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The Sword 第三話 (1)

2010-03-01 20:01:56 | The Sword(長編小説)
「洋ちゃん!もうずっと一緒よ!色んな嫌な事があったけどみんな忘れてずっとずっと」
そういった瞬間に、一道が見た地獄の光景が呼び起こされる。
「そうだよ!姉ちゃん!僕らは永遠だよ!」
前の姉と弟が裸で、くっついてクルクルと舞っていた。動きは美しいのだが一道は地獄を見る思いだった。
「やめろ!俺はそんなもん見たくない!やめろ!頼むからやめてくれ!!」
「ははははは!洋ちゃん!」
「ははははは!姉さーん」
一道の叫びが届かぬまま、二人は一道の周りをグルグルと舞い続けていた。
「やめてくれって言っているだろう!」
ガバッ!!
一道は飛び起きた。汗だくで、Tシャツがベタベタになっていた。
「はぁ・・・何でこうも同じ夢を見る?もう良い加減にしてくれよ・・・」
1週間という時間が過ぎたのであるがまだあの時に感じた物が鮮烈なまでに一道の頭を揺さぶる。一道は戦慄を覚えていた。
「大丈夫かいちどー?それにしてもまたその夢か?」
そこはまだ真っ暗であるのだが慶が話してきた。どうやら起こしてしまったらしい。
「ああ・・・悪いな。起こしちまって・・・」
「そんな事は気にするな。俺だって似たようなの見るけども・・・お前ほどうなされるほどじゃないけどな」
慶があの姉に致命傷を与えたのに対して一道は非常に浅かった。同じものを見たというのに、この差は一体何なのか分からなかった。
「お前は手加減しようとしていたみたいだが俺は夢中だったからな・・・」
やられそうになっていた一道を守る。その一心さが姉の思念を防御したのかもしれないがそんな事は断定出来る訳ではない。
『冷静であろうとした俺が悪かったのか?』
「いちどー、悪いな。だけどよ。夢に出てくるなって言う訳にもいかないからな。話を聞いてやっても代わってやったり、アドバイスしてやったり、重みを軽減する事は出来ない。頑張って耐えてくれ・・・」
「謝るなよ。慶。寧ろ謝るべきなのは俺の方だ。始めは俺がやった事にもかかわらず無関係なお前を巻き込んでしまったんだからな・・・本当に悪い・・・」
「気にするなって言っているだろうが。そのおかげで俺とお前はまた同類となる事が出来たんだ。実を言うとな。お前が急に光の剣を出せるなんていうから俺はお前が離れていくと思ってちぃっとばかり不安になっていたんだぜ。嫉妬というのもあるかな?だけども今は俺とお前、こうして2人とも光の剣を使えるようになったわけだ」
慶はナイフ程度に剣を手から発生させた。二人はあの後、光の剣を出す練習をしたのだ。それでようやくコツを掴み、自由に出せるようになったという訳である。
「ああ・・・ありがとう」
そう言ってくれる慶に感謝していた。だからこそ大切にしなければならない唯一の親友であると思えた。早朝、辺りが少し薄暗くなってきた。まだ朝早いので眠る事にした。

二度寝をしたものの悪夢にうなされた事もあって、朝はあまり体調が優れなかった。体にだるさを感じる。だるいから学校を休むなんていう人が結構いるが、そんな理由で学校に行かないのではこの状態に負けているという事になるので、気合を入れて起き上がり、洗面所に向かい、蛇口をひねって水を勢い良く顔にぶっかける。
「よし!!今日も1日がんばってみるとするか!」
何度か水をかぶってタオルで拭く。少しだけだが、だるさが水をかぶったことによって流れていったような気がする。それでようやく1日の始まりだと実感した。それで朝食をみんなで取りあわただしく、歯を磨いたり準備をしたり、ドタバタとうるさい。廊下や階段は狭いので中学生以上の体格になるとすれ違いは結構大変である。
「ちょっと危ないからどいて!どいて!」
施設の女子高生3人組が順番に階段から降りてくる。大和は上っていたのだが・・・
「青!白!シマシマ!」
大和が3人を見上げながら大声を上げた。
「えっ!?」
3人は階段の途中でお互い顔を見合わせた。小さく頷く後ろの2人。
「見たの?」
一番先頭の綾は不気味な笑顔で大和に聞く。
「見えた」
悪びれもせず言う大和に少々、腹立たしく思えた。
