介護保険制度改正 12月21日

介護保険制度における被保険者・受給者の範囲の拡大が議論を呼んだが、ひとまず今回は先送りとなった。被保険者・受給者の範囲の拡大というと聞こえが良いが、要は、賄いきれなくなった介護報酬を、保険料で補おうとする姑息な手段でしかなく、20歳まで保険料徴収年齢を引き下げるという原案は、とても納得のいくものではなかった。先送りではなく私は、廃止を求めたい。介護保険の給付額が保険料を上回る状態は、これまでの施設に甘い介護サービスのレセプトを見れば明らかだった。

介護保険制度導入から5年が経過しようとしているが、介護保険創設時の本来の目的として掲げられた「自立支援」の趣旨は、気がつけば、いつしか忘れ去さられ、事業所は少しでも高い利益を得るために要介護度の高い利用者を好むようになっていた。更に悪いことには、事業所所属のケアマネジャーによる事業所寄りの偏ったケアプランが横行するようにもなっていた。利用者の自立支援どころか、このような介護サービスを受ければ受けるほど、利用者の要介護度が高くなるという、家族にとっても厚生労働省にとっても不測の事態に陥ってしまっていたのである。この矛盾とのたたかいこそが、介護保険制度改正の本質であり争点であるべきものなのだ。

公平公正を期すためには、何よりケアマネジャーの独立性の確保が急務だ。私は、調剤薬局で薬剤師をしながら、ケアマネジャーとしてケアプランの作成にあたっていた。薬剤師として、かかりつけ医の要請があれば居宅での薬剤管理指導を行なうことはあるが、自前の介護サービスは一切持たず、必要なサービスを適切なサービス事業所を選定して利用者に提供していた。その際、特定の事業所に利益をもたらす行為など、絶対にあり得なかった。

供給が需要に追いつかない状況の中で、コネクションの無い事業所にサービスの提供を依頼することは、実際問題、なかなか困難を要するものではあったが、良心的な事業所であれば、必ず、なんとかして応えてくれた。私の倍は生きておられる人生の大先輩のケアプランを作成する上で、常に肝に銘じたことは大先輩への敬意と誠意だ。それは見守る家族にも伝わり、家族の利用者に対する愛情もより深まっていった。そんな要介護者を前にして、自立支援どころか、ますます自立から遠ざかってしまうようなふしだらな介護サービスを提供する事業所など、一軒もなかったと言いきれる。再認定の度毎に、要介護度が上がっていくという事態など想像のしようもなかったのが、私のケアマネジャーとしての経験である。

医薬分業を進め、地域にかかりつけ薬局が存在する社会を、この国は目指している。であるならば、かかりつけ薬局にケアマネジャーが存在し、各種介護サービスを手配しながら必要なケアプランを作成していくことは、ケアマネジャーの独立性の面、また利用者に与える安心感の面、いずれの場合においても十分に対応し得る理想の姿ではないだろうかと、私は考えている。

今後ますます高齢化が進行し、2050年には超高齢化社会(3人に1人が65歳以上)に突入する。本来それは、お元氣な高齢者の方々の数が増えることを意味しなければならず、より一層、元氣を維持するための元氣高齢者政策の重要性が求められる。これまでのような介護に特化した介護保険制度ではなく、元氣を維持するためのサービスも介護保険制度には組み込むべきなのだ。このことは、介護保険制度創設の時から、私は主張している。重点を置くべきは、むしろ、いつまでも自立できるための元氣維持の政策なのである。

今回やっと、厚生労働省は、予防介護という言葉を使い始めた。本来の趣旨は元氣高齢者政策でなければならないはずだが、この際、呼び名は二の次だ。体を動かすリクリエーションサービスや生活習慣病の学習、あるいは男性の料理教室、更には元氣高齢者のための介護教室などを積極的に組み込むべきだ。シルバー人材センターとのネットワーク化も、考慮すべきだ。

一方で、厚生労働省は、介護保険制度と障害者福祉の一体化を模索している。介護保険制度においても、介護の質の向上を目指し、将来的に、介護職員は介護福祉士の国家資格を有する者に限定するとの案が浮上する中、居宅介護サービスについての高齢者介護と障害者介護の一本化については、十分に検討の余地があると、私は考えている。しかし、施設介護での一体化については、早計に判断できるものではない。

介護保険と障害者福祉とを一体化させるとなると、保険料の徴収が、益々ややこしくなる。人は誰でも老いるし、障害は不可抗力または受動的なものだ。私は、最低所得補償である基礎年金と介護・福祉に関しては、その財源は全額税方式に切り替える必要があると考えている。先送りになった政府案のように20歳以上のすべての国民から強制的に介護保険料を徴収するという方法は、サービスを利用しない場合の還元方法をどうするのか、また、未納者の増加をもたらすという問題点をはらんでいる。

現在、用途の不明な消費税を、あらためて福祉目的税とすることは、極めて理にかなっている。介護保険制度は、創設の精神にのっとっり、高齢者の自立を促し、また自立する高齢者を支えるものでなければならない。更に、横だし・上のせサービスなどと言わず、制度そのものを自治体の裁量で運営することが重要だ。今、商店街など地域の活性化のために、地域通貨の概念が注目を浴びている。元氣高齢者が介護スタッフとして活躍する日が来れば、介護サービスの利用料は、地域通貨が最適だと、私は思う。国は思いきって、地方分権の旗印として、介護保険制度の地方への委譲に踏み切るべきであり、それはまさに、日本の介護・福祉のフロンティアを意味することとなると、私は考えている。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )