自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

ジャコウアゲハ観察記(その269)

2013-09-08 | ジャコウアゲハ

9月4日(水)朝。ジャコウアゲハの蛹が大きく変化を始めました。この日のうちに羽化することは間違いなさそう。それで,注意をしておくことにしました。この幼虫は『ジャコウアゲハ観察記(その265)』で取り上げた,地面に落ちた個体です。この日の早朝,それを竹に付けて観察を開始。

夜に入って,ほんのすこし目を離した隙に羽化し終わっていました。わずかな時間のすれ違いです。殻から出た成虫は殻に付いていました。翅はまだ縮んだまま。

観察し始めると,すぐに口吻のウォーミングアップを開始しました。この個体は,これまでのものと違った印象で,ずいぶん丁寧に見せてくれました。お蔭で,特徴的な場面を何枚か写すことができました。

生まれたばかりのときは,口吻が二つに分かれています。まるで二股です。わたしはずっとふしぎでしかたなかったのですが,最近この謎が氷解しました。普通見るチョウは口吻が一つです。なぜこのときは二つなのか,いつ,どう変化していくのか,すこし考えるとやっぱり不可思議です。 

羽化後,しばらくして口吻をよくよく見ると,単純なストロー一本構造でなく,二つがぴったりくっ付いているのがわかります。「これって,くっ付いているのか,それともそう見えるだけなのか」と何度か思ったことがあります。

じつは,羽化直後は二つに分かれていて,間もなく二つがファスナーの如くくっ付き合うのだそうです。なんというしくみ! ということは,もう二つに分かれることはないってことです。それぞれの口吻の中には,神経・筋肉・気管が通っているとか。もちろん,蜜を吸い上げる管というのが第一義です。断面を顕微鏡で観察すると理解できる世界です。

進化の上からいえば,この口吻は元々顎(あご)だったらしいのです。それで,元の丈夫な顎を形成するように合体するわけです。スゴイ! そして,もし一つの管が故障でもすれば,もう一本がなんとかやりくりします。これ,まるで保険をかけているようなものです。まったくスゴイ!

一つのことを簡単に片付けてしまわず,丹念に思い続けることのたいせつさを感じました。いのちの世界はまことに巧妙に仕組まれています。