「しょうがないじゃない綾。大和はまだ4歳なんだし、まだそういう事も分かんないよ」
一番後ろのこのメンバーでは一番年長者である高校3年の姫子があまり事を荒立てないようにしていたが先頭の高校2年の綾は少々怒気を含んでいた。
「そういう事って何だ?何だ?何だ?」
そこへ、慶が現れた。興味津々という風に聞いてきた。これが他人であればセクハラに該当するだろう。
「アンタは知らなくていいの!」
「そう言われると余計気になるじゃないかよ」
「ああ!もしかしてアンタが大和に命令したんじゃないの?」
「命令って何をだ?何をだ?何をだ?」
「うぅ・・・」
慶自身、相手をからかう技術を心得ているようであった。
「エロい事をよ!」
「な!?俺がこんな穢れを知らない純粋な子供にそんな事させるかよ!それにエロい事って何だ?具体的にどんな事だ?」
「くぅ・・・」
慶をにらみつける綾。階段で醜い言い争いが始まろうとしているときに、真ん中の高校2年の光が小さくこう言った。
「遅れるよ」
「え!やっばーい!もうこんな時間!こんなエロ馬鹿に構っている暇なんてなかったんだった!どいて!どいて!」
3人は駆け足で走っていった。慶も狭い廊下を壁にくっつくようにして避けてあげるのだが綾はキツイ視線を慶に向けてから抜けていった。
「青!白!シマシマ!」
「何?青!白!シマシマ?シマシマ?」
慶がそのように言ったので大和もそれにならって大きな声で同じように言った。
「慶なんか死んじゃえーーー!」
綾の声だけが良く聞こえた。
「行ってらっしゃい!本日、ブルーさん!!」
負けないぐらいの声で慶が笑顔で叫んでいた。特に注意しないのはいつもの光景だからだし、そこまで怒る事でもないのだろう。

一道と慶は幼稚園の大和と勝をバス停まで送る。子供たちは2人で追いかけっこをしていた。
「気をつけろよ!車とか自転車とか朝は急いでいる人が多いんだからな!」
慶が注意するが2人は聞いていない。最終的に自分たちが監視しているしかないだろう。
「それにしても敵ばかり作ろうとしてないか?慶」
「敵?」
「朝のことだよ」
「ああ・・・俺は注意してやっているだけだよ。あんな格好で歩いていたら男から見ればアイツを軽い女って見る奴は少なからずいるはずだ。そういうのは良くないだろ?同じ施設の人間としてはさ」
「それはわからなくもないがけどよ。言い方ってものがあるだろ?」
「アイツが喧嘩腰に言って来るんだから仕方ないだろ?おい!何をやっているんだ?ってお前ら!」
それを煽っているのは慶自身なのだが・・・慶は子供達の行動が気になったらしくそちらに歩いていった。
「ハハハハ!慌ててる!慌ててる」
「面白い!面白い!」
2人は細い棒切れを蟻の巣に差し込んでいたのでそれを引き抜いた。
「お前ら、可哀想な事をするなぁ・・・こんなに小さく弱い蟻が必死になって餌を取ってきて子供を育てようとしているのに、それを届けさせないようにする。お前ら蟻の子供たちを皆殺しにするつもりか?」
「皆殺し?え?みんな死んじゃうの?」
勝の目はとても澄んでいてそれが射るようにしてこちらを見ている。荒んだ人間にはこの視線は痛いとさえ感じるだろう。
「そうだ。こんな強い力で棒を差したら、蟻達には抜けない。そうしたらどうなる?巣の中の蟻は全滅だ。みんな死ぬんだ。お前の所為でな。だから、弱いものいじめはやめるんだ。男なんだからな。弱い奴には優しくしてやるもんだ。分かったな」
1つの出入り口を封じられたとしても別のところに出入り口を作るだろう。そう言う事を言うよりは死ぬと言った方が分かりやすいと思ったのだろう。
「はーい!」
「良し!」
慶は親指を立てて答えた。このように言っていれば施設の女子達にも反感を抱かせることなどないのにと思う。子供達をバス停まで送り、それからまた歩き出していた。そんな時に慶はおかしなメロディーを口ずさんだ。
「ブルー!ホワイト!・・・アイランドアイランド!」
「アイランドアイランド?それじゃ、柄の縞じゃなくて佐渡島とか大島の島じゃないか?」
「別にいいだろ?細かいことは気にするな。ハッハッハ!」
一道は半ば呆れながら言っていた。英語で縞々が分からず、少し間を置いて島という意味を持つislamdを2度、言う慶であった。ちなみに縞模様はStripeである。

学校に着いて授業を受ける一道。今日は体育であった。
カキーン!
