大殿もフロイスから 天地創造や霊魂不滅の話を聞いたが、 信長殿は目に見えぬものは信ぜず、理にかなうものだけを重んじていた。 それゆえ、フロイスに好意を持ったのは みずから信じるもののために身を賭し遥々、異邦に、その信念を伝えようとする熱意と誠実さにあった。-- 事実、大殿は誰ひとりフロイスらを理解することなく、見知らぬ異教で苦難と孤独を舐めているその時に、直感的に 心情を理解していたむきがあった。*+ *+ *
彼らが何ものをも求めぬのをみよ! 信長殿は仏僧らを非難する折り、必ずフロイスらを引き合いに出した。 --もちろん、全て大殿の考えが正しいとは言うまい。 しかしローマの権勢の下で、 片田舎の教区にありながら葡萄酒を飲み 惰眠と肥満に落ちいる僧侶をみるにつけ、 禁欲と克己によって 日本まで信仰を伝えようと志す態度には、大殿の共感を呼ぶに足るものがあったのだ。> ***
これは原文はイタリア語、それがフランス語に訳されていた書簡断片を某氏の書庫から発見したわたしが訳出したという体裁で書かれた辻邦生の歴史小説からである。>







