北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

死を呼ぶ迷惑メール!ウクライナ軍を攻撃,ウクライナ東部紛争ロシア軍電子戦諜報戦の実態

2020-05-12 20:02:14 | 先端軍事テクノロジー
■電子戦争,自衛隊も対策を強化
 富士総合火力演習等において近年は電子戦やデータリンクを重視した展示が行われていますが、実際問題これは現代戦を左右する要素です。

 死を呼ぶ迷惑メール。なにか推理小説じみた表現ですが、このメールは実際にありました、そして単純なホラー小説や怪奇ものの映画では出ないほどの死傷者が出たという。このメールはウクライナ東部においてロシア軍から発信されました。今回、この死を呼ぶ迷惑メールの犠牲となったのはウクライナ軍、ウクライナ東部紛争でのロシア電子戦の戦訓です。

 ウクライナ東部紛争でロシア軍が奇策的な電子戦を行った、産経新聞が2020年5月10日付記事にて報道しました。手法はこうです、先ずロシア軍が広域電子妨害によりウクライナ軍の野戦通信網を完全に遮断します、こうしてウクライナ軍上級司令部と第一線部隊を指揮系統から切り離した上で第二段階、ロシア軍がウクライナ軍第一線へ偽メールを送る。

 ロシア軍からの偽メールであっても指揮系統から遮断されたウクライナ軍第一線部隊は、メールに新しい作戦計画が添付されており、もちろん多少は訝ったのでしょうけれども、虚偽命令で、添付された集結地にウクライナ軍が集まった時機とともにその地点にロシア軍が大規模な砲撃を実施、メールにだまされたウクライナ軍部隊に大損害が、というもの。

 ムルマンスクBNという、ロシア軍は数百km四方のきわめて広い地域のデータリンクを千km以上先から電子攻撃を行い無力化する強力な攻勢電子戦システムを有しています。ムルマンスクBNは大型トレーラ複数に50m規模伸縮式アンテナを搭載し、任意の地域へ展開させる。主に海上の敵艦隊データリンクなどをそのまま無力化、という概念の装備です。

 ロシア海軍の現有戦力ではデータリンクにより高度な連携を行うアメリカ海軍やNATO海軍には対抗できないという前提で、それならば電波通信網ごと広範囲にデータリンクを遮断してしまう、という概念の装備ですが、実際に2015年からのウクライナ東部紛争ではウクライナ国内での広範な電波通信やデータリンク、GPS電波など妨害無効となっています。

 ウクライナ軍の携帯電話メールアドレスなどをどのようにロシア軍が把握したのか、ウクライナ軍展開地域へのエリアメールなのかそれともハッキングやウィルスアプリ等によりウクライナ軍指揮官のスマートフォンに侵入し連絡先などを地道に手繰る手法が用いられたのかは不明ですが、これまでにないコロンブスの卵的な攻撃といえるのかもしれません。

 自衛隊は、例えば災害は県などにおいて携帯電話などが活躍しています。実際、通信機では山陰や錯綜地形により通信に隔靴掻痒の齟齬が生じることはあるようでして、その場合は民間インフラの活用、となる訳ですね。実際、自慢の広帯域無線機などはバッテリー駆動時間の不満などがありまして、災害派遣などでは携帯電話が手放せない、ともいう。

 しかし、自衛隊ではウクライナ東部紛争のような携帯電話に頼る状況は有事の際、特に武力攻撃事態では想定していない、ということではありますが、それでも指揮通信網が不随となっては何もできない、という厳しい認識から近年、電子戦装備や通信脆弱性の払拭に尽力しています。もっともこのしわ寄せが戦車やヘリコプターに及んでいるのですが。

 ただ、携帯電話については、ウクライナ東部紛争にロシア軍が介入を認めていない時点でロシア兵が演習中としてSNSに投稿した写真、ここにGPS座標データが載ったままとなっていて、介入していないはずのロシア軍の兵士がウクライナ国内からSNSを投稿していたと問題になりました。他、携帯電話でテロに失敗した事例もロシア国内、あるのですね。

 ドモジェトヴォ空港自爆テロ事件。ロシアは迷惑メールでテロが発生したことがありました、2011年1月24日にモスクワ州のドモジェトヴォ空港国際線ターミナルの入り口で自爆ベストを装着したカフカス独立派テロリストが自爆テロを行い、これにより37名が死亡する痛ましいテロ事件となりました。そして爆発はターミナル内ではなく入り口で起きた。

 国際空港を狙った事件は、しかしターミナル内ではなくターミナルの入り口付近で発生しまして、37名の尊い生命が失われたことは残念ですが、ターミナル内で爆発していたならば犠牲者は一桁多かったともいわれています。そして捜査の結果、自爆テロ用の自爆ベストは携帯電話で起爆させることも可能である、IED簡易爆発物のようなものだったという。

 携帯電話、ロシアの捜査当局はさらに捜査を進めた結果、自爆ベストに装着された遠隔起爆用携帯電話に、どうも迷惑メールが入ったことで空港内部ではなく空港入り口で爆発した可能性があるといい、当時ロシア首相であったウラジミールプーチン首相、現大統領は、恐らく迷惑メールが人に役立った初めての事例だ、と談話で述べたともいわれています。いやあ迷惑メール、恐いものですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日の丸オスプレイ日本到着!... | トップ | 【京都幕間旅情】誓願寺(浄土... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

先端軍事テクノロジー」カテゴリの最新記事