はなバルーンblog

藤子不二雄や、好きな漫画・アニメの話がメイン(ネタバレもあるので要注意)

映画『ドラえもん 新 のび太と 鉄人兵団 はばたけ天使たち』感想

2011-03-09 23:53:16 | 藤子不二雄
 日曜日に、東海地方在住の藤子ファン仲間と連れだって、ドラえもん映画の新作『新 のび太と 鉄人兵団 はばたけ天使たち』(以下『新・鉄人兵団』)を鑑賞してきた。
 以下、例年のごとく感想を書いておく。当然のように、ネタを割っている部分が多々あるので、未見の人はご注意を



 まず、最初に書いておく。今年の映画は「よかった」。単純に「よい・悪い」の区別だけでの「よかった」ではなくて、わさドラになってから、もっと言えば『のび太の南海大冒険』以降、藤子・F・不二雄先生が不在の状態で作られた映画の中で、一番よかった。もし、微妙な出来だったら「思ったよりよかった」「よかっただと、何点だ!」「十点!」のネタをやってごまかそうかと思ったが、その必要もない。
 久しぶりに、単純に「ああ、ドラえもん映画を見た。よかったなあ」と言う気持ちになった。『新・鉄人兵団』は、そんな作品だった。

 正直なところ、『新・鉄人兵団』も予告編の段階では、ジュドの脳がヒヨコ型(=ピッポ)になる場面を見て、「ああ、これは今回も駄目そうだ」と、半ば絶望したものだった。しかし、その絶望の予感は、いい方に裏切られた。やはり、予告は予告でしかなく、本編を観ないと作品の善し悪しは判断できないのだなと思い知らされた。
 『新・鉄人兵団』の何がよかったかと言えば、「原作を尊重しつつ、新たに加えられたオリジナルの要素もしっかりと話の軸として成り立っていた」ところだ。これは、リメイクもので、しかも原作付きの作品であれば一番重要視するべきはずの事なのだが、一昨年の『新 のび太の宇宙開拓史』では新キャラのモリーナ絡みの話が浮いてしまって、単なる付け足し(しかも蛇足)にしかなっていなかったことを考えると、今年もそうなっても不思議はなかったのだ。
 一番危惧していたのは、ピッポの登場で話が変な方向へ行くことだったのだだが、リルルの出番を食ってしまうこともなかったし、単なるマスコットキャラになってしまうこともなく、原作でも言及されていたメカトピアの階級制度をより深く描いた点、挿入歌で作品を効果的に盛り上げた点で、ピッポの登場は成功だったと思う。
 もちろん、「原作とは違う」展開ではあったのだが、『のび太と鉄人兵団』は原作と旧作映画の完成度が高いので、『新・鉄人兵団』までそのまま同じストーリーでやったとしても、リメイクする意義があまり感じられなかったと思う。その点で、大胆ではあるがやって然るべきアレンジだったのだ。個人的には、原作と旧映画でかなり内容に違いがある『のび太の宇宙開拓史』こそ、リメイク版を原作忠実バージョンでやって欲しかったのだが、モリーナの登場とギラーミンの小者化で滅茶苦茶に…いや、これについてはもう言うまい。


 ここまではピッポのことばかり書いたが、リルルも原作にあった場面に加えて、クライマックスでアムとイムに他人を思いやる心を、博士の指示なしに自力で植え付けると言ういい見せ場が作られていてよかった。あれがなければ、ピッポが目立ちすぎてリルルの陰が多少は薄くなっていたかも知れない。その点で、今回のスタッフは見せるべきところを分かっていると感じた。
 クライマックスシーンの改変も、そこにいたるまでの話の積み重ねがあるからこそ活きてくる展開だったが、リルルの心の変化は無理なく描かれており、自然に観られるようになっていた。まあ、クライマックスシーンの回想で出てきたのは原作にある場面ばかりなので、説得力があって当然なのだが(このあたりは、原作ファンの欲目が入っているかも)。

 そして、巨大ロボットとしてのザンダクロスの存在感も印象的だった。鏡面世界でのこととは言え、あれほど遠慮無く世界の破壊を描いてくれるとは思わなかった。リルルの治療シーンと合わせて、「原作通りにならないのでは」と不安があっただけに、ある意味では原作以上にこだわった画面作りになっていたのは嬉しかった。
 逆に、ジュドの脳を改造することはなく「おはなしボックス」でピッポに変えた点は原作とは異なるが、これは原作と旧作映画で気になっていた「ドラえもんは自分と同じロボットの脳を改造してしまうことに何も思わないのか」という点への、本作スタッフの答えだったのではないだろうか。「格好いいロボットが欲しい」と言うのび太に対して「自分がいるだろ」と返す場面を含めて、原作ではあえて触れなかったと思われる、「ロボットとしてのドラえもん」に多少なりとも踏み込んだ点は、評価したい。


 今作のよかった点としては、ゲスト声優陣の熱演も忘れてはならない。リルル役・沢城みゆき、ピッポ役・小林由美子の二人は本業声優だから当然の演技力としても、総司令官役の加藤浩次もドスの利いた凄みのある悪役を見事に演じていたし、博士役の中村正(ドラ映画では、元祖「満月博士」もこの人)はベテランの重みのある演技だった。また、副司令官を藤子アニメではお馴染みの龍田直樹(わさドラではテレビシリーズ「天の川鉄道の夜」の車掌…と言うかゴンスケ役が印象的)が演じていたのも嬉しい配役だった。アナウンサー軍団はさすがに少々たどたどしく感じたが、まあこれはご愛敬だろう。
 私にとっては、『のび太の恐竜 2006』以来、久々に「声が気にならない」作品で、それ故にいっそう話に集中して観ることが出来た。声に関しては感じ方に個人差があるので、あくまで「私にとっては」なのだが。

 また、先ほども少し触れたが、劇中挿入歌の使い方も印象的だった。特に、前半は「今回はミュージカルにしてしまうのか!?」と思わされるほどに歌が頻繁に流れてびっくりさせられたが、後半のピッポの歌へと繋がる構成は見事だった。まあ、この部分は「なんで「ジュドの脳」形態で歌を歌うんだ」と突っ込める部分なのだが、今回はそう言う点を、少なくとも見ている間は忘れさせてくれるだけの力が作品にあった。
 どさくさに紛れてドラミの歌らしきものまで流れていたのはさすがに首を捻らざるを得ないが、今回の挿入歌&BGMでサウンドトラックCDを出すのなら、ぜひ聴きたい。
 オシシ仮面ネタとか天丼ギャグとかの細かいところまで、色々と触れたいところはあるが、結構長くなったのでこの辺にしておく。時間に余裕があったら、二回目を観に行ってもいい。小ネタに関しては、二回目の方がじっくりと観て楽しむことが出来るだろう。


 と、ほぼ絶賛と言っていいほど素晴らしい作品だったのだが、残念な点がないわけではない。はっきり言ってしまうと、この作品は原作&旧映画のミクロス好きな人だけにはお薦めできない。ミクロスの出番がないわけではないが、冒頭に「ただのおもちゃ」として出てくるだけなら、いっそ思い切ってミクロスを別のロボットに変えて最初から出さない方がよかったかも知れない。「神様に文句を言う」を思いつく役までリルルの役どころになっているのだから、これはミクロスファンには大ショックだろう。当然、のび太とのなぞなぞ勝負もなく、これは個人的にちょっと残念だった。

 あとは、気が早すぎる心配かも知れないが、今年の出来がよかったことで、来年以降これを超える映画が出来るのだろうかと言う点で、不安はある。今回のおまけ映像だけでは来年の映画が原作付きかオリジナルかは判断しかねるが、オリジナルで『人魚大海戦』レベルの作品をまた見せられるのではと思うと不安は拭えない。
 と、余計な心配をしてしまうほど、『新・鉄人兵団』の出来はよかった。胸を張って人に勧められる映画だと思う。BD化されるのなら、ぜひ買いたい。これがDVDだけだと、テレビ放送版の方が高画質になるので微妙だ。そろそろ、ドラ映画もBD版を出してみるべきだ。それには、今作はうってつけだと思うのだが。