ひいろ@ないとあんどでい

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N&D・・・それは悪と戦う秘密結社である

携帯の中の彼女【23】

2005-10-28 | ウソツキ
携帯の彼女をお読みの皆様。
ようやく続きを書くことが出来ましたが、くれぐれも現実と妄想の境を越えないように・・・。


僕が初めて彼女と過ごした夜の記憶は、彼女のそれと異なっている。自分に都合のいい記憶しか残らない・・・ということに気が付き愕然とする。
人間は、自分の中にある嫌な思い出を時間とともに忘れるようだ。確かに、彼女の話を聞いて自分の記憶がなんとなく誤りであるような気がする・・・彼女の持つ記憶は、僕の中にもある。でも、彼女の記憶と時間が前後している。

・・・僕の記憶(本当は3度目の夜)
二人が初めて一緒に過ごしたのは、心斎橋のホテル。彼女が自分で見つけてきたホテル。
僕は、ホテルに限らず、その日のことは何から何まで自分で手配しなかった。今夜は、もともと彼女の誘いであっても、仕切りは男の自分がすべきことだろうと思っていた。だけど、何もしないで曖昧な時間が経過するばかりだった。いざとなると踏み切れない自分にいることに気付いてしまい、そんな自分にうんざりしていたが、そんな僕のことを見透かしていたのか、彼女は何もかもを自分でさっさと手配して、「これでいいかな?」と聞いてきたのだった。彼女は、多分、相当な覚悟をして色んな手配を思案だろうと考えると、今更断ることも出来ず、流れに身を任せることにした。


食事を終えて、僕たちはホテルの部屋に入った。入り口のすぐ左手に収納スペース。正面にバスルームの入り口があり、右手に部屋がある。考えていたより安普請のホテルで、ベッドこそクイーンサイズだったが、ベッドの大きさに反比例して、部屋の広さは2人では十分とも言えない。その小さな部屋には、ベッドの他に、間に合わせのドレッサー、小さな丸テーブルと2脚の椅子が置かれて、狭いスペースを更に狭くしていた。そして、丸テーブルの傍には大きいとはいえない窓がひとつあったが、その窓も部屋の狭苦しさを強調しているように思えた。

僕は、スーツを脱いでバスを先に済ませて、それから彼女にバスを勧めた。彼女は、軽く頷いてバスルームへ向かう。
彼女がバスルームを使っている間、僕は、バスルームの入り口が見えない丸テーブルの椅子に腰を下ろし落ち着かない時間を持て余していた。これからの出来事に対する期待と、本当にこんなことになってよいのかという気持ちは、ぐちゃぐちゃに絡み合って心をかき乱していた。
椅子から立ち上がり小さめの窓から外を覗く。ミナミの繁華街が見える。夜は、まだまだ早い、酒に酔って大声を出しながら闊歩する酔っ払いも見える。
なんだか普段見慣れない光景を目にしている自分が確かな存在ではないような気がしてくる。背後で聞こえるシャワーの音もTVから流れてきているようで、非現実的。自分自身の今の姿が天井から俯瞰して見えるような気分。陽炎で揺らめく蜃気楼を見ているような気持ちになってくる。

彼女がバスから出てきた。
ホテルが用意したバスローブを体に巻き、頭にタオルを巻いている。
ピンク色に上気した頬が初々しい。
暫くドレッサーを前に女性特有の支度を始める。その後姿は、何か儀式のように僕には見えた。
僕は窓際から離れて先にベッドに滑り込んだ。彼女は、ちょっと間を置いてベッドに滑り込む。

緊張の表情を浮かべている瞳を覗き込む。
何も話さない。もう、言葉を交わす必要なんかない。
唇と唇を軽く触れ合わせる。彼女から少し身を離し、再び彼女の瞳を見詰める。少し濡れた瞳がこちらを見詰め返している。抑えきれない気持ちがズンと下腹からこみ上げてくる。自分ではコントロールできない世界へと一歩踏み出して仕舞った。


・・・彼女の記憶(こちらが真実)

私は、たった一度の口付けで、貴方のことを忘れられなくなってしまっていた。自分には結婚を目前に控えた彼が居るというのに。一度あなたと話をして、元通りとは行かないまでも、私のことを無視したり、冷たく扱わないようになってくれればと願って居ただけなのに、もっと深いつながりを持ちたくて我慢できなくなってしまった。

彼と居ても心定まらず、気づいたら彼に貴方の話ばかりしている。最初のうちは笑って私の話を聞いていた貴方も、次第に不機嫌になっていく。私の望みは日色さんの恋人や奥さんになることだが、それが叶わないなら、日色さんの独身の弟と結婚してもいい・・・でも、それではきっと自分の立場に我慢できなくなる日が来る。そうだ、日色さんの子供に生まれてきたら一生離れることの無い絆が出来る。きっと幸せな幼少時代をすごし、今とは違う夢開く大人になれる。妄想は、とどまることを知らず、どんどん膨らんでいく。ついには、彼に向かって『わたし、日色さんの家族に生まれたかった・・・』そんな言葉を吐露していたりする。