甲高い音と共に、白球が飛び、バウンドしながら転がっていく。
「おおお!いちどー走れぇぇ!」
一道はバットを放り投げ走った。センターを守る少年が転がってくるボールを取ろうと股を開いたが飛ぶ速度に恐れてしまった為に、たまは後方に転がっていった。
「ビビッてんじゃねぇよ!馬鹿!ゲートボールのポールにでもなったつもりか!」
一道はベースを踏み、方向転換をする。後方に転がったボールは網にぶつかって勢いを失った。ボールが取れなかった少年が大慌てでボールを取った。
「バックホーム!!」
前方から叫ばれる声と共に、ボールを投げたがひょろひょろ玉でしかも右側に大きく逸れていった。ボールが届くわけもなく、体育倉庫の脇の方に入ってしまった。
「馬鹿野郎!何だそのへなちょこ球は!」
そう言っている前に、一道は悠々とホームベースを踏んでいた。今は、体育の授業中でソフトボールを行なっていた。特に授業らしく技術を教えているという事ではなくクラス内でチーム分けして試合をしているだけである。この学校の体育は柔道に関してだけ評価するもので後の外や体育館では出欠を取って後は好きにやらせているのだ。では、柔道に出ていれば良い成績を取れば良いという事になってくるが、出欠が評価に影響してくるのだ。割合は柔道が5、出欠が5といった所で体育に皆勤を取れば、柔道がいくらダメでも赤点にならないという事があるので、決して出欠をする事も侮ってはいけない。参加する事に意義があるという学校の方針らしい。
「よーし!いちどー!この調子で行くぞ!」
ランニングホームランを決めた一道は他のチームメイトの手をパンパンと叩いていた。
「おい!お前、ボール避けんなよ」
「そんな事言われたってバウンドする球がグローブを弾いて体に当たったら痛いじゃん」
「硬式より軟らかいからソフトボールなんだろうが!当たっても大して痛くねぇよ」
「でも、いくらソフトボールでもあの勢いで当たったら痛いよ」
普段、体を動かさない生徒もいるからボールを取れなかったことをあまり責めるのは酷というものであったが、素直に謝らないからこそ、怒りも生まれてくる。
「それでもがんばって取るのが男って奴だろ?」
「僕は、野球なんか出来ないんだよ。だから、しょうがないじゃん。君とは違うんだよ」
君とは違う。それがいけなかった。言われたほうは一気に詰め寄った。
「何なんだよ。お前、その態度。逆ギレか?しかも何それ?俺は勉強しているから体育が苦手だからしょうがない。お前は体を動かす事しか知らない馬鹿なんだよみたいな言い方」
さすがにピッチャーの少年の雰囲気がさらに悪くなり、それを察した少年は後ずさりした。
「そ、そんな事は言ってないだろ?」
「おいおい。喧嘩はやめろ。先生も見ているんだしよ。試合を続けねぇとな?」
他のクラスメートが怒った方を宥めに行く。一大事には至らなかった物の、野球少年は運動音痴を小さくにらみつけていた。
「ったくよぉ・・・何でスポーツは出来なくても不得意だからとかしょうがないで許されるのに勉強は許されないんだよ。納得行かねぇよな・・・体育は評価が一つで、勉強は幾つもある。球技や水泳や陸上とか色々分かれていたら俺はアイツに勝って学年上位に入るのによ・・・」
運動少年はボヤきながら再び、ボールを投げて、今度は三振に取る程の腕前を披露した。彼は頭の良い奴を目の敵に傾向が強い所がある為に、強く絡んだのだろう。
「あいつの球良く打てるよな?いちどー。剣道やっていたんだろ?」
友人が軽く尊敬のまなざしで話しかけてきた。一道は軽く手を振り大したことはしていないといった印象である。
「剣道の要領って訳じゃないんだけどな。何か棒状のものを持つと気合が出るみたいだな」
