『映画ドラえもん のび太の ひみつ道具 博物館』感想

 今年のドラえもん映画、『映画ドラえもん のび太の ひみつ道具 博物館』の公開が始まって、十日が過ぎた。
 私は、藤子ファン仲間達と一緒に初日に観に行き、さらにメンバーが替わって二週目の3月17日には2回目を観てきた。と、この事でわかると思うが、私は今回の映画は気に入った。素直に「よかった」と言える出来だったと思う。「よかった」と言っても、「大ピンチ!スネ夫の答案」ののび太のように、「十点!」のよかったではない。どちらかというと、出木杉やしずちゃんの点に近いレベルでの「よかった」だ。少なくとも、大山時代を含めた映画オリジナル作品の中では、一番の出来だったと言い切れる。もっとも、これまでの映画とは作風がかなり違うので、単純な比較は難しいのだが。

 ここからは、具体的な感想に入るが、例年通り思いっきり映画のネタばらしをしており、特に今回は推理ものとしての側面もあるので、未見の方はご注意いただきたい




 まず、今作で一番よかったのは、一つの作品としてストーリーの骨格がしっかりしていた事だ。何を当たり前のことを、と思われるのかも知れないが、わさドラになってからの映画オリジナル作品で、一番致命的だったのがストーリーの意味不明さだった。詳しくは、当ブログの過去作品の感想(緑の巨人伝人魚大海戦奇跡の島)をお読みいただければ、おわかりいただけると思う。過去作とは違って、今回はひみつ道具博物館で怪盗DXと対決して、さらには太陽製造機の危機を救うと言う流れが自然に繋がっていた。
 基礎となるストーリーがしっかりと出来ている中で、見どころがたっぷり用意されており、105分の間、飽きない映画となっていた。

 そんな今作の一番の見どころは、何と言っても数多く登場するひみつ道具だろう。子供はもちろんのこと、いい年をした大人にとっても「こんなところにあの道具が!」という楽しみ方が出来るようになっており、私も二度の鑑賞で画面を可能な限り隅から隅まで観るようにしたが、それでも見逃している道具は多数あるだろう。個人的に好きな道具である「ばくはつこしょう」と「はなバルーン」を重点的に探してみたのだが、残念ながら見つからなかった。まあ、仮にばくはつこしょうが画面の隅にでも出ていたとして、「容器に入ったくすぐりノミ」と見分けが付かないような気もするが。
 それはともかく、道具に関しては、監督が『ドラえもん ひみつ道具大事典』を読み込んだと言うだけあって、非常にマニアックな道具も多く出てきて、マニア心をくすぐられた。そもそも、ポポンの元になったのが「ナカミスイトール」と言うのもかなりマニアックだ。
 二つ目の見どころは、怪盗DXとその正体を巡る推理ものとしての要素だ。『ドラえもん』で推理ものをやると知った時にはどのようなものになるのか不安があっったのだが、比較的フェアに伏線が張られており、推理ものとして納得できる出来だ。2回目の鑑賞時には、伏線描写を重点的に観直してしまった。コピーロボットを使うのはずるいという意見もあるかも知れないが、スネ夫とジャイアンがイケメンコピーロボットを使う描写を入れることで、「コピーロボットという道具が存在すること」はちゃんと描かれているので、問題はないと思う。
 三つ目の見どころは、アクションシーンだ。中盤に怪盗DXとの対決でひみつ道具軍団のアクションがあり、さらにクライマックスでは太陽製造機の制御とドラvsガードロボの戦いが並行して描かれており、特に後者は非常によく動いて実に見応えがあった。昨年のワーワー言って走り回っているだけの最終決戦とはえらい違いだ。監督が違うとこうも変わると言ういい例だ。

 さらに、今年はゲストキャラとの空々しい「友情」が無理に描かれていないものよい点だった。
 もちろん、ゲストキャラとの友情を育む過程がしっかり描かれているのであれば問題がないが、『人魚大海戦』や『奇跡の島』などは出会って一日か二日しか経っていない相手との間で、取って付けたかのような強い友情が描かれており、非常にわざとらしく感じた。
 それが、今回はゲストキャラではなくのび太とドラえもんの友情をあらためて描くと言う方向に持っていったのは、映画ドラえもんでは新鮮であり、ごく自然に描かれていたと思う。特に、ラストシーンの「ぼくのクツの中?」というのび太のセリフは、それだけでドラえもん(及び、映画の観客)には全てが伝わるように出来ており、非常にいいセリフだった。これに限らず、今作ではしゃべりすぎや無駄な描写は少なく、これが監督やスタッフのセンスを感じる作りとなっている。
 また、作画面では、これまで気になっていた不安定な線がほぼ無くなってスッキリして、テレビシリーズの作画に近くなったのもよかった。これは、テレビ版のキャラ設定・総作画監督を務める丸山宏一氏の参加に拠るところが大なのではないかと思うが、どうだろうか。


