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IMF専務が危惧の韓国 新産業が登場しない焦り

2017-11-29 17:00:12 | 日記

勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。

2017-11-27 05:00:00

韓国、「集団自殺社会」労働市場改革進まず「若者が高失業率」

 

IMF専務が危惧の韓国

新産業が登場しない焦り

 11月21日は、20年前に金融危機が起こった忘れられない日である。

外貨の急激な流出によって、「韓国倒産」という危機の淵に立たされた。

その後、2008年のリーマンショックでも、同様な危機に見舞われたが、通貨スワップ協定で凌ぐことができた。

こうして二度も苦境に立たされながら、抜本的な経済改革は進まずにいる。

最大の問題は、労働市場の改革が放置されたままであるからだ。

大企業労働組合の反対が強くて、手がつけられないのである。

 韓国の労組組織率は約!0%である。

財閥大企業に労組がある程度で、中小企業の労働者には無縁の存在である。

大企業労組は、年功序列賃金制と終身雇用制に固執している。

文政権は労組の支援を受けて当選しているから、前記の二つの制度の改革見通しはゼロである。

労働市場を流動化させることなしに、韓国経済の立て直しは不可能である。

だが、労組の反対で改革は挫折している。

 韓国社会の欠陥は、「身勝手」ということにつきる。

自分さえ良ければ、他はどうなっても知らない。

こういう冷淡なところがある社会だ。

市民社会という経験ゼロゆえに、他人を慮(おもんばかる)こともない。

キリスト教徒が国民の約4分の1はいると言うが、キリスト教精神が発揮された「美談」を聞いたことがないのだ。

 大企業労組だけが、年功序列賃金制と終身雇用制の恩典によくし高賃金を獲得している。

そのしわ寄せは、中小企業製品の買い叩きで採算の辻褄をあわせている。

中小企業労働者が、低賃金で苦吟している原因はここにある。

この不公正を絵に描いたような構図が、どうしても是正できないのだ。

終身雇用制と年功序列賃金制を廃して弾力化する。

そうすれば、転職が活発に行なわれ、働きやすい環境が生まれるのだ。

弾力的な労働市場が出現すれば、サービス業も発達するはずである。

その結果、雇用総量も増え失業率を低下させる。

国民全体が幸せになれる青写真は、身勝手な集団の労組が阻止しているのだ。

 大企業労組は、所得配分から見れば「高所得層」に属している。

この恵まれた地位を守るために、多くの労働者を犠牲にしているのだ。

こうして、強硬な姿勢をとり続けており、なんとも不思議な「労働貴族」が支配する社会だ。

次の例は、IMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事が最近、訪韓の際に韓国の女子大生に向けて語った言葉である。

 IMF専務が危惧の韓国

『中央日報』(10月25日付)は、「韓国は集団自殺社会」と題した記事に、ラガルド専務理事の発言が取り上げられている。

 ラガルド氏は、フランスの弁護士出身でIMF史上初の女性専務理事である。

フランス財務相も経験している、バリバリのキャリアウーマンである。

父親が若くして亡くなり、母親に育てられた。

結婚して二人の子どもを育てるなど、家庭生活における自らの体験に基づいて、女性の就職には格別の思いがあるようだ。

その経験から、韓国の女子大生にエールを送ったもの。

女性が活躍できる社会こそ、未来を約束すると示唆している。日本にとっても、貴重なアドバイスである

 

