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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

四月一日防衛論集:宇宙空間の無防備と曖昧な所掌官庁-ウクライナ戦争契機に注目の宇宙戦争や認知領域戦

2023-04-01 20:22:00 | 北大路機関特別企画
■四月一日特集
 四月一日という事で誰も真剣に見ないであろう分野を少し踏み込み過ぎた視点で考える。

 宇宙分野の防衛予算をもう少し検討し、少なくとも宇宙での作戦を防衛作戦の重要な要素として考える必要はないか。これは2023年年始の新年防衛論集では、航空自衛隊の航空宇宙自衛隊への改称に対して、能力が実態に見合っていないとして懐疑的な視点を示しましたが、逆に宇宙での戦闘は、特に宇宙にアクセスできる国家との間では不可避でもある。

 所掌を防衛省とするのか、総務省に別の部局を立ち上げるのかで視点は変ってくるのでしょうが、現在の日本の宇宙戦略は有事というものを想定していない空白状態です、特に通信衛星を破壊され、その上で海底通信ケーブルなどを破壊された場合は日本は有事の際、異空間に放り出されたような情報空白地域となりかねません、この点は全く無防備なのだ。

 通信途絶、これは単に軍事上の情報通信が途絶した場合と限らず、考えて欲しいのは昨年七月に発生したauの大規模通信障害のような状況が組織的な攻撃で発生し、固定回線を含め全インターネットが途絶し、通信通話はもちろんテレビ放送などもジャミングが掛けられる状況となった場合、必然的に鉄道や高速道路料金システムなども影響を受けます。

 金融なども通信システムに依存する部分が大きく、社会は影響を受けるだけではなく存続についても影響する状況となる。auの通信障害は事故でしたが、故意に情報通信遮断を攻撃手段として用いられた場合、通信衛星等を防衛する手段が、その危険性自体を想定外とする事は余りに無理があります。この対策としては、攻撃手段からの防衛しかありません。

 スターリンク衛星、中国はロシアウクライナ戦争においてロシアによるウクライナ通信システム破壊を試みた際、ウクライナ政府が頼りました民間通信システムであるスターリンク衛星により、あらゆる通信が維持され、無人機管制は勿論、携帯電話通信網が維持された事でロシア軍残虐行為の多くが世界に中継され、認知領域戦での優位を確保しました。

 スターリンク衛星の撃墜を中国は検討しているとされる。幾つかの研究機関が指摘するのは、台湾有事などにおいて通信遮断を行うには従来の通信中枢を破壊するだけでは事足りず、スターリンク衛星そのものを撃墜する研究を進めているというものです。スターリンク衛星は一度の発射で多数を打ち上げる為、一機当たりの打ち上げ費用が極めてやすい。

 衛星迎撃能力は存在します、これはアメリカもASAT衛星迎撃ミサイルの実験を1970年代にF-15戦闘機からすでに成功させています、しかしスターリンク衛星の場合は一機当たりの打ち上げ費用が安く、数十機を一度に軌道上へ投入する為に従来の対衛星兵器では費用対効果の面で割に合わないのが利点です、ただここには“従来の”という但し書きがつく。

 キラー衛星をスターリンクのように一度に多数を打ち上げる宇宙スウォームや即席コンステレーションという対抗策がありえますし、小型ですので迎撃には機銃でも十分すぎるものであり、冷戦時代にソ連が衛星に23mm機関砲を搭載し遠隔操作実験を行ったような対抗策も考え得る、対策を死活的重要性と認識するならば、それは不可能ではありません。

 ASAT対応のAASAT,対衛星迎撃ミサイルのような、例えば衛星迎撃兵器の大気圏内からの上昇を防止するシステムを構築する選択肢がありえるかもしれませんし、若しくは宇宙条約の範囲内でのキラー衛星を無力化するシステムを構築する、宇宙について手の届かないというものや、情報とPCでのやりとりではなく、進出する必要は今後迫られるでしょう。

