見えざる声

感じたこと・思ったこと・追想、思うままに書きなぐった文章の
羅列を目指し・・。

漠然とした不安 3

2006年12月11日 | ショートストーリー
着いた所は、工場の端にあるコンクリートで出来た物
彼にはそれが何だか分からなかった。
それでも看板には「**汚水処理施設」と記されていて、
かなりの規模の水槽なのが分かった。
ニメートル近くの壁を初老の男は、階段を使っ昇っていった。
そして手招きをする。
彼もそこを昇り、茶色の水が勢い良く動き泡を吹く水槽を見た。
「さて、こっちだ」
初老の男は、水槽の間の二十センチ幅の仕切りを奥の方へと歩いていく。
彼も恐る恐るそれに続いた。
すると初老の男は、再び水槽の上から下へ降りていく。
彼もそれに従った。
コンクリと植木に挟まれた、じめじめした狭い空間に
クリアな小さい水槽が四つ並んでおいてある。
「ほれ、これが人生だ」
初老の男が、その水槽に近づき、彼に告げた。
「はぁ・・、そうですか」
彼は勢い良く細かい泡を空気中に飛散している水槽の側面を
見ながら、溜息をついた。
「不思議そうだな、あの茶色のは何だか分かるか?」
「いや、汚い色のついた水なら、分かるけど・・」
「そうだな、活動していれば汚いんだよ」
そういいながら、初老の男は電気配線に近づき、モーターらしき
物の近くのコンセントを抜いた。
すっと水槽の空気が止み、水面が静かになる。
「ほれ、そこに腰掛けて、まってろや」
二つ並んだ壊れかけた椅子を示す男に、彼は従い
片方にそっと掛けた。
男はずいずいと小さな屋根のところの扉を開け、
これまた小さい機械を動かし、手に缶コーヒーを携え、
彼の元へ近づいて来た。
そして缶コーヒーを黙って差し出し、自分も空いている方に
腰掛けた。

小屋らしき小さな屋根の方から、音楽が流れてくる。
テンポの良い曲だ。
「これなんても聴いたこと、ないだろうな」
男の言葉に、彼は頷いた。
「そうだよな、三十年だもの」
「あのぅ、生まれて・・」
彼は言いながら、缶コーヒーを開けた。
男は音楽に聞き入っているのか、口を開かなくなった。
彼も押し黙る。
しばらくそのままの状態が続いた。
「ほれ、休みを与えたから、あいつらも静まって水
が綺麗になったぞ」
俯いていた彼は、その言葉に面を上げた。
確かに茶色の塊が、下に沈み、上は透明な水だった。
「この水槽の中にも、五十種類は生物がいるのさ、餌を
食べ、うんこをし生活しているだよ、うんこっていっても
出すのは水だけどな」
「はあっ・・」
「水槽の半分程度は、あいつなのが分かるか?」
「ええ、そうですね」
「あれがどう変化するか、見てみたいか?」
「ええ、出来れば・・」
彼は興味がなかったが、男の問いに合わせた。
「それじゃ、また、三日後に会うか?」
「三日ですか?、それで人生・・」
「三日後だな・・」
                            続く

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