駄楽器駄日記(ドラム、パーカッション)

ロッキンローラーの打楽器日記

リズムマンの時代

2010年07月15日 | 駄日記
先日放送されたNHKTVの音楽番組「スコラ」の「ドラム&ベース編」では、坂本龍一教授率いる懐かしのYMOのメンバーが集って、活動当時の思い出を振り返って興味深いトークが大変おもしろかった。
改めて思うのは、当時このニッポンを代表する先鋭若者ミュージシャンだった細野晴臣、高橋幸宏、そして坂本龍一の天才たちが、「テクノポップ」というものを世界に広めたと言えるということと、様々な実験的試行錯誤を通じて、リズムの「ハネ」「グルーブ」「ノリ」などを数値に置き換えて、コンピュータで再現するという、地味で根気のいる、そして画期的な作業でアルバムを発表していったということに、同じニッポン人として誇りを感じる。
この画期的なアルバム「YELLOW MAGIC ORCHESTRA」や「SOLID STATE SURVIVOR 」等が、衝撃的に世界に受け入れられて、ニッポンの最先端技術を代表するようなトップグループとなったわけである。
当時はドイツの「クラフトワーク」といったテクノバンドがすでに存在していたんだけれど、まだ「ピコピコサウンド」というような表現をしていた時代だった。

ところで、番組で細野さんとユキヒロさんが、互いに顔を見合わせて言った言葉がひじょうに興味深い。
「走るって気持ち良いよね。ウン」
「今はこれが気持ちいいんだけどね」
「人間、興奮したらテンポは速くなるものだからね」
と、この年齢になったからこそ振り返って語れるような言葉で、お互いの笑顔が微笑ましかった。
「でも、当時は走ったりモタルといったグルーブ感とか揺らぎがとても嫌いで、全く無機質なビートを欲していた」
と、こんな意味合いのことを話しておられ、当時、細野さんは人間味が出ないようにと、わざとベースをキーボードに置き換えて演奏していた。
当時の初期シンセサイザーは、ベロシティ(強弱)に対応できないものだったため、ベース音は単音で実に無機質だった。
そんな今では不便このうえない楽器をあえて選択するという、そんな時代だったのだ。
また、ユキヒロさんは、コンピュータのリズムと完全に同期するべく、ヘッドホンでクリックに合わせて寸分の狂いもないドラムを叩いておられ、まさに時代の先を行くドラマーの姿だった。
これ以降、レコーディングでもライブでも、クリックに同期させることができるドラマーでないと、一流の仕事ができなくなった。
どんなドラマーでもそうだが、クリックに合わせてドラムを叩くという作業は、慣れるまでに相当な訓練を要する。
「ドラムマシンのようなドラミング」を目指すことは“訓練”としては、決して悪くはない。
地味で苦しい練習は、いつでも大きな成果を与えてくれる。
はじめは邪魔でうるさいだけの存在のクリックが、慣れてくるとクリックとともに合奏できるようになってくる。
さらに訓練していけば、無機質なドラミングも可能なのだろう。
残念ながら、自分はそこまでの域にまでは達することができない。
だが、それだけならドラムマシンで充分である。
さらに今では技術の進歩により、揺らぎやグルーブまでも機械で表現できる時代なのだ。

その後、数年の活動を経てYMOは時代の役目を終えることとなった。
実際、そういう試行錯誤がひと段落すると、無機質なリズムというのは飽きられ、人間的なノリというものにまた注目されるようになって、現在に至るわけだ。
そういった時代の変遷を経て、ドラマーやベーシストにとっては、まさに今や個性が大事な、グルーブ中心の時代である。
我々「リズムマン」の時代といえるのである。
遠慮することなく、思い切り走ってみよう。
コメント
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