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【映画講評】史上最大の作戦-The Longest Day(1962)【2】200万上陸の欧州大反攻

2021-06-06 20:10:28 | 映画
■20世紀フォックス渾身の大作
 この映画は1962年というまだ第二次世界大戦の記憶が確かな頃に思い返す映画、という気概のこもった大作です。

 史上最大の作戦。本作はダリルザナック制作渾身の超大作ですが、一人一人に焦点を充てた映画というよりは、幾つかの舞台、部隊でもある、その一幕一幕の群像劇を集大成し、一種のクラウドのようにノルマンディー上陸、歴史の転換点、というものを描いています。そして登場人物もそれだけ多いのですね。その登場人物は一幕ながら主演級が支えている。

 ドイツ西方軍参謀総長ブルーメントリット大将を演じるクルトユルゲンスは、全般情勢を冷静に俯瞰した上で事実と、そして実行したならば歴史を転換させ得る助言を参謀の職責として提言するが政治的に受け入れられない、という様子があります。そして司令部や第一線師団、市民とレジスタンスと、複数同時進行でDデイへと向かってゆく構成で進む。

 ジョンウェインが演じる第82空挺師団バンダーボルト大隊長を筆頭に一人でも存命ならば大作映画を撮影できるほどに多くの名優を惜しみなく投じたところが本作品の特色というところでして、それは同時に連合軍とドイツ軍の複数主人公たちが織りなす群像劇の同時進行から、連合軍の大陸反攻という一大作戦を交響詩のように織り上げてゆく作品です。

 ロンメル将軍は元帥でドイツB軍集団長、そしてもう一人フランスにはドイツ西部軍総司令官のゲルトフォンルンテシュテット元帥、連合軍はどこに上陸するのか、当時すでに地中海のイタリアに上陸している連合軍はイギリスにも集結しており、イギリスから近いパドカレーか、逆に遠いノルマンディか、オランダベルギーか、どこかに上陸すると備える。

 ハンスクリスチャンブレヒ演じる第352沿岸師団のブルスカット少佐は愛犬のシェパードとともに海岸トーチカに重砲と機銃を並べつつ、師団司令部のノルマンディは遠すぎて上陸はないとの楽観論に不安を抱く。同じ頃第84軍団長マルクス大将はじめ数人の指揮官は、敢えて悪天候に乗じて遠いノルマンディに上陸するのではないかと危惧はしているが。

 ハインツラインケ演じる撃墜王ドイツ第26戦闘航空団司令のプリラー大佐は西方空軍司令部の講じた戦闘機部隊の内陸疎開に電話で激しく抗議する、電話を受けるヘイガー大将に第一線指揮官と撃墜王の勘から、今きたらどうにもならない、海岸線を即座に叩ける位置に戦闘機を戻せと主張するが、自らと僚機以外の戦闘機は遠く疎開したままであった。

 第82空挺師団のジョンウェイン演じるバンダーボルト大隊長と副師団長のロバートライアン演じるギャビン准将とともに第82空挺師団はイギリスで待機しつつ命令を待つ、その命令とはノルマンディ上陸に先立ち内陸部へ空挺降下し、連絡線を遮断し、反撃のために内陸に温存されているドイツ軍戦車部隊主力の海岸堡への前進を身を挺して阻止する任務へ。

 ピーターローフォード演じるイギリス第3歩兵師団コマンド中隊のローバット中佐はイギリス第6空挺師団の兵士とともにグライダーで内陸部を強襲したうえで援軍到着まで橋梁を確保し、死守、最後の一人が戦死するまで橋梁をドイツ軍に通行させないとの命令を受けるが、果たして短機関銃と手榴弾だけの装備でドイツ軍を阻止できるものなのだろうか。

 リチャードバートン演じるイギリス空軍スピットファイア操縦士キャンベル少佐は任務飛行を終え一人パブにグラスを傾ける、戦友が戦死した飛行の直後、声をかけられた同僚にその事実を伝えると同期はもう数えるほどしか残っていないなと呟かれ、しかし次の作戦はより過酷なものになるだろうとの予見し、幸運が続くか倦怠感かとグラスを傾ける。

 ドワイライトアイゼンハワー大将を演じるのはヘンリーグレイス、連合軍総司令官のアイゼンハワー大将は悩み抜いていた、上陸するには大潮など日にちが限定される、時機をはずせば取り返しのつかない人的損耗を強いられ、アメリカイギリスフランスはじめ自由を標榜する有志連合の連合国は枢軸国に破れる、今が決断の時機なのか、悪手で次なのか。

 アイゼンハワーは決断できまい、ドイツ軍上級指揮官は今上陸したならば完璧な奇襲となりうるが、アメリカ軍の北アフリカ戦線での判断力、イタリア戦線での状況を考えれば、政治的な判断を軍人に強いている状況から、アイゼンハワーは決断できないだろうと思い描くそのころ、アイクは幕僚たちを集め、自らの決断を吐露する。こう映画は進みます。

 ロバートミッチャム演じる第29師団副師団長コータ准将は揺れる輸送船の上で延々と続く待機命令とともに、しかし上陸作戦へ備える。上陸作戦では艦砲射撃とともにドイツ軍の海岸要塞を徹底的に叩くはずだったが、彼らが上陸したのは上陸地点を誤り、無傷の海岸要塞がコンクリートの巨大な海岸トーチカ群を聳えさせるまさにその目の前であった。

 史上最大の作戦、世界史で学ぶ通り、オーヴァーロード作戦がどのように進んだのかは歴史として知っています、ただ当時の空気を描こうとしている、それもノルマンディー上陸を背景とした個々の戦闘を描くのではなく全体像として、という、これが史上最大の作戦という映画そのものです。それだけに監督も一人ではなく、数多くの監督が協力している。

 ケンアナキン監督、“バルジ大作戦”の監督として名高い監督はイギリス部分を、有名なドイツ末期戦での少年兵の戦いを悲壮に描くあの“橋”のメガホンを執ったベルンハルトヴィッキ監督がドイツ部分を、朝鮮戦争に挑むF-86飛行隊の活躍を描いた第八ジェット戦闘機隊を撮影したアンドリューマートン監督が、アメリカ部分を、それぞれ撮影しています。

 NHK-BSプレミアムにて明日6月7日1300時からの“プレミアムシネマ”放映映画に放映されます映画“史上最大の作戦”、もちろん平日ですので直接視聴するのは簡単ではありませんが、録画して1944年6月6日の出来事、連合軍にもドイツ軍にも一番長い日となった6月6日戦いの様子を回顧する意味合いのある大作映画、ご覧になっては如何でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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