 種子島宇宙センター、日本が独自に有事の際の暫定的な衛星打ち上げ能力を確保する、特に南西有事の際には種子島宇宙センターは想定戦域から非常に近く、その域内に含まれる可能性があります、すると例えばイージス艦のVLSからスタンダードSM-3と同程度の大きさのロケットを開発し、弾頭ではなく人工衛星を搭載するという選択肢が考えられる。

 スタンダードSM-3を例に挙げましたが、防衛省が今後整備する射程2000km規模の反撃能力、という名のミサイルについて、発射装置を応用し、ここから人工衛星、情報収集衛星や通信衛星そのもの、もしくは対キラー衛星用の各種装備たASAT迎撃用ミサイルを運用する、という選択肢もあるのかもしれません。ただし、実現には課題が非常に多い。

 航空宇宙自衛隊、とはいうものの政府は自衛隊へロケット打ち上げ能力を付与させる計画は無いようです、これは今のところ長期計画でも衛星打ち上げ能力が含まれないばかりか、防衛省は独自の人工衛星を有していません、特に偵察衛星の機能を有する情報収集衛星の運用は内閣府であり、なぜ軌道上の確認だけを航空自衛隊が行うのかは不明確なまま。

 宇宙作戦能力は必須、特に相手は宇宙領域の優位性を持っているのだから、この部分での優位を利用しないと考えるのは、相手国が日本と戦争をする際に、陸上自衛隊が地対艦ミサイルを撃たないのではとか、海上自衛隊が潜水艦を使わないのではないか、と期待する程無理があることです。ただ、能力は必要であるものの、どれも必要となる費用は莫大だ。

 空軍を持てない小国のような状況、宇宙分野での防衛力はたとえるならば将来、20世紀序盤に空軍を持てない国が一方的に空からの攻撃に曝される状況と似た状況を生むのかもしれません。これは宇宙での戦闘という安易な区分に留まらず、宇宙にある人工衛星網を守れない事で生じる問題であるため、通信衛星や放送衛星に依存する以上必要な能力です。

 防衛予算は、しかし有限であると共に、宇宙分野を航空自衛隊が担う場合は、それこそリソースの内の少なくない規模を割く必要があり、輸送機や戦闘機や早期警戒機などの調達数に更なる影響が及ぶでしょう。すると、もう一つの命題として、宇宙作戦能力は絶対必要なのだが、自衛隊の所掌か、となる。特に宇宙作戦を自衛隊が行えば海外派遣となる。

 所掌の問題と予算の問題から、防衛省ではなく総務省に宇宙保安庁を設置する選択肢もある。もっとも、ミサイル等を運用する場合は共同運用の形で海上自衛隊や陸上自衛隊との協力が必要となるのでしょうが。ただ、これはサイバー攻撃への所管と同じ様に、防衛とはいっても防衛と名のつく任務が全て自衛隊の所管ではない、という視点にも繋がります。

 認知領域。そしてもう一つ、防衛として考えなければならないのは認知領域の戦いです、これはフェイクニュースの流布対策や、有事の際の我が国主張正統性の宣伝戦なども含まれるのですが。もちろん、これを余り防衛省が中心になり展開しますと、世論作戦や検閲国家という批判を招く可能性があります、しかし防衛省以外の国家機関として、どうか。

 認知戦は実弾の飛ばない戦場ですが、ウクライナにおける通信維持によるSNSでの戦場映像などの世界への個々人による配信は、認知戦の勝利の実例といえます。逆にフェイクニュースにより真逆の情報が流布されていたならば、現在の戦況は大きく悪い方向に代わっていた可能性があります、それは例えば欧米からの武器支援の有無に繋がるためです。

 偽計業務妨害や風説の流布など幾つかの応用可能な法体系は存在する為、制度としての認知戦を行う事は現実的ではあるのですが、この領域に国が主体的に関与する方策も無ければ、フェイクニュースなどを検証する民間の中立的機関に充分な解析規模を有するものがありません。一方、仕掛ける側としては権威主義国家など、事実を国が定義づけられる。

