hidamari_neco屋根裏ノォト-Ver.01

web日記 日替わりするは 気分だけ

ジンガロ 「Loungta」

2005-05-01 22:47:44 | あしあと:出かけた場所
ソロモン王は動物と会話できる魔法の指輪をもっていたという。
しかし、現代、この地球上には指輪なんかなくたって、思うように動物たちを踊らせられちゃう人がいるんです。

ゴールデンウィーク、友達づきあいや時間つぶしのレジャーの一切を断ち切ってこの1時間45分にかけても、十分すぎるおつりがもらえるほどの価値の高さだと私は思う。歴史に残るカンドー。
薦めてくれたO嬢に感謝。超良席のチケットを原価のまま譲ってくれた人に大感謝。愛してるわ。

だって、すごすぎる。
ありえない美しさだった。
これってもしかして学生時代に見たピーター・ブルックの「マハーバーラタ」以来かも。

木場公園周辺をぷらぷらしがてら、少し早めに出かける。
長い行列で、そこが会場だとわかった。
当日券は朝8時過ぎから並んでいたらしい。
少し涼しくなってきた会場のテントでワインを飲みながら、開演を待つ。早くもとろけそう。
フランスの、しかも、馬の芝居なだけにエルメスがバックアップしている。
そういうこともあって商魂のたくましさが見え隠れするけど、さすがなかなかにお洒落。
来ているお客さんもおおむねお洒落さんで、服装を見ているだけでも飽きなかったわ。

開場時間となり一斉にテントに誘導されるのだけど、座席に向かう途中の暗闇からしてすでに、ディズニーランドのアトラクションに似たワクワク感。
かすかに草(馬)の匂いがし、遠くのチベット僧のチャントが耳にこそばゆい。
客入れの間、神秘的な絵柄のパオに似た半円球の周りでキャストが五体投地(腕立て伏せじゃないぞ)をしている。スパイシーなお香が焚かれ、その煙までがこうなる以外ないでしょう、という軌跡を描いてたちのぼっている。

すべてがまるで魔法を見ているようだった。
馬って踊るんだー。ガチョウって歌うんだー。...というような単純な驚きを遥かに超えて、動物の動きはもちろん、煙にしろ、衣服の揺れ動き方にしても、たなびく髪や馬場に残る足跡までも、普通常識で考えたらコントロール不可能であるはずのものが、あらかじめ計算され意図されているかのように、完璧な状態でそこにいる。絶妙のタイミングでガチョウが鳴いたり、まるで、「そこアタシの立ち位置だから」と事前に打ち合わせでもしたかのようなところに馬が立つ。マンダラを描くように。

馬に乗る、という行為は一部の武士階級をのぞいて日本人のDNAにはそうそう刻まれてはいないだろう。馬の動きというのがこんなにも舞踊的なのか、というのを私は初めて知り、洋舞の所作のルーツに触れたような気がした。
「Loungta(風の馬)」でも、チベット人のダンサーが舞うシーンがでてくるが、アジアの舞踊は主に稲作文化に根ざしているために、植物的で足を地にしっかりつけて、風にそよぐ草花のように舞うのが基本である。しかし、バレエダンサーが足を上げ飛び回るように、馬って、リズミカルなステップを踏み、疾走し、跳躍するんだ。
これを曲乗りとあなどってはいけない。
見えない精霊が降りてきて操っているのに違いない。でなければ、あの乗り手たちは実は本物の妖精なのかも。
体操の鞍馬競技を文字通り走る馬の上でやっている。2頭の馬に同時に乗る。旋回する。ガチョウの群れを思い通りに動かす。猫のように転がって甘えるロバ。などなど。
馬に乗る人はその技術に驚嘆するのだろうな。
そして、芝居をする人はその演出の美意識の高さに驚くだろうな。照明やシルエットの使い方、装置、衣装も細部まできめ細やかだった。

セリフは一言もなく、たぶんストーリーらしいものはない。それなのに、各シーン、目の前のコレが祈りで、死で、神のエネルギーで、大地であるとわかる。
そして、ひとつのシーン(芸)が終わるときにキャスト(騎手)が馬をなでてやるその手がとてつもなく愛に溢れているのが印象的。馬も乗り手(とくにバルバロス)に対して深い信頼と愛情をもっていることがそのしぐさから伝わってくる。私、恋人だってあんなふうにしてくれたことないよー(怒)。

キャストの存在そのものも、美しい!
美形というのではないのである。そこにいるというだけでただただ完璧になっちゃうのだ。
ジョッキーだから基本的にみな小柄で、仮面をかぶっていたり遠目に見ると男か女かもわからなかったりするのだが、太ももや腕のラインが私の目には際立ってセクシーに見えた(や、断じてエロい意味ではないんだぞ)。
馬に乗るのが本業だから、演技の他の部分はフツーなのかと侮るなかれ、表情から指先までそれはそれはしなやかに繊細に動くのである。しかも、最後、長い髪をなびかせて颯爽と目の前を駆け抜ける姿の、男はたくましく女は凛として官能的で、たまんなく色っぽいことといったら!
不遜にも私、よい舞台を見たときっていつも、ああ、ワタシもあんなふうになれたら、と願ってしまうのです。でも今回に限り、それはみじんも思いませんでした。
だってだって、あれは人間じゃない。誰にも見つかっていない、草原の未知の生き物だった。そんな世界の秘密をのぞいてしまった、というような感動だったワケ。

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