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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

6.12米朝初首脳会談:北朝鮮核廃絶&朝鮮戦争終戦への期待と平和構築-信頼醸成への希望

2018-06-10 20:11:54 | 国際・政治
■日本と在韓米軍-最前線国家
 北朝鮮核武装放棄が明後日の米朝首脳会談において具体的に前進する事は日本の安全保障に大きな影響を及ぼします、そしてもう一つの視点も必要となるのかもしれません、最前線国家、という。

 史上初の米朝首脳会談、北朝鮮核廃絶と経済制裁解除、そして朝鮮戦争終戦が大きな議題となる、文字通り“和戦を決する”首脳会談がいよいよシンガポールにおいて開かれます。また、論題の一つ、朝鮮戦争終戦が現実となれば、米韓相互防衛条約の抜本的な見直しが行われ、可能性の一つとしてアメリカ軍の極東配置が対馬まで後退するかもしれません。

 金正恩朝鮮労働党委員長がシンガポールへ到着した、本日1530時頃、複数のシンガポールメディアが報じ、続いてシンガポールのバラクリシュナン外相が金正恩朝鮮労働党委員長と握手を交わす様子が発表されました。一時は開催も危ぶまれた米朝首脳会談、特に金正恩氏が朝鮮労働党委員長に就任してから、これ程長距離を空路移動するのは今回が初めて。

 トランプ大統領も現在カナダで開催中のG7サミット主要七カ国首脳会議への出席を中座し、予定を早めて大統領専用機エアフォースワンによりシンガポールへ向け出発しました。北朝鮮核開発問題に伴う核廃棄が実現するのか、また新しい論点として急浮上した朝鮮戦争終戦を話し合う、いよいよ史上初の米朝首脳会談は明後日火曜日、午前中に実現します。

 ロイター通信が今月5日に掲載のコラム“アングル:在韓米軍撤退におびえる日本、「最前線国家」の現実味”において、文正仁統一外交安保特別補佐官がアメリカの外交専門誌に寄稿した“北朝鮮と平和協定が締結されれば、在韓米軍の存在を正当化し続けることは難しい”との論文が紹介され、日本にとっての緩衝地帯が変化する可能性が指摘されました。この懸念を払しょくするには信頼醸成が必要だ。

 在韓米軍はヴィンセント-ブルックス大将以下3万名、ソウルの龍山基地に在韓米軍司令部、烏山空軍基地にはアメリカ第7空軍司令部、軍事境界線南方の議政府市キャンプレッドクラウドにアメリカ第2歩兵師団司令部、ハンフリーズ基地に陸軍航空旅団、群山空軍基地に第8航空団、が置かれ在日米軍の後方支援と緊急展開部隊と共に同盟国韓国を防衛する。

 龍山基地の在韓米軍は一見韓国軍52万名と比較し小規模とみえますが、有事の際には米韓合同司令部指揮権が在韓米軍司令官にあり、韓国軍全軍を指揮します。この為、大規模部隊の作戦運用と戦闘支援に兵站維持の面で米軍には卓越した経験と桁違いの能力があり、実質、在韓米軍の駐留有無は韓国安全保障の骨幹を担うといっても過言ではありません。

 朝鮮半島有事の際には日本が最前線となる可能性、これは北朝鮮人民軍100万と韓国軍52万という戦力差とともに、仮に核戦力を廃止した後でも北朝鮮が南進に着手した場合、人民軍100万が南北軍事境界線から南に60kmのソウル中心部まで一挙に侵攻した場合、在韓米軍とインド太平洋軍の支援なしで、韓国軍だけでは阻止できない可能性があるのです。すると、通常戦力削減、というよりも武力紛争回避への信頼醸成が必要となりましょう。

 弾道ミサイル脅威一つとっても、現在は日本国内のミサイル防衛は横田基地の日米調整所を通じ情報を共有していますが、北朝鮮方面からの日本への弾道ミサイル攻撃に際し、最初のミサイル情報を発するのは在韓米軍のTHAADミサイル用早期警戒レーダーです。北朝鮮弾道ミサイル脅威が残る中での米軍撤退が仮に行われれば、その影響は極めて大きい。

 マティス国防長官は在韓米軍撤退という、この点について“検証可能かつ不可逆的な措置が示されない限り、対北朝鮮制裁は緩和しない”今月3日、シンガポールで小野寺五典防衛相や韓国の宋永武国防相との会談後、記者会見において発言し、“米国が北朝鮮との取引の一環としてこの地域の米軍規模縮小を打ち出す可能性はない”とも重ねて明言しました。

 最前線国家という概念は、北朝鮮と国境を接し宥和的な友好国と日本の軋轢にも影響を及ぼします。その上で、核武装解除について、特に重要なのは不可逆的な、つまり核開発基盤そのものを核兵器本体の撤去と共に実施し、既に実行した核開発能力が再構築されないよう、核燃料濃縮能力や核開発技術者の退去、核兵器運搬手段の廃棄と開発能力の撤去が実現されなければなりませんが、核拡散防止の国際公序を無視した代償を北朝鮮が、そして北朝鮮に宥和的な諸国が受け入れるかも課題となる。

 検証措置が、一方的な核廃棄宣言に終わらないよう実施される必要があり、専門家立会いを待たずしての核一見城閉鎖宣言、移動式弾道ミサイル開発後の今月6日に衛星写真などから確認された平安北道亀城の大陸間弾道ミサイル実験施設の撤去等、表題には挙げられるも実質的な廃棄が検証出来ない形式的な核廃絶アピールのみ積み重ねられる可能性も。この検証を欠いて、例えば邦人拉致問題の様に一方的終了宣言となった場合では、短期的にも最前線国家となる日本への影響は大きいといわざるを得ない。

 在韓米軍の意義は北朝鮮からの同盟国韓国防衛と同時に、韓国が中国に呑込まれないよう軍事的プレゼンスを示すという点も忘れてはなりません。中国は民主化運動への過度な抑圧、他国主権や海洋自由原則への軍事的圧力、周辺国への軍事行動の実施と正当化等、国際公序には必ずしも則らない施策を継続しており、巨大な軍事力とその対外的拡大は、環太平洋地域とアジア地域の懸念事項です。

 最前線国家、という懸念は韓国が国際関係において自由主義や民主主義と抑圧的政策と全体主義的な施策如何を問う、というよりも巨大な経済圏の前に前記概念を曲げず維持できるのか、という、特に韓国民主化が1987年と歴史が浅い点からも懸念されるもので、この部分での北朝鮮に宥和的な隣国からの圧力が強まり続け、実質的な屈服となった場合には、最前線国家は、韓国から日本となる可能性、否定できません。

 我が国は、アメリカの自由主義と海洋自由原則や民主主義と人の尊厳、原初状態としての平等という価値観を共有しつつ、同時に防衛政策ではアメリカに依存する部分が大きく、仮に在韓米軍の撤退となれば、1992年のピナトゥボ火山噴火に伴う在韓米軍撤退以上に大きな影響を及ぼし、我が国防衛政策や防衛力も抜本強化へと再考を突き付けられましょう。だからこそ、平和構築-信頼醸成への希望、平和構築-信頼醸成を欠く拙速な対応が画定されないのか、重大な関心事でしょう。

 朝鮮半島平和が実現する事は、朝鮮半島を対岸とする日本にとっても非常に喜ばしい事です。しかし、その平和実現が次の朝鮮半島有事までの時間的猶予であってはなりません。またそれ以上に、平和主義を掲げる我が国に周辺国がその平和主義を悪用する形で、我が国に対し軍事的脅威を及ぼし、日本国民の平和的生存権を脅かす事があってはなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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