私は、あなたに『一度きりで良いから、抱いて欲しい。』と迫った。
あなたは、『無理だよ。』と当然のように返事をする。
何度聞いても、毎回、同じ答えしか聞けなかった。でも、貴方が無理だと応える気持ちは、私を嫌いだという言葉には、私には聞こえなかった。『家族が居るから無理だ。』、『後輩の彼女だから無理だ。』という消極的な否定をしているだけで、『あなたを嫌いだから無理だ。』ではないと考えていた。
私は、自分の気持ちを押し殺し、諦めて後悔することはしたくなかった。だから、何度でも同じようにあなたに迫った。あなたにどうしても抱いて欲しくて。

私は、毎日、あなたの帰りを待っていた。神戸に帰るあなたに付いて行く。家に帰るように何度も言われるが帰らない。電車も降りない。あなたは私が付いて行くと必ず三宮で途中下車した。私を最寄り駅まで連れてきたくなかったからだと思うと、悔しさがこみ上げる。
『こんなに頼んでいるのだから、抱いて欲しい・・・』切ない思いを必死で伝えたが、取り合ってもらえない。今回も『無理だよ。だから、家に帰りなさい。』とだけ答える。
三宮の駅、阪急とJRが斜向いに改札を向け合っている場所は、人通りも多い。私は、こんなところまで来て、こんなに頼んで、拒否されて、途方にくれて、子供のように泣いた。地べたに座り込んで泣いた。周囲を流れる人混みから『なんだ?痴話げんかか・・・』と馬鹿にする様な視線が送られてくるけれど気にならない。

泣けば何とかなる。そんな風に思ったわけではないけれど、あなたは、『泣いても、だめなものは、だめだから。』という。そして、最後は、無理やり最終の梅田方面の帰りの電車に乗せられる。電車が走りだすと、無意識にあなたはほっとした笑顔を送って寄越した。私はお荷物なのか?そんな考えを走り出した電車の中でしてしまう。そんな時は、あまりにも惨めな気持ちになるので、頭を振ってそんな考えを隅っこのほうに押しやる。そして、周りを気にせずに思いっきり泣く。涙が枯れるまで無く、そしたら、何も考えられなくなって、疲れて寝てしまう。私は、ご飯も食べずに泣き続けた。涙が出なくなっても声だけで泣いた。すると、枯れたはずの涙がまた、流れ出てくる。
時々は、電車の中で親切な小父さんや小母さんが、ハンカチを貸してくれることが会った。そしたら、もっと泣くことが出来た。

私はきっと嫌な女に違いない。でも、そんな嫌な女でも日色さんは受け入れてくれているように思ってた。なぜだか知らないけれど、私の思いは通じると思ってた。
そんなことを何度か繰り返しているうちに、私は最終電車にも乗れなくなることがあった。阪急が無くなった後は、JRで帰された。JRのほうが遅くまで運行する電車があるからだった。あなたは、必ず、私が帰りの電車に乗り込むまで帰らなかった。たった1回のキスの重みを必要以上に感じているのかもしれないと思ったが、私に対して特別な思いがあるのかもしれないと、ひそかに期待も膨らんだ。
ある日、私は本当に電車では帰れなくなってしまった。すると、あなたはビジネスホテル探して私を泊めた。一人なんかで泊まるホテルは寂しい。次の日に予定があるわけでもない宿泊は、なお寂しい。次の機会には必ずあなたと一緒に泊まると決意する。
そして、とうとうその日が来た。

その日も日色さんは、私を連れて三宮で降りた。次の日は土曜日で会社は休み。日色さんは、私をいつものように追い返そうとする。『なんで、女がこんなに泣いて頼んでいるのに、一度くらい聞き届けてやろうと思わないの?』と言いながら泣き叫んだ。
うんざりしたようにあなたは私を見ている。わたしは、地べたに座り込んで駄々をこねた。しばらく上からわたしを見下ろした後、堪りかねたようすで抱き起こして、「じゃあ行こう。でも、今日はちゃんと家に帰るんだよ。」と言った。
私にはこうなる予感があった。でも、あなたがはっきり言葉にしてくれたことをうれしく思った。


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2 コメント

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???r(・x・。)アレ??? (ルミエル♪)
2005-10-29 01:34:00
兄エルのブログ・・・・・・



何をコメントしたらよいのか・・・・・・。

言葉が見つからないよ。



でも相手の女性は、兄エルに思いを告げられて

幸せだったんだろうね。 (^ー^* )フフ♪

同姓としては、気持ちが分るな。



コメント不要。 (ひいろ)
2005-10-29 01:38:04
コメント不要です。



ほとんど脚色の入ってない話ですが、読み物ですから。



でもね、最近続きを書く気力がなくなっているんだよね。



美しい思い出、切ない思い・・・壊れちゃったから。