2005-06-28 / 連載/昔の彼女・・・
携帯の中の彼女【7】
携帯の中の彼女【6】
私は、ひとつ深呼吸をして、コーヒーをひとくち啜った。苦い。
少し気持ちが落ち着いた。
「あなたがまったく口をきいてくれなくなって、とっても悩んだ。毎日が苦しくて苦しくて仕方なくなった。本当に苦しかった。どんなに苦しかったかあなたに分かる?」
「・・・」
「このままじゃいけないと思ったの。頑張ってみようと思ったの。」
「・・・」
「休み明けにロッカーのそばで私と話したこと覚えてる?」
「うん。」難しそうな顔で頷く。瞳孔が開いている。
「それまでずっと無視していたのに、あの日はとても優しくしてくれたよね。本当にとても優しい言葉だった。それまでのことが嘘みたいだった。『どうしたの?休みが長いからすごく心配したよ。』って言ってくれたよね。体調を崩してたって言ったら、『調子がよくなったら、今度、一緒に飲みにでも行こうよ。』って言ってくれたよね。その言葉を聴いて、一気に気持ちが楽になって、開放された感じだった。何故だか分らないけれど、涙が溢れてきて止まらなくなった。」
あのときのことを思い出して、また涙が零れそうになる。
「そんなに悪いことをしていたなんて気づかなかった。ごめん。」
本当に泣いて、困らしてやろうか・・・。
「謝らなくっても良いよ。仕方が無いと思ってる。私は、あなたと違って何の魅力も無い。可愛くも無い。お金も無い。私は、幼い頃から父親に愛された記憶が無い。やさしい家族の絆を知らない。それに引き換え、あなたは暖かい何不自由の無い家庭で愛されて育って、何も不自由しなかったはず。きっと、もてたでしょうし、沢山の女の人から愛されたに違いない。そして、今も仲の良い家族に囲まれて暮らしている。私と釣り合うものは何も無い。だから、お互いが理解できなくても何の不思議も無いの。」
「・・・」
「あなたに初めて会ってから1年も経ったけど、やっと自分の気持ちに気付いたの。何故あなたの事でこんなに苦しむのかやっと分ったの。好きな人に冷たくされて、本当に死にそうになっていたんだと気付いたの。あなたのこと、とても、とても特別だって気付いたの。」
私は、とうとう話してしまった。これ以上自分の気持ちを押し殺して隠したりする余裕は全く無かった。でも、結果がどうあれ後悔はしたくないと考えていたので、これで良いと思った。
それでも不安はある。あなたがどんな気持ちで私の話を受け止めるのか予想出来なかったし、今も、どう感じているのか分からない。あなたの態度は、気まぐれのようにころころ変わる。ある日は、私の気持ちを見抜いているかの如く優しい目で見つめてくれる。けれど、別のある日は、この世で最も醜い女を見ているように私を見つめる。私は、いつでもあなたの気持ちが何処にあって、どちらを向いているのか全くつかめない。
今までの私は、そんなあなたの態度に一喜一憂するばかりで、隠されたあなたの気持ちを想像する余裕もなかった。
今考えれば、あなたの気持ちは、大人なら誰でも見抜ける小学生並みの幼稚な隠し方でしかなかった。けれど、今まで一度も自分に自信が持てなかった私は、あなたが何を隠しているのか想像する余裕も無かった。
『でも、これでいい。』そう考えると、今度は本当に涙があふれてきて止まらなくなった。
子供のようにしゃくりあげて、それ以上、何も話せなくなった。
でも泣きながら、『やっぱりこれで良いんだ。』と思った。
携帯の中の彼女【8】
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携帯の中の彼女【7】
携帯の中の彼女【6】
私は、ひとつ深呼吸をして、コーヒーをひとくち啜った。苦い。
少し気持ちが落ち着いた。
「あなたがまったく口をきいてくれなくなって、とっても悩んだ。毎日が苦しくて苦しくて仕方なくなった。本当に苦しかった。どんなに苦しかったかあなたに分かる?」
「・・・」
「このままじゃいけないと思ったの。頑張ってみようと思ったの。」
「・・・」
「休み明けにロッカーのそばで私と話したこと覚えてる?」
「うん。」難しそうな顔で頷く。瞳孔が開いている。
「それまでずっと無視していたのに、あの日はとても優しくしてくれたよね。本当にとても優しい言葉だった。それまでのことが嘘みたいだった。『どうしたの?休みが長いからすごく心配したよ。』って言ってくれたよね。体調を崩してたって言ったら、『調子がよくなったら、今度、一緒に飲みにでも行こうよ。』って言ってくれたよね。その言葉を聴いて、一気に気持ちが楽になって、開放された感じだった。何故だか分らないけれど、涙が溢れてきて止まらなくなった。」
あのときのことを思い出して、また涙が零れそうになる。
「そんなに悪いことをしていたなんて気づかなかった。ごめん。」
本当に泣いて、困らしてやろうか・・・。
「謝らなくっても良いよ。仕方が無いと思ってる。私は、あなたと違って何の魅力も無い。可愛くも無い。お金も無い。私は、幼い頃から父親に愛された記憶が無い。やさしい家族の絆を知らない。それに引き換え、あなたは暖かい何不自由の無い家庭で愛されて育って、何も不自由しなかったはず。きっと、もてたでしょうし、沢山の女の人から愛されたに違いない。そして、今も仲の良い家族に囲まれて暮らしている。私と釣り合うものは何も無い。だから、お互いが理解できなくても何の不思議も無いの。」
「・・・」
「あなたに初めて会ってから1年も経ったけど、やっと自分の気持ちに気付いたの。何故あなたの事でこんなに苦しむのかやっと分ったの。好きな人に冷たくされて、本当に死にそうになっていたんだと気付いたの。あなたのこと、とても、とても特別だって気付いたの。」
私は、とうとう話してしまった。これ以上自分の気持ちを押し殺して隠したりする余裕は全く無かった。でも、結果がどうあれ後悔はしたくないと考えていたので、これで良いと思った。
それでも不安はある。あなたがどんな気持ちで私の話を受け止めるのか予想出来なかったし、今も、どう感じているのか分からない。あなたの態度は、気まぐれのようにころころ変わる。ある日は、私の気持ちを見抜いているかの如く優しい目で見つめてくれる。けれど、別のある日は、この世で最も醜い女を見ているように私を見つめる。私は、いつでもあなたの気持ちが何処にあって、どちらを向いているのか全くつかめない。
今までの私は、そんなあなたの態度に一喜一憂するばかりで、隠されたあなたの気持ちを想像する余裕もなかった。
今考えれば、あなたの気持ちは、大人なら誰でも見抜ける小学生並みの幼稚な隠し方でしかなかった。けれど、今まで一度も自分に自信が持てなかった私は、あなたが何を隠しているのか想像する余裕も無かった。
『でも、これでいい。』そう考えると、今度は本当に涙があふれてきて止まらなくなった。
子供のようにしゃくりあげて、それ以上、何も話せなくなった。
でも泣きながら、『やっぱりこれで良いんだ。』と思った。
携帯の中の彼女【8】
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