コロナが「再陽性」になる例が増えている?
「リバウンド」について今わかっていること
デルタ株とオミクロン株で割合に差か、抗ウイルス薬との関連は
抗ウイルス薬「パクスロビド」を手にする患者。(PHOTOGRAPH BY ALEX WELSH, THE NEW YORK TIMES VIA REDUX)
2022年6月、米ホワイトハウスのアンソニー・ファウチ首席医療顧問は、
自身が新型コロナウイルス感染症の「リバウンド(再陽性)」を経験したと発表した。
ウイルス検査で陰性となったわずか数日後に、再び陽性反応が出たということだった。
米国人の多くは、このような事態が起こりうることに衝撃を受けた。
だがこの間、多くの人々が実際にリバウンドを経験したり、
リバウンドの例を見聞きしたりしている。
7月末にバイデン米大統領にもリバウンドが起きたことは周知の事実だ。
「ソーシャルメディアやマスコミが盛んに伝える
リバウンドの個々の事例は気になります」。
米テキサス大学公衆衛生学部の疫学者で、
人気の医療ブログ「Your Local Epidemiologist」を執筆している
ケイトリン・ジェテリーナ氏は、そう話す。
米疾病対策センター(CDC)が5月に医療関係者向けに発表した保健勧告によれば、
最初の感染からの回復後、検査で陰性となってから2~8日後に検査で再び陽性反応が出たり、
症状が再発したりする例が報告されている。
リバウンド事例は、抗ウイルス薬を服用している患者に多くみられる。
入院や死亡に至るリスクの高い患者への投与が推奨されている治療薬だ。
今までにわかっている事実はこれだけだ。
リバウンドに関するその他のことは、まだ推測の域を出ない。
「現時点では不明な点がたくさんあります」と、ジェテリーナ氏は言う。
「リバウンドの発生頻度も把握できていませんし、原因も不明です」。
また、リバウンドは抗ウイルス薬との関連がよく指摘されているが、
複数の要因が関わっている可能性もある。
デルタ株とオミクロン株で割合に差が
米製薬大手ファイザーは、米国でデルタ株が主流だった頃に、
抗ウイルス薬「パクスロビド」(日本での商品名は
「パキロビッドの正式な臨床試験(治験)を実施した。
この治験では、パクスロビド2錠を1日2回、5日間にわたって投与した。
その結果、リバウンドを経験した人は
パクスロビドを服用した人の2%未満だったと報告された。
だが、ここ数カ月でパクスロビドを処方した医師たちは、
リバウンドするケースが実際にはもっと多いようだと述べている。
米エール大学医学部の感染症専門医、スコット・ロバーツ氏の経験では、
リバウンドの発生率は5%に近い。
これは、米ケース・ウエスタン・リザーブ大学の研究者たちが
公開したリバウンド事例に関する論文の値と一致している。
この研究では、オミクロン株が主流となった2022年1~6月に発生した、
パクスロビドまたは米製薬大手メルクの抗ウイルス薬「ラゲブリオ」
(一般名は「モルヌピラビル投与後のリバウンドを評価した。
論文は査読前の医学論文を投稿するサーバー「medRxiv」で
2022年6月22日に公開されている。
米国での処方数はパクスロビドの方が多く、2021年12月に
米食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可を受けて以来、
約300万回分が処方されている。
一方、ラゲブリオの処方数は約50万回分と少ない。
ケース・ウエスタン・リザーブ大学の調査では、
パクスロビド服用患者の約3.5%が、
最後の服用から7日以内にリバウンドを経験した。
ラゲブリオ服用患者の場合は6%に近かった。
30日以内ならそれぞれ5.4%と約9%だった。
7月上旬以降、米国ではオミクロン株のBA.5系統が主流となっているが、
一部の医師は、今はリバウンド事例が増えているうえ、今後も増え続けると考えている。
例えばフロリダ州ダベンポートの内科医、アフタブ・カーン氏によれば、
担当する患者のうち、パクスロビドを服用した
高齢の患者の約4分の1がリバウンドを経験しているという。
オミクロン株は抗体を巧みに回避するため、
今後もリバウンドは増えるだろうと氏は予測している。
リバウンドと抗ウイルス薬との関連性は?