「だったらよ。俺にもそのテクニックを教えてくれよな。一発デカイのを打ちたいからな」
「そうだな。バットの握り方とか動きの無駄の無さとかだな・・・」
「ハッハッハッハ!いちどー。お前、何かエロイぞ」
「は?俺は真面目に教えているだけだぞ」
一瞬、何を言っているのか分からなかったが、すぐに分かった。下ネタに解釈されていた事を・・・慌てて否定するがと誤解されたままだ。こういう時母親がいると妙に気恥ずかしい。男子と女子とでは体育の内容が異なり、女子は近くにいない為に、下ネタなど下品な事を平然と言う奴はいるし特に体操着の女子の姿を見た瞬間、品定めをしている輩は多い。だが、一道にはそばに母親がいる。その事を知らないから男子は好き勝手に言う。そのことに母親は少々、辛いのだろうと思う。だが、下ネタを嫌いではない一道自身もいた。

体育の授業が終り、教室に戻って着替えた。それから食事の時間である。高校での食事は弁当である。学食や売店があるがそこで買うとかなりの出費になるからという事で施設のオバちゃんが作ってくれるのである。勿論、タダと言うわけには行かないが200円で良いので世間と比べれば非常に格安である。他のクラスメートなどは母親が作ってくれない所もあって、羨ましがられることは多々ある。
「いいよなぁ。うちの母ちゃんは500円で好きな物食えって言うんだよ。俺が食いたいのは弁当なんだって・・・この500円返すから弁当作ってくれっていつも思うぜ」
手作り弁当の魔力だろう。それほど手を込まなくて残り物ばかりでも良いのだ。手作りのお弁当を食べたい。子供達の密かな願望だろう。高額の弁当代をもらって最初のうちは旨い物を食べて満足するが、後々になって弁当を持ってきている人が何故か少し羨ましくなる。そんな感覚。
「お前の母ちゃんにも都合があるんだろ?」
「寝てるだけだよ。酷い時なんか朝食もコンビニで買って食えだもんな」
呆れ顔で言っていたが、結構、応えているのだろう。話を替える事にした。
「昨日のテレビ、あれが面白くなかったか?」

昼食が終わり、教室に戻って、トランプでゲームをする。大貧民など大人数で出来る物だ。話しながらゲームを興ずるのが彼らの昼休みの過ごし方であった。時々、体育館に行ってバドミントンやピンポンなどの屋内スポーツを興じている。ドラマや映画などのように充実した毎日など送っている生徒などほんの少しで後はこんな大した事にもならない青春を送っている人が殆どだろう。大体の生徒は大事でもない事を積み重ねて生きていく。そのまま大人になって過去を振り返ったとき、何も思い出せないというのはあまりにも悲しいのだが、本人はそんな事を全く思わず、ただ無駄に毎日を過ごしていく。そして後悔するのだろう。あの時、ああすれば良かったと・・・

午後の授業を終えて、ホームルームになるまでの短い時間。
「おい。いちどー、今日、暇だろ?」
一道の友人の沢 竹伸が声をかけてきた。大工の息子で、自分のうちの家具は自分で作らせるという事を父親からさせられており、手先は器用である。
「まぁ、今日はバイトが無い日だが、何だ?ノブ?」
他の友達からは『タケ』といわれる事が多いがそうすると一道の苗字である「タケダ」と同じになってしまうので『ノブ』と呼ぶ。
「だったら」
「今日はパス」
即答である。でも、そんな素っ気無い一道のリアクションは分かりきっているので沿う簡単に引き下がる物ではない。
「おいおい!まだ何も言ってないだろうが!それに今日はパスじゃなくて今日もだろうが?相変わらず付き合い悪ぃなぁ。お前」
「仕方ないだろ?金がないんだよ。金が・・・どうせ、お前との遊びとなるとカラオケかゲーセンかバッティングセンターか金がかかるもんばっかじゃないかよ。だから行かないっていうだけだよ」