 安全保障上放置できない問題であり防衛にもおおいに関わる領域でありながら、安易に自衛隊や国家が乗り出す事により不充分な、若しくは真逆の結果を生む懸念がある領域が存在します。防衛を考える場合は、こうした部分もふくめてみて行かなければなりません。しかし見るだけでは、相応に負担が生じる事を忌避しがちであり、このことから問題は根深いのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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四月一日防衛論集:日本における核の議論-禁忌を脱し現実的な安保論として向き合う必要性,日韓関係と韓国の議論

2023-04-01 14:40:00 | 北大路機関特別企画
■四月一日特集
 新年防衛論集ならぬ新年度防衛論集として今回は非常に踏み込んだ話題を考えてみましょう。

 四月一日という事で、普段はなかなか踏み込めない領域の話題について少し考えたいと思います。踏み込めない領域、いろいろあるのですが一種禁忌として避けてきました話題は、核兵器の話題です。具体的には、昨年の安全保障関連三文書改訂に明記された、反撃能力整備が、五年十年単位は兎も角として四半世紀後、どう展開するのか、という点です。

 核武装、日本がというよりも、日本は非核政策を国是として掲げつつ、しかし原則論を出ない範疇でのみ論じつづけた事は、結果的に世界政治の、敢えて国際政治という表現を避けるのですが、相関関係における位置づけを曖昧とするとともに、核兵器というものを正面から向き合わねばならない状況に陥った場合の論理基準さえ曖昧としているのでは、と。

 ニュークリアシェアリング、わたしは政治家の矜持を考えさせられた点として昨年、暗殺されました安倍元総理が、ロシア軍ウクライナ侵攻とこれに伴うロシアによる世界への核恫喝に対して、是非は兎も角検討の必要性を示した、ということです。これは反撃能力の整備が、核兵器国であり大量の弾道弾を持つ中国へ反撃の際、避けられぬ視点ともなる。

 核保有国へ通常戦力により攻撃を行った事例はあります、もっとも例に挙げられる1982年フォークランド紛争ではアルゼンチンはイギリスの核による報復の可能性に怖じずフォークランドへ侵攻している、いや1990年湾岸戦争では核保有国とされるイスラエルに対してイラクが弾道弾を発射しています、当然イスラエルの核報復が有り得たにもかかわらず。

 しかし、これが余り参考にならないのは云うまでもありません、フォークランド紛争は限定戦争でありアルゼンチン軍が長躯ロンドンまで侵攻する可能性は絶無でした、湾岸戦争の事例ではイラク軍は化学兵器を相当数保有しており、イランイラク戦争ではアフワズミサイル攻撃などで実際に使用、大量破壊兵器同士の抑止力、恐怖の均衡があったのだから。

 反撃能力、相手が戦争の意志を以て日本へ攻撃を行う以上、反撃能力をまったく不要と反論する事は無く、兵器集積所や港湾や爆撃機基地などに何らかの措置を加える必要はあるでしょう。しかし、日本は戦車や戦闘ヘリコプター、輸送機と火砲やロケットシステムに掃海艇など、かなりのリソースを全廃乃至削減し反撃能力を整備する方針を示しています。

 有事の際の反撃能力は、必然的に他に講じる手段がなくなる事を意味するのですから、相当数を飽和攻撃により撃ちこまねばなりません、すると相手が戦術核による反撃を示唆した場合に、これに対応出来る抑止力は何が有るのか、となる。すると将来、ニュークリアシェアリングによる核抑止力というものが求められる状況もでてくるのかもしれません。

 B-61核爆弾、一方でニュークリアシェアリングは今後十年間で大きな意味の変容を遂げる可能性があります、具体的には従来のニュークリアシェアリングは、自国領域内での核兵器使用が前提でした、つまり冷戦時代であれば西ドイツがNATOの作戦体系の中で使用するというもの、若しくは在韓米軍が韓国国内での核地雷を使用する、というようなもの。

 F-35戦闘機の時代、NATOでは一般的なニュークリアシェアリングの手段として用いられる自由落下方式のB-61核爆弾について、トーネード攻撃機やF-16戦闘機での使用が想定された一方、今後一気に増大するF-35戦闘機はステルス性を活かし、冷戦時代にF-117戦闘機のような機体でなければ到達できなかった地域まで進出できる事を意味するのです。