9月、韓国を訪問ラガルド氏が、

「韓国は、『集団自殺社会』だ」と嘆いたと、同行したイ・チャンヨンIMFアジア太平洋局長が伝えた。

ラガルド氏がこうした発言をした背景には、9月7日にソウルの梨花(イファ)女子大学での「学生たちとの懇談会」に出席した際、ラガルド氏が感想を漏らした内容である。

 (1)「女子学生は、次のように発言した。

『私は結婚しないでしょう。どうしてかって? 私は高校時代、梨花女子大学への入学を目指して、朝5時から午前2時まで勉強した。

梨花女子大学に入学できこれで、未来が開かれるんだと思いました。

ところが、先輩の話を聞いて、良い仕事を得たとしても子どもを持った瞬間に仕事を辞めなければならないという。

未来がないように見えます。これが『ガラスの天井』だなと感じている。

他の学生は、『ガラスの天井ではなくセメントの天井』だと話したという」


韓国の大学受験競争は、「凄まじい」の一語である。

ソウル大学などトップ3の大学では、ほとんど満点でなければ合格不可能と言われている。

ここに出てくる梨花女子大学は、女子大最高峰と言われる存在だ。

ここを卒業した才媛でも就職後には、女性故のハンディキャップを背負う。

妊娠・出産となれば、退職しなければならない。

これを避けるには、未婚か子どもを諦めるかのいずれかである。

日本では、こういう不合理な話は次第に消えてきたとはいえ、まだ「ゼロ」ではあるまい。韓国の実例を聞いて、日本は自戒する必要があろう。

 (2)「学生たちの話を聞いたラガルド氏は、学生に向かって、『そうしてはならない。女性はもっと独立的で強くならなければならない』として、出産の大切さも合わせて強調した。

懇談会終了後、ラガルド氏は『結婚をせず出生率が落ちれば経済成長率と生産性が落ちることになり、そうなると財政が悪化する。

こうした悪循環がまさに集団的自殺現象ではないだろうか。

これが韓国の問題だ』と指摘したという。

セーフティネットのない状態で女性を競争させると、自然に出産を断念する社会になる。

これは、社会全体的に(低成長)リスクの大きい社会構造が形成されるという主張である」

 ラガルド氏の出身地であるフランスは、出生率が回復している。

女性の社会進出が楽になってきたことが背景にある。

出生率の低下は、未来の経済成長率を低下させるし、生産性も上がらない停滞社会に落ち込む。

実は、韓国ではすでにこの悪循環にはまり込んでいる。

合計特殊出生率は今年4~6月で1.04と過去最低を記録。

世界的にも最も低いレベルに落ち込んでいる。中国も同じ状況にある。

儒教文化圏の中韓が、そろってこの苦境にあえぐのは、市民社会の経験がなく子どもを社会全体が育てる意識の欠如であろう。

中国にいたっては、他人を騙しても自己の利益を図る悪習が染みこんでいる。

子どもを連帯して育てる意識にはほど遠い社会だ。

 (3)「こうした脈絡からラガルド氏は、『若い女性が子供を産まず、日本より経済成長率がさらに低くなる場合、後でさらに財政負担になる』とした。

そして『韓国は財政を賢明に有用に使って、未来セーフティネットをあらかじめ構築し、女性が労働市場にさらに積極的に参加して成長率を上げられる政策に進まなければならない』と文在寅大統領を含む韓国指導層に強く促した」