リバウンドが発生する割合は、抗ウイルス薬を服用している患者の方が高いと
みられているが、両者の関連性について確定的なことを言うにはデータが不十分だ。
ファイザーが実施したパクスロビドの治験では、プラセボ(偽薬)を投与された患者と
パクスロビドを投与された患者のリバウンド率がほぼ同じだった。
CDCは、抗ウイルス薬を服用したかどうかに関わらず、
症状が短期間で再発することは一部の新型コロナ患者における
「自然な経過の一部かもしれない」との見解を示している。
CDCはこうした観点から、広く使用されている「パクスロビド・リバウンド」という
表現を避け、「COVID-19(新型コロナ感染症)リバウンド」と呼んでいる。
だが、エール大学のロバーツ医師は、抗ウイルス薬が承認される以前も
一部で症状の再発はみられたものの、発生はごくまれだったと話している。
そもそも新型コロナ感染症がリバウンドする原因も、現時点では不明だ。
ジェテリーナ氏によれば、一部の患者では、抗ウイルス薬が
ウイルスを十分に排除できていない可能性がある。
そのため5日目以降に患者が服薬をやめると、
ウイルスが再び増殖し始めるということが考えられるという。
あるいは、早すぎる投薬開始がリバウンドを引き起こしている可能性もある。
今のところ、できる限り速やかに投与を開始することが推奨されており、
発症後5日以内が望ましいとされている。だが、これでは
免疫系が働く時間を十分に与えられていないのかもしれない。
感染から回復した後に再感染した例も「リバウンド」に数えられている可能性はある。
だが、それでは回復後に新たにウイルスに接触する機会がなかった患者が
リバウンドしたケースを説明できない。
ファイザーの広報担当者、キット・ロングリー氏は、
リバウンドの原因はウイルスがパクスロビドに耐性を獲得したことではないと説明している。
ただし、同社は引き続きデータを注視するとしている。
ファイザーの研究者たちは、査読前論文を投稿するサイト「Research Square」で
2022年6月21日に公開した論文で、独自の研究結果の詳細を明らかにし、
リバウンドはパクスロビド服用患者におけるウイルスの変異とは無関係だと結論づけた。
この結果は、米カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部のチームが6月20日付けで
医学誌「Clinical Infectious Diseases」に発表した論文の内容と一致している。
同チームは、オミクロン株BA.2のリバウンドが発生した1人の患者について、
パクスロビドと中和抗体へのウイルスの反応について詳しく調べた。
その結果、リバウンドは薬剤耐性や免疫低下が原因ではなく、
ウイルスが薬に十分にさらされなかったからだった可能性が高い、と結論づけている。
リバウンドのリスクが高い人は? 適切な対応は?
リバウンドはどんな人に起きやすいのか。
リバウンドした場合、どう対応したらいいのか。
こうした疑問についても、まだ答えは出ていない。
ケース・ウエスタン・リザーブ大学の研究によれば、
新型コロナ感染症のリバウンドが起きやすいのは、
臓器移植を受けた人や、免疫抑制剤を服用している人、
心臓病や糖尿病などの基礎疾患がある人、それに喫煙者だ。
言うまでもなく、こうした人々は、抗ウイルス薬で
メリットを得られる可能性が最も高いグループでもある。
イスラエルの研究者らによる2000人以上を調査対象とした論文によれば、
リスクが高い65歳以上の人々にとっても、
抗ウイルス薬の服用は非常に重要であるようだ。
パクスロビドに含まれる抗ウイルス剤を投与された65歳以上のグループは、
同年齢層で薬を投与されなかったグループと比較すると、
入院率が67%低く、死亡率は81%低かった。
64歳以下の年齢層では、こうした顕著な差は見られなかった。
この論文は「Research Square」で2022年6月1日に公開され、
まだ査読を受けていない。
CDCは、リバウンドが確認された場合について、
他者への感染力があると想定して改めて5日間の隔離を行い、
その後も5日間はマスクを着用するよう求めている。
だが、リバウンドしたときと最初に感染したときで
他者への感染力に違いがあるかどうかは不明だという点は、CDCも認めている。
リバウンドしても、抗原検査で再び陰性になれば、
すぐに外出して構わないと考える医師もいる。
だが、エール大学のロバーツ医師は、検査結果によらず
隔離を前倒しで終了することは軽率だと考えている。
「検査結果の誤りは頻発していますし、迅速抗原検査の感度は低いのです。
決められた期日以前に隔離をやめるような人には、はらはらさせられます」
リバウンド後の症状は? 治療法は?
幸いなことに、リバウンドしたケースの多くは症状が軽い。
CDCが6月に発表した調査によれば、
リバウンドが入院につながったのは1%以下だった。
これは当然の結果だとロバーツ医師は言う。
「リバウンドではウイルスの量が減っていますし、
最初の投薬後に免疫ができる時間があるからです」
リバウンドした患者にパクスロビドを再投与する医師もいる
(ファウチ氏も2度目の投与を受けた)。
だが、この投薬方法を支持する証拠はまだ確認されていない。
ファイザーのロングリー氏によれば、同社は現在、FDAと協力して、
こうした治療法にメリットがあるかどうかを評価する研究計画を作成している。
オミクロン株のBA.5系統は従来の亜系統よりも体内でのウイルス量が多くなるため、
抗ウイルス薬の投薬期間を5日間ではなく7日間あるいは10日間に延長することで、
BA.5の複製をもっと強力に阻止できる可能性があると、
米ベイラー医科大学の感染症研究者、ジル・ウェザーヘッド氏は話している。
ただし、医師がこのような処方を始めるには十分な研究が必要だという。
リバウンドに関しては不明な点が多く、ロバーツ氏の患者の中には
リバウンドを恐れて服薬をためらう人も実際にいた。
しかし、抗ウイルス薬の服用でメリットを得られる患者が、
リバウンドへの不安を理由に服用しないことがあってはならない
とロバーツ氏は強調する。
「それは危険で誤った選択です」と氏は言う。
抗ウイルス薬の目的は隔離の長期化を回避することではなく、
入院と死亡を防止することにあるのだ。
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