個人情報保護法と住民票の閲覧 3月16日

4月1日より、個人情報保護法が完全施行される。個人情報保護法は、「個人情報の自己コントロール権の確立」が本来の目的である。自分の情報を自分で管理することは、実は至極当たり前のことであって、これまで自己情報に対してあまりにも無防備であったことのほうが、極めて不自然と言えるのだ。

4月1日以降は、5,000人を超える個人情報を取り扱う事業者のみならず、あらゆる事業者あるいは事業主が、個人情報に対する取扱いにデリケートになる(はずだ)。その中でも、医療機関等および介護事業者、そして情報通信あるいは金融に関する事業者は、特に敏感に対応してくれるようになるはずだ。

そんな中、どう考えても理不尽でしかたないものが、たった一つ存在する。おそらく多くの国民が皆、内心不審に思っているはずだ。それは、自身の住民票の閲覧だ。今現在、住民票の閲覧は、完全フリーと言って良い。“どこの誰とも知らぬ人物が、私の了解を得ることなく、勝手に私の住民票を閲覧する”ことが、正当に認められている現状を、不自然だと思わない人はいないだろう。

住民票は、その人のアイデンティティの礎とも言えるもので、仮にその情報を理由に差別や偏見が助長されたり、あるいは情報そのものが売買されてしまうことがあるならば、それこそまさに、人権侵害をおいて他の何ものでもないだろう。

4月1日に個人情報保護法が完全施行されても、住民票の閲覧フリーの状態は何一つ改善されない。個人情報保護法が、個人情報の自己コントロール権の確立である以上、自身の住民票の閲覧に規制をかけることは、なされてしかるべきだ。

現状でいくと、4月1日以降も、住民票の閲覧については、「住民基本台帳法」が個人情報保護法よりも優先される。住民基本台帳法によると、「住民基本台帳は自治体行政の基礎であって、何人にも公開し、住民の利便の増進および自治体行政のために活用される」とある。個人のプライバシーの保護への関心が高まりつつあるこんにちもなお、住民基本台帳法が改正される動きはなく、私たちの典型的な個人情報である住民票が、完全無防備なまま置き去りにされている実態があるのだ。

住民票の閲覧事由に、仮に不審点があっても、現行ではその事由が正当か否かを判別する基準さえ曖昧だ。「首長の判断に委ねる」とあるにすぎず、事実上、無条件に開示されているに等しいと考えて良い。誰がどんな目的で閲覧しようとも、それが明らかに「不当な目的」でない限り、まったく問題にならないのだ。

個人情報保護法では、個人の情報を第三者に提供することへの可否は、本人の同意が必要だ。自己情報を第三者に提供することを認めないと主張し、仮にその通り取り扱われなければ、場合によっては司法の判断を仰ぐこともできる。対照的に、住民基本台帳法による住民票の閲覧規定は非常に無防備で、個人としての防御策の打ちようがない点が、最大の欠点だ。総務省に問い合わせても、これ以上の回答はない。

個人情報保護法は、個人個人の人権を守る上で最大の武器となる。一方で、住所・氏名・生年月日などの情報が記載された最大のプライバシーであるはずの住民票が、住民基本台帳法に則り完全フリーで閲覧できる矛盾を、一刻も早く解決することが肝要だ。個人のプライバシーを保護し、差別や偏見を助長しない社会を実現するためには、住民票閲覧に関する新たな法改正が求められる。「本人の請求以外の閲覧は認めない」と明確に規定することが、時代に呼応した最も安全な方法だろう。
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