ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

女の平和・・・21世紀の今も、男は哀しい。

2011-10-09 21:13:24 | 社会
古代ギリシア、アテナイの喜劇作家、アリストパネス(BC446頃―BC385頃)の作品に『女の平和』があります。世界史で習った記憶のある方もいらっしゃることでしょう。原題は、アルファベット表記すれば、“Lysistrate”となります。軍隊を解散させる者といった意味だそうで、紀元前411年に上演されています。

あらすじは・・・
舞台は主人公リューシストラテーの様子から始まる。アテネとスパルタとの間の戦争に明け暮れる男性達に対して、戦争を止めさせようと考えた彼女は、密かに敵味方の女たちに招集をかけたのである。次第に集まってきた女性達に彼女が持ちかけた計画は、戦争終結を要求してセックス・ストライキを行う、というものであった。さらに、アテネの持つ軍資金を押さえるべく、アテネの女たちはアクロポリスを占拠するという。皆は一旦は尻込みするが、戦争終結のためならと互いに誓いを立てる・・・(中略)
多少のいざこざはあるが、男たちの眼は女性の体に釘付けで、うやむやのうちに和平が結ばれ、女性達の目的は達成されたのだった。最後は男女入り交じっての喜びの歌で終わる。
(『ウィキペディア』)

アテナイとスパルタとの間に起きたペロポネソス戦争(BC431―BC404)に、はじめから反対していたというアリストパネスが、男たちに任せていては終わるものも終わらない、女性こそが平和を実現できるのだと、語っている作品です。その手段が、セックス・ストライキ。これは妙案! その後も長く、語られ、話題を提供しています。

例えば、イラク戦争に反対して、2003年3月3日、世界59カ国1,004か所で『女の平和』が朗読されました。実際、セックス・ストを起こそうという議論もされたようです。セックス・ストでもしない限り、男はすぐ戦争を始めたがる・・・

なお、この作品を基に映画化したのが、フランスのクリスティアン・ジャック(Christian-Jaque)監督。1954年に公開された“Destinées,sketch < Lysistrate >”がその作品で、日本でも公開されたようです。このクリスティアン・ジャック監督、人生に7度の結婚をしたそうで、セックス・ストには最初に音をあげてしまうのではないかという気がしてしまいます。それだけ、身につまされる作品だったのかもしれません・・・下種の勘ぐりかもしれませんが。

男に任せていては、戦争が絶えない。暴力に訴えることなく物事を達成できるのは、女性だ。平和を実現できるのは、女性なのだ・・・そうしたメッセージが込められているのではないかと思えるのが、今年のノーベル平和賞。リベリアの女性二人とイエメンの女性一人に、共同で授与されることになりました。女性の立場と人権を守ろうとした、長年にわたる非暴力の戦いが評価されたようです。

人権の国、フランスは三人の受賞をどのように伝えているのでしょうか。7日の『ル・モンド』(電子版)です。

2011年のノーベル平和賞は、7日、三人の女性に授与されると発表された。リベリア大統領のエレン・ジョンソン・サーリーフ(Ellen Johnson Sirleaf)、同じくリベリアのリーマ・ボウイー(Leymah Gbowee)、そしてイエメンのタワックル・カルマン(Tawakkoul Karman)
の三人であり、非暴力による女性の安全と人権のための戦いが評価されたものだ。

エレン・ジョンソン・サーリーフは、選挙で選ばれたアフリカ初の女性大統領だ。10月11日に行われる大統領選挙で再選を目指しているが、前回、2005年の当選でアフリカ初の女性大統領として歴史に名をとどめることになった(アフリカ初の女性国家元首は、ギニアビサウのカルメン・ペレイラ大統領代理だそうです)。しかし、人口400万人のリベリアは1989年から2003年まで続いた内戦で、25万人が死亡し、インフラや経済に大きな痛手を受けている。