 ここまで、この作品のいいところについて述べてきたが、突っ込みどころが無いというわけではない。それを無視してはフェアではない気がするので、ここで挙げておく。
 まず、誰しも「それは無理だろう」と思うであろう点は、クライマックスでのポポンの活躍だろう。ソースカツ丼を吸い込んだだけで煙とネジを吐いていたのに、あのような巨大なエネルギーの固まりを処理しきれるとは、到底思えない。あえて、インパクト&勢い重視で押しきったのかも知れないが、個人的にはあそこでもうワンクッションおいて、納得できるような描写をして欲しかった。
 もう一つ、シャーロック・ホームズセットの効果が原作短編と異なるのも、気になるところではある。大長編原作でも『魔界大冒険』では「石ころぼうし」の効果が違っていたり言う例もあるし、今回は別に妥当な道具があるとも思えない(「連想式推理虫メガネ」は、まわりくどい)ので、仕方のないところかなとは思う。
 他には、ドラえもんの鈴が無くなると猫化する設定や、ジャイアンとスネ夫が小さくなったのはストーリー上あまり意味がなかったように思う。前者は、怪盗ドラックスになった時のアクションシーンあたりで使いどころがあったのではないかと思うのだが。後者は、単にドアを開けるだけでは活躍としては物足りない。

 さらに言ってしまうと、今回の映画は面白かったが、藤本先生の描いた大長編原作やその映画版とは明らかにテイストが異なる。あまり好きな言葉ではないが、「同人臭がする」映画になっていると思う。言ってみれば、方倉陽二先生の『ドラえもん百科』のように、『ドラえもん』という作品を元に、新たな世界観を作りだした作品とでも言うべきか。それがつまらなければ目も当てられないが、今作はキャラクターも話も魅力的に出来ていた。
 ひみつ道具博物館やフルメタル・ぺプラーメタルの設定、それにゲストキャラの性格やノリなどは、藤本先生が描きそうにないものではあるが、第三者の創り出した新たな設定・キャラとしては面白い。これらの設定や、全編ギャグに満ちたノリを受け容れられるかどうかに、この作品を好きになれるかどうかがかかっていると思う。


 と、ここまでダラダラと書き連ねてきたが、あらためて全体のまとめとして言えるのは、この映画が『ドラえもん』でなくては成立しない話であった点が何よりよかったと言うことだ。またもや過去のオリジナル大長編を例に挙げるが、昨年の『奇跡の島』は、『ドラえもん』でなくても作ろうと思えば出来る話で、それだけに観ていてつらいものがあった。それに対して、今回はひみつ道具のオンパレードで、どこからどう見ても『ドラえもん』の映画でしかあり得ない作品であり、それが故に観ていて心地よかった。
 また、今回は主題歌がストレートに主題歌らしい曲だったのもよかった。サビの「ミュージアム」の繰り返しは、聴いていて心地よい。子供にとっても、覚えやすい曲だろうと思う。昨年までと違って、ポップで楽しくなるような曲調も、作品によく合っていたと思う。



 今回の映画ドラえもんは、巨大な敵は登場せず、舞台はほぼずっと博物館の中と、これまでの作品の定型パターンを見事に壊した。
 はたして、今後もこのような楽しい作品が生み出されるのかどうかはわからないが、少なくともドラ映画の未来に対して希望を持てるようになった。それだけでも、本作の功績は大だ。
 とりあえず、来年は『のび太の大魔境』のリメイクのようなので、オリジナル作品の真価は再来年以降に問われることになるが、はたしてどんな作品が飛び出すのか、楽しみに待っていたい。




3/21追記

 昨日、書きたいことは書き尽くしたように思っていたが、この記事を読み返して、声優について触れていないことに気が付いた。
 結論から言うと、声優は皆よく演じていてまったく問題がなかった。それ故に、本文で触れるのを忘れていたのだと思う。松平健のマスタード警部は、テレビのミニコーナーでの演技に少したどたどしさを感じたのでちょっと不安はあったのだが、映画本編ではズッコケ警部を上手く演じていた。そう言えば、テレビ版で使われていた、語尾に「マスタード」と付ける警部の口癖は、映画本編では無かった。正直言って口癖にしては無理があると思っていたので、無くなってよかった。
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コメント
 
 
 
覚えてますでしょうか? (negured)
2013-08-13 01:56:36
2012年12月の記事にコメントさせていただきました、neguredです。

今更ながら、今年公開されたドラ映画の記事を拝見しました。
DVDがレンタル開始になって、いよいよ作品をこの投稿後に見ようとしてる所です。
(それまで読まないように我慢してましたw)
今年はオリジナルでどうかなと思ってましたが、おおはたさんの感想を見るところ今回は期待してよさそうですね!

お忙しいようですので、またお時間の空いた時にでも返答いただければありがたいです。
お体にお気をつけて。
 
 
 
Re: 覚えてますでしょうか? (おおはた)
2014-02-11 20:05:58
 こんばんは。
 お言葉に甘えて、思いっきりお返事が遅くなってしまい、大変申し訳ありません。もちろん、覚えております。
 昨年の(もう「昨年」になってしまいました…)『ひみつ道具博物館』、気に入りましたので私はBDを購入しました。この作品は、特に画面に隅々まで、どんな道具が登場しているか気になりますから、高画質で観られるのは、ありがたいです。コマ送りにしてじっくり見るのもいいですね。
 今年の『新・大魔境』も、お気に入りの作品になることを期待しています。
 
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