 戦車と戦闘ヘリコプターを軸とした従来型の専守防衛枠組を再構築し、スタンドオフ兵器のような反撃能力はF-15戦闘機の戦闘爆撃機化や輸送機への搭載と護衛艦や潜水艦からのトマホーク運用に限り、やはり日本は時代遅れと云われても伝統的な専守防衛に固執すべきではないか、しかしそれ以外ならば政治家は核の議論から逃げるべきではないと思う。

 核兵器の問題はもう一つ、韓国の問題があります。こんな話題は四月一日でなければ論じられないものなのですが、韓国が仮に核兵器開発を進める場合、日本は黙示的に支持するのか賛同するのか、逆にインドやパキスタンの核開発の際のような経済制裁を行うのか。唐突と思われるかもしれませんが、今韓国は北朝鮮からの度を越した圧力下にあります。

 韓国世論では核兵器の必要性を示す回答が年々増えており、ここにはアメリカ軍が1992年に撤退させた核兵器の前方展開やニュークリアシェアリングというものも含まれますし、また一歩進んで韓国が独自に核兵器を開発する必要性への理解と支持も存在しています。これは“すでに核兵器を保有し恫喝に用いる北朝鮮”への一つの覚悟なのかもしれない。

 ソウル近郊に一発核攻撃を受けるだけで韓国の防衛は破たんまではいかないにしても、極めて厳しい状況に陥ります。韓国軍はK-2戦車やK-21装甲戦闘車にK-9自走砲とNBC防護能力の高い装備で高度に機械化されているものの、機甲部隊の核兵器への強みは集合と分散の迅速化であり、軍事境界線から50kmというソウルは展開場所が限られるのです。

 独自の核兵器を保有するならば、北朝鮮が韓国には核攻撃を行わないのかもしれない、こうした相互確証破壊の朝鮮半島版のような視点が生まれる事も理解できるのです。バイデン政権は朝鮮半島へニュークリアシェアリングの可能性を2023年に正式に否定していますが、これは恰も朝鮮戦争前夜、アメリカ軍の韓国軍への重火器供与拒否を思い起こさせる。

 韓国が、他に選択肢があるとすれば亡国、という覚悟で核開発を表明した場合、日本は支持するのか黙認に留めるのか、それとも経済制裁を行うのか。核兵器に関する議論は日本では禁忌とされ続けているだけに、一歩として進みません、ただ逆に、核の議論を忌避したとしても核の脅威は現実であり、北朝鮮の核武装は最早不可逆的となったのが現実だ。

 核攻撃の覚悟、もう一つは日本として、核抑止の概念を具現化する施策について無視し続けるならば、日本の反核運動と反核世論の支持は、何発の核攻撃まで耐えられるのかという視座も必要なのかもしれません。わたしは核保有には反対であり、それは核兵器を保有した場合、核爆発が起った際に何処に反撃するかの早期警戒システムの問題がある故です。

 早期警戒システムを整備しなければ、誤って違う国へ報復攻撃を行った事で次の核戦争を誘発する恐れがあります、しかし全地球規模の早期警戒システムや潜水艦発射弾道弾などへの警戒監視体制には荷が重すぎる、例えば大西洋から潜水艦発射弾道弾が発射された場合の監視体制は、日本には現実的に不可能です。他方で核の脅威が有る事も確かという。

 禁忌とされ続けた核兵器の視点、核シェルター整備という代案がありますので消極的ですが、こうした選択肢によりお茶を濁すのが最適解と考える一方、単なる経済制裁では核保有国の核武装解除は不可能であり、海上封鎖位は必要です、しかしそれさえ非現実的な難しさがあるため、現実と向かうには、核兵器の是非まで遡り向き合う必要を感じるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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二〇二三年度-本日から新年度,新しい年度もWeblog北大路機関をどうぞよろしく

2023-04-01 07:00:02 | 北大路機関特別企画


二〇二三年度です。本日四月一日から新年度を迎えました。この新しい年度もWeblog北大路機関をどうぞよろしくお願いしますね!

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