おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

冬至に獅子柚子湯につかる

2016-12-21 | Weblog
12月21日、冬至。待ちに待った日がやってきた。食器棚の中でワイングラスと並んでいた獅子柚子がいよいよ出番となる時だ。11月下旬、お隣さんから「柚子湯にでもいかが」と言われて頂いてから1カ月近くが経っていた。ごっつい赤ちゃんの頭ほどの大きさは、母親の視線に見入る、物静かな赤ちゃんの頭ほどにひと回りか、ふた回りほど小さくなっていた。武蔵坊弁慶の剛毅な顔立ちから、耳なし芳一の柔和な顔立ちに変わったかのようでもある。

湯船にはたっぷりと湯が張られ、湯煙が湯殿に立ち込めている。いい雰囲気だ。台所のまな板に獅子柚子を乗せる。自らの役割を自覚し、悟りきったように鎮座している。手を清め、ヘンケルの魚を捌くための包丁を右手に持つ。左手で頭を掴み横に倒す。横っ腹に包丁の切っ先で少しばかり切れ目を入れる。包丁の刃身を腹に当てて、切れ目を目印にしてゆっくりと押し切っていく。獅子柚子は、まあるい断面を左右に開いて、長方形のまな板の上に2つのお椀を置いた形となった。外形の大きさの割に果実は小さい。食用というよりは観賞に適しているみたいだ。さらに包丁を入れて全部で8片に切り分ける。末広がりの八である。

枝から切り取られてから1カ月近くは経っているから、香りはそれほどでもない。皮に鼻先を寄せると、確かに柚子の香りが漂っている。あえて言えば、柑橘系に共通する酸っぱさを感じさせる香りと言った方がいいかもしれない。目の細かいネットに8片の獅子柚子を入れる。ファスナーで閉じる。湯殿に赴き、ネットを湯船にゆっくりと入れる。浮き袋のように、ぷかりと浮いた。ネットの白色と柚子の黄色い皮が透明のお湯に彩をもたらす。

脱衣をして、湯船のそばに腰を下ろして掛け湯をする。心地よい温かさのお湯が首筋から胸板、引き締まった腹筋へと伝って流れ落ち、どっしりとした大殿筋や胴体を支えるに相応しい逞しい太腿を濡らして、タイルの床に飛び散った。足先から湯船に入り顎の下付近まで体を沈める。猫が飼い主にまとわりつくように、獅子柚子の袋が首付近にまとわりついてきた。ほのかな柚子の香りが漂う。わたしの体に臭い付けをしているみたいだ。

どちらかと言うと、長風呂はしないたちだが、今宵は冬至、しかも獅子柚子湯だ。たっぷりとつかろう。大きく成長し、縁あってわが家に転がり込み、裸の付き合いをすることになった。果実に成りきるまでに育んだ生命力と運気をわが体に沁み込ませよう。このまま獅子柚子とお付き合いしてたら頭がのぼせそうになりそうだ。体が芯まで温まったところで湯殿を出る。裸身の水気をバスタオルでぬぐい、暖房の効いた居間へ。ぽかぽか状態が続き、軽く汗が出てきた。体が少しばかり虚脱状態となっている。獅子柚子のエキスが体に回ったらしい。脱力感が血流によって全身を駆け巡る。なんだか眠くなってきた。寝床に背中を付けたら、そのままスーッと熟睡世界に引き込まれて行きそうだ。夢の中で獅子が添い寝してくれるかも。しかも8頭で。これもまた獅子柚子湯の効能だろうねえ……獅子が1頭……獅子が2頭……獅子が3頭……ZZZ。
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