「だったらタダならどうだ?」
「タダ!?」
タダより高い物はない。タダという言葉を聞いただけで何故か嬉しくなる性質が一道であった。だからと言って、すぐに乗ってしまう一道ではない。結構、用心深いのだ。
「そうだよ。タダ。それだったら行ってもいいだろ?」
「何か裏があるんじゃないのか?おいしい話には必ず裏があるってな」
「裏なんてねぇよ。ちょっと面白い物が手に入ったからお前もどうかなって思っただけだ」
「面白い物?」
財布からパッと取り出された紙切れ。コンサートや野球などの招待券に見えた。
「コレだよ。コレ」
竹伸が出している紙切れに書かれている文字を読んでみた。
「佐久間 朋子の占い無料券。ふーん・・・」
特に驚く様子も見せず、興味すら湧いてないようであった。
「ふーんってお前、知らないんじゃないか?佐久間 朋子っていうのは市内では有名な占い師だぜ!近いうちにテレビにも出演するって話を聞いたしよ」
「へぇ・・・全く知らないな。そんなに凄いのか?」
「俺だってまだ占ってもらった事はないから分からないけどよ。何だか占った人の過去を当てまくるらしいんだよ。100発100中って噂だ。人の過去が見えるんじゃないかって噂だ。それを踏まえて今後の事を適切にアドバイスしてくれるって話なんだよ」
「それって本当かぁ?予め調べていただけなんじゃないのか?それとも病気をした事があるとかみんな経験したような当たり障りのない話をしているとかそんな事じゃないか?」
「だから、行って見ないか?無料券はあるんだけどよ。他に行く奴がいなくてよ。お前ならどうかって思ってな。お前バイトがないから今日は暇なんだろ?」
「俺は占いなんて類は信じない性質なんだ。他の日に別の奴を誘っていけばいいだろ?」
「つれないな~いちど~。でもよ、この無料券は予約制で今日の午後4時から1時間と5時から1時間の2枚しかないんだよ。他の奴らは部活だの塾だのって忙しいみたいでな。お前しか暇そうな奴がいないんだよ」
暇そうという言葉に馬鹿にされているという気もしないでもないが、タダという言葉が引っかかっていた。
「折角だから使ってしまった方が良いだろ?何と言ってもタダなんだし、今日のその時間を逃したらこの紙は本当に何の意味もない紙になっちまうんだぜ?勿体無いだろ?」
一道の心が揺れる。貧乏人の心を動かすのが上手いといえた。
「そんなに価値があるのか?その佐久間 朋子ってのは?高が占いだろ?」
「何、言ってんだよ。その佐久間 朋子は1日限定8人しか行なわないんだよ。料金は1人50分1万円だ」
「1万円!?占いってそんなに金がかかるのか!?」
「そうなんだよ。それぐらい価値があるらしいんだよ。でも、もっと有名どころの占い師になったら1時間10万とか普通にあるの、お前知らないのか?」
「知らないな」
「それはそうと、この紙は明日になったら0円になるんだぜ?折角だから使わない手はないだろ?今日は1万円。明日は0円だ」
竹伸は同じ事をちょっと言い方を変えて何度も繰り返しているだけだったが一道の心は揺れる。1万円の価値があるのならそれを経験しておく事は悪くないと思えた。
「そうだな。行って見るか?どれぐらいその占いが信じられるのかってのも見てみたいしな」
非科学的な事はあまり信じようとはしない一道であるが、自分の心に母親の魂も宿っているのだから完全に否定しているという訳ではない。
「よし!じゃぁ行ってみるか!?」
「ああ・・・」


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