。若年層の失業率が高いために、卒業せず長年大学に籍を置いている学生が多いと、イタリア関連の記事が紹介していたのを記憶しています。そのために数字的にはこのようになってしまうのかもしれません。

教員数と児童・生徒数のかねあい、教育の質、教育に振り向けられる予算額・・・「人」が国の礎なのですから、教育についてはしっかり検討されるべきですね。特に天然資源に恵まれないと言われる日本においては。
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