タブマン大統領(William Tubman:在任期間は、1944-1971)とトルバート大統領(WilliamTolbert:在任期間は、1971-1980)の下で財務大臣を務めたサーリーフが大統領として目指していることは、債務の解消、復興のために投資を呼び込むこと、そして汚職との戦いだ。この戦いで、彼女は「鉄の女」(Dame de fer)というニックネームをもらっているが、1980年代、ドウ大統領(Samuel Doe)政権時代に2度投獄されている。

サーリーフ大統領と同じリベリア人のリーマ・ボウイーは、内戦を終結させ、女性が選挙へより広く参加できるよう、民族や宗教の垣根を超えて女性を組織化し、動員したその功績が評価された。

リーマ・ボウイーは平和活動家であり、国を荒廃させた内戦に終止符を打つことに貢献した。内戦は2003年にようやく終結したのだった。クペレ族(Kpellé)出身の40代であるボウイーは、その非暴力運動で有名になり、国際的には「平和の戦士」(la guerrière de la paix)というニックネームでも知られるようになった。

戦争の鬼たちに対し、リーマ・ボウイーは祈りに頼る方法を用いた。彼女は女性たちに同じように祈ることを勧めた。宗教に関わりなく同じ目標に向かうことを示すかのように、彼女は白い服をまとっている。女性たちの運動は大きな広がりを示し、そして、セックス・ストにまで発展した(現代版『女の平和』ですね)。そして、ついに、チャールズ・テーラー大統領(Charles Taylor:在任期間は、1997-2003)は女性たちを平和交渉に参加させることにした。

「リーマ・ボウイーは、単なる『勇敢な女性』では片づけられない。『嵐』(tempête)のチャールズ・テーラーに立ち向かったのであり、大統領を和平へと向かわせたのだ。その間、男たちはと言えば、自分の命を守るために逃げ出していたのだ」と、45歳の公務員、ネイサン・ジェイコブス(Nathan Jacobs)は語っている。今回の受章の知らせに、ボウイーは「アフリカ女性のため授与されたノーベル賞だと思う。女性、中でもアフリカの女性が受賞したものだ」と述べている。

イエメンのタワックル・カルマンについて、ノーベル賞の選考委員会は、「アラブの春」以前から平和、民主主義、女性の権利のために運動を行ってきたことを称賛している。選考委員会は、三人の女性に与えられた賞が、多くの国々で加えられている女性への抑圧に終止符を打ち、女性が平和と民主主義のために大きな役割を演じることができるということへの理解を広める、そうしたことの後押しができればと願っている。

三人の受賞に対しては、レフ・ワレサ(ヴァウエンサとも表記、Lech Walesa:ポーランドの元大統領、ノーベル平和賞受賞者)をはじめ、アラン・ジュペ(Allain Juppé:外相)、アンゲラ・メルケル(Angela Merkel:ドイツ首相)など、多くの要人からの祝福が寄せられている。目下のところ、反対意見は、唯一、サーリーフと大統領選挙を戦っているウィンストン・タブマン(Winston Tubman:ウィリアム・タブマン元大統領の孫だそうです)から出されているだけだ。彼は、「サーリーフはノーベル平和賞に値しない。なぜなら彼女はこの国で暴力による政治を行っているからだ。今回の受賞は受け入れ難く、価値のないものだと言わざるを得ない」と語っている。

・・・ということで、アリストパネスの『女の平和』から2,400年以上が経過しても、やはり男たちは戦争に明け暮れ、平和は女性の手によって回復される。それも、セックス・ストライキという、今も変わらぬ方法で。

女性は賢く、男は哀しい・・・すぐ力に訴え、殺傷を行うくせに、セックスができないだけで、すぐに矛を収めてしまう。♪♪人は哀しい、哀しいものですね~、と美空ひばりが歌っていましたが、「人」を「男」に替えると、さらに切実になってきますね。しかも、♪♪人はかよわい、かよわいものですね~、の部分も「男」に替えれば、さらにぴったり。願わくば、女性たちが、♪♪「男」はかわいい、かわいいものですね~、と歌ってくれること。

祝ノーベル平和賞受賞。女性、万歳・・・であります。
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