 日本の合計特殊出生率は2016年で1.44である。

韓国よりも0.4ポイント上回っている。

日本政府は、2025年に1.8まで引上げる目標を掲げている。

これによって、総人口1億人を維持する計画だ。

韓国には、このような具体的な目標がない。

現在の状況から言えば、合計特殊が1を割り込む恐れの方が大きい。

韓国もこれまで種々の対策を打ってきたが、いずれも空振り終わっている。

その原因は、先ほど指摘した「市民社会」の経験の有無が大きく響いている。

 女性が活躍できる社会となるためには、女性が働きやすい環境を整えることに尽きる。

具体的には、労働市場の流動化である。

出産・育児で離職しても、労働市場の流動化が進んでいれば、生活環境に応じた雇用先が選べるであろう。

それには、年功序列賃金と終身雇用を打破することだ。

これによって、労働の流動化が促進されるであろう。

こう見てくると、韓国大企業のみに組織されている労組が、韓国の「集団的自殺」の引き金になっていることが理解できる。

 韓国は最近、「経済危機20年」という節目にあたって、多くの警戒論が登場している。

文在寅政権が、「企業性悪論」に立っており「規制強化」に取り組んでいるからだ。

規制緩和が、企業優遇という間違った見方に囚われており、韓国経済の未来が警戒論から悲観論へと移っている。

 新産業が生まれない焦り

『朝鮮日報』(11月19日付)は、「韓国経済は徐々に死にゆく『ガン』にかかっている」と題して、次のように伝えた。

 20年前に韓国を襲った経済危機は、次のような情景から始まった。

 1997年11月21日、就任からわずか3日の林昌烈(イム・チャンヨル)経済副総理(当時)が夜10時20分に緊急記者会見を開いた。

「政府は金融・外為市場の困難を克服するために国際通貨基金(IMF)に金融資金を要請することを決定した」。

こうして始まったIMFによる韓国救済体制は、30大財閥のうち16財閥が解体、銀行26行のうち16行が閉鎖と韓国経済を根こそぎ揺るがした。

 こうした、国を揺るがす「取り付け」騒ぎから20年経った。

韓国経済はその後、この危機をバネにして構造改革である規制緩和に立ち向かっただろうか。

答えは「ノー」である。

労働市場の改革もできず、「労働貴族」の言うままになっている。

現政権は、その労働貴族が支援している。

これでは、「ガン」に冒された韓国と言わざるを得まい。

 従来型の産業構造ゆえに、景気刺激策は家計債務を増やすという従来型の対策を踏襲している。

規制緩和をしないから、新しいサービス産業も生まれず、雇用吸収力が低い。この旧態依然とした状況で、韓国経済は苦吟しているのだ。

 (4)「(金融危機当時の)林元副総理は、『韓国経済は徐々に死にゆく『がん』にかかっている』と診断した。

林氏は

『(主力産業のうち)造船はすでに中国に(主導権を)奪われたし、電子も時間の問題だ』

『主力産業を延命できる解決策を見いだせなければ韓国経済はいっそう深刻になる』との見方を示した。

韓国政府は3年8か月でIMFから借り入れた195億ドルを全額返済した。

林氏は『IMF体制からの早期脱却が必ずしも良いことだったとは言い切れない。

国民が当時の苦しみと教訓をあっという間に忘れてしまった』と話した。

さらに「(早期脱却のせいで)政府が進めていた規制撤廃や労働改革が中途半端になってしまったのが残念だ」と指摘した』

 韓国政府はIMFから借り入れた195億ドルを、3年8か月で全額返済した。

この超スピードの完済が、韓国の産業構造の転換に結びつかなかった。

日本から導入した重厚長大産業に代わる、新たな産業を産み出さなかったからだ。

現在の主流産業は、AI(人工知能)やロボットなどだが、韓国には根付いていない。

一つの理由は「反日」の結果、日本企業との交流を絶って新技術情報が得られなかった事情が大きく響いている。

 (5)「1997年の金融危機から20周年を迎え、本紙が韓国経済研究院と共同で一般市民800人と経済専門家48人にアンケート調査を実施した結果、専門家の68%が『20年前の金融危機と同等の危機が今後5年以内に発生する恐れがある』と答えた。

専門家らは経済危機の原因となり得るぜい弱な分野として『主力産業の没落』(20.6%)と『家計債務(個人負債)』(16.5%)を挙げた」

 韓国経済の時限爆弾は、「家計債務」の急増である。

住宅バブルが始まり、消費者が先高を見込んで住宅ローンを背負い込んでいる。

それが理由である。

政府が、景気刺激策の柱として不動産投資を促進した結果だ。

家計債務の増加は、実質的な可処分所得を減らすので、個人消費にマイナス影響を与える。

住宅ブームはすでに鎮火したものの今後、その債務支払いが長期に続く。

韓国経済にとっては、「泣き面に蜂」である。

 (6)「韓国国民は20年前、失業者が170万人を超える状況でも、国難を乗り越えるために『金製品集め運動』に賛同した。

しかし今回の調査では、このような共同体意識は大きく低下していることが分かった。

『再び金融危機が発生した場合、国民が金製品集めのような苦痛の分かち合いに賛同すると思うか』との質問に対し『そうは思わない』との回答が37.8%に達し、『そう思う』(29.2%)を上回った」。

 1997年には170万人の失業者が出た。

昨年末では、101万人の失業者。

2000年以来で最悪レベルになっている。

20年前の韓国社会では、自主的な「金製品集め運動」によって、IMF債務の返済に協力した。

韓国では、メディアが募金窓口になって、募金者の名前を掲示するなど「支援する」のが常である。メディア競争という側面も大きい。

 こうした募金活動が、仮に次回に起こるとする経済危機でも見られるだろうか。

調査では、否定派が肯定派を上回っている。

これは、韓国の共同体意識の希薄化を物語っている。

この裏には、文政権による「積弊一掃」という名の「保守派刈り」が災いしている。

文大統領は結果的に、保守派排除によって国民意識の分断を図っている。

文氏のあとの大統領にも革新派を据えたいという野望を持っているからだ。

このため、保守派刈りが厳しく行なわれている。

国民意識の統合化こそ大統領の任務のはずだ。

文氏も当選直後は、そう言っていた。

だが、権力の座の居心地は格別らしい。この座を自派で継続したい。野望は尽きないが、韓国経済には有害である。

  

(2017年11月27日)