はなバルーンblog

藤子不二雄や、好きな漫画・アニメの話がメイン(ネタバレもあるので要注意)

9月23日に、あらためて考えた事

2006-09-26 00:03:25 | 藤子不二雄
 9月23日は、藤子・F・不二雄こと、藤本弘先生のご命日。1996年に亡くなられてから、今年でちょうど10年だ。これまでは、特に9月23日だから何かをすると言う事もなく過ごしてきたが、今年は10年というところに何となく一種の「区切り」のような物を感じたので、藤子ファン仲間と共に藤本先生の眠る墓地に赴いて、お墓参りをした。
 藤本先生のお墓に手を合わせると、あらためて「すばらしい作品を残してくださり、ありがとうございました」と、お礼を言いたい気分になった。私が「ドラえもん」をはじめとするF作品から受けた影響は、計り知れないものがある。
 この日の夜は、お墓参りに行ったメンバーで飲み会を行い、藤子作品の話から関係ない脱線話まで、9月23日という日の意味をかみしめながら、楽しい時間を過ごした。もっとも、その一方で、あらためて藤本先生が亡くなられてから、もう10年も経ったのだと再認識させられて、何となく寂しい気持ちにもなった。


 10年一昔と言うが、この10年間で、藤子・F・不二雄とその作品を取り巻く環境は、どう変わっただろうか。あらためて、振り返ってみたい。
 まず、長年親しまれてきた「てんとう虫コミックス」は「ドラえもん」以外、ほぼ姿を消した。映画化に合わせて「パーマン」は新装版が出たが、それも既にほとんど見かけなくなっている。てんコミの代わりに「小学館コロコロ文庫」として、てんコミ刊行済作品のほとんどが出版されたが、てんコミよりも収録話数が減っている作品もあったためグレードダウンした印象を受けてしまい、F作品がよい扱いを受けているようには思えなかった。
 てんコミ以外についても、F先生の生前に出ていた単行本は姿を消して、SF短編集や「T・Pぼん」なども文庫版としてあらためて刊行された。結局、20世紀の終わりには「ドラえもん」以外の作品は、ほとんど文庫版ばかりになってしまった。例外は「完全版 チンプイ」くらいだったが、これも今は品切れだ。

 しかし、その後「藤子・F・不二雄 SF短編PERFECT版」全8巻がハードカバーで出版された事は、特筆すべきだろう。単行本初収録作品を含めて「ミノタウロスの皿」以降に収録されたF先生の短編を、ほぼ網羅しており、さらに「ミノタウロスの皿」以前の作品である「スーパーさん」まで入っており、収録内容に不満はない。初出の間違いや中途半端な収録形式など気になる点はあるが、それらを考慮に入れても、価値のある本だ。
 また、1999年から刊行開始された「ドラえもん カラー作品集」全6巻や、てんコミ「ドラえもん プラス」全5巻など、埋もれていた「ドラえもん」未収録作品が新たに単行本として刊行された事も、記憶に新しい。個人的な事だが、少し前に「ドラえもん」未収録作品のコピーを綴じていたファイルから、最近「プラス」などの単行本に収録された作品を外して整理し直したところ、ファイルの数が元の半分以下になった。それだけ、多くの作品が陽の目を見たのだ。FFランドにのみ収録されていた作品もかなりフォローされているし、少なくとも「ドラえもん」に関しては、20世紀末から徐々に単行本の状況はよくなっている。

 逆に、「ドラえもん」以外の作品については、前述の「SF短編PERFECT版」以外は、しっかりとした単行本として刊行される事がなくて、寂しい状況と言わざるを得ない。低年齢向けの「ぴっかぴかコミックス」で幼年版の「パーマン」「ウメ星デンカ」などの未収録作品が初単行本化された事は評価に値するが、これらは既存の単行本で作品を読めるだけ読んでしまったマニア向けの本だろう。この前出版された「みきおとミキオ」にしても、贅沢を言えば、せめて新書判で出して欲しかったところだ。
 「パーマン」や「デンカ」などは、ぴかコミだけでなくコロコロ文庫でも出ているが、ぴかコミで初めて「バケルくん」を読んで興味を持っても、現状では他に単行本は出ていない。仮にも「藤子不二雄ランド」と言う個人全集が出た漫画家なのに、超看板タイトルの「ドラえもん」以外は、古書店を回って過去の単行本を購入しなければ読む事が出来ない作品が多く、特に最近ファンになった人には、つらい状況だろう。

 言うまでもなく「ドラえもん」は面白い、素晴らしいマンガだ。私も幼い頃から「ドラえもん」の魅力にとりつかれてきたので、よくわかる。しかし、「ドラえもん」以外にも、まだまだたくさんの名作・傑作が描かれている。
 もし「「ドラえもん」以外のF作品は、よく知らない」という人がいれば、私は「読んでいないなんて勿体ない」と思うとともに、その人にドラ以外の作品も読んでみて下さいと勧めるだろう。ファンとしては、多くの人に多くの作品を読んでもらって、楽しみを共有したいのだ。それなのに、現状では文庫で出ている作品群しか読む事が出来ない。絶版であったり、そもそも単行本化されていないなどの事情で、多くの作品が埋もれてしまっている現状は、非常に悲しい。
 もちろん、出版社も商売なのだから、売れない本は出せない事は分かっている。だが、売れる作品は部数を多めにして、売れない作品は部数を抑える事で、全体として利益が出るようにした「手塚治虫漫画全集」の例もあるのだから、採算が取れる形で藤子・F・不二雄全集を出す事も、不可能ではないと思う。この際名前を出してしまうが、小学館はこれまでF作品で多大な利益を得ているのだから、そのお礼に全集くらい出してはどうだろうか。それが、手塚全集のように、絶版にならず長い間読み継がれれば素晴らしい事だ。


 ともかく、極端に「ドラえもん」に偏りすぎた現在の状況は、何とかして欲しい。多くの児童漫画を描かれた藤本先生の作品だからこそ、時代と関係なく子供が手にとって楽しめるようになってほしい。そして、藤子作品を読んで育った人が、また自分の子供に藤子作品を伝えていく。これが、未来まで藤子作品を残していく道だと思う。藤本先生が亡くなられても、残された作品は、今も色あせる事はないのだ。「藤子・F・不二雄アートワークス」の完成・公開が、ドラ以外の作品にスポットを当てる機会になってくれれば、と思う。

 長くなったが、この10年を思い返しているうちに、こんな事を考えてしまった。


 なお、藤本先生の作品を原作としたアニメ(当然、主に「ドラえもん」)についても色々と思う事はあるが、こちらについて書き出すと非常に長くなってしまうので、いずれあらためて取り上げる。ちょうどタイミングよく、10月20日まで約一ヶ月間、アニメドラは放送がないので、この間に、これまで放送について思うところをまとめておきたい。