北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

6.12米朝初首脳会談:開催実現曇天,核廃絶と経済制裁解除巡る米朝温度差と遠いシンガポール

2018-05-24 20:18:23 | 国際・政治
■朝鮮半島情勢緊張突沸も懸念
 朝鮮半島有事邦人救出検証、というシリーズを開始した当時は南北融和機運が巡り時代錯誤な、という声を頂きましたが、杞憂に終わる事を期待しつつ。

 シンガポールにて来月12日開催予定となる史上初の米朝首脳会談について、北朝鮮側が核武装解除などに大きな難色を示しており、アメリカ側が核廃絶を経済制裁解除の第一条件とするならば、首脳会談実施そのものを中止する可能性を示唆、アメリカ側を強く牽制しています。しかし、首脳会談中止となれば緊張が一挙に高まる可能性が否定できません。

 北朝鮮核武装放棄は米朝首脳会談最大の課題ですが、即座の核兵器引渡と米国内での解体、核関連技術者の出国による再開発阻止、といった選択肢、ボルトン安保補佐官によるリビア方式核開発放棄構想が伝えられると共に、北朝鮮側の段階的制裁解除、核実験場閉鎖、核弾頭発射施設撤去、核兵器廃棄、徐々に制裁を解除させる要求から対立してゆきます。

 朝鮮半島情勢の緊張は日本本土にとり対岸の火事ではありません、日本本土は環太平洋地域の自由主義や海洋自由公序への一大拠点であると共に西太平洋における米軍と朝鮮戦争国連軍最大の後方拠点となっており、弾道ミサイル攻撃や生物化学兵器等による後方攪乱、特殊部隊による後方攪乱等の軍事行動における標的と成り得、本土有事の懸念が常に在る。

 トランプ大統領は23日、Twitterを通じ“6月12日はうまくいかないかもしれない”とし、米朝首脳会談の実施が延期される可能性を示しました。また、米朝首脳会談の仲介を目指す韓国の文大統領が訪米しましたが実利は少なく、ホワイトハウス滞在時間は米韓首脳会談と昼食会を合わせて二時間に留まったことが23日付CNN報道にて明らかになりました。

 シンガポールでの米朝首脳会談は、当初から難点がありました、それは金委員長がどのようにしてシンガポールまで移動するかという点です。北朝鮮は前の金正日委員長時代には基本的に旅客機や専用機での移動を忌避しており、モスクワ訪問を含め基本的に外遊は専用列車を使用していました、大韓航空爆破事件等過去の特殊作戦の報復を警戒した為とも。

 北朝鮮国営高麗航空には政府専用機としてIl-62M旅客機がありますが満載状態での航続距離は3000kmと短く、航続距離5800kmというTu-204-300型旅客機が若干数ありますが、中国を経由する必要があります。そして金委員長自らが移動する事は出来たとしても、自身がシンガポールで移動に用いる防弾リムジンなどを輸送する事も、簡単ではありません。

 朝鮮半島情勢突沸の懸念は、17日付CNN報道にて平昌五輪前に在韓米軍家族避難準備をトランプ大統領が当時のマクマスター安保補佐官を通じ命じていた事から、現実的な選択肢として在韓米軍家族が危険にさらされる水準の軍事行動を選択肢に含めていた事を示唆しています。緊張増大ならば、国内重要施設警備やミサイル防衛体制強化が必要でしょう。

 豊渓里核実験場の閉鎖、NHK報道では北朝鮮側が本日中にも坑道を爆破する様子を日本を除く外国メディアへ公開するとの事ですが、北朝鮮側が米朝首脳会談予定日に先立って核実験場閉鎖を宣言する事で最初の譲歩をアメリカより引き出す狙いがあるといえます。ただ、IAEA核関連技術者の立会が許されない中での施設閉鎖はその実効性を検証できません。

 検証措置は、核武装解除が確実に為されるかを左右する重要要素ですが、24日付日経新聞報道では、米英中ロ韓5カ国のメディアが線量計の持ち込みを拒否されたなど、そもそもの検証を受け入れる姿勢さえも見せておらず、北朝鮮が核廃絶を自称した場合でもアメリカをはじめ国際社会がその廃絶を確認できないとの状況が米朝の新しい隔たりとなり得る。

 緊張増大となった場合の影響ですが、弾道ミサイル実験の再開という可能性が第一に挙げられます。昨年に北朝鮮が発表したグアム方面への包囲攻撃と弾道下の山陰山陽四国地方へのミサイル部品落下の警告は正式には取り下げられていません。イージス艦とPAC-3部隊は今後緊張状態に応じ、その待機態勢を即応体制のまま維持する必要が当然出てきます。

 韓国在留邦人救出、朝鮮半島有事には喫緊の課題は大量の邦人を戦闘地域から救い出す任務が最大の課題となりますが、兵站拠点である日本へは化学兵器による攻撃、北朝鮮は神経ガスVX保有はマレーシアでの金正男氏暗殺に際し使用した事で疑いようのない事実ですが、懸念があり、また特殊部隊浸透等へも自衛隊治安出動により警戒する必要もある。

 瀬戸際外交、という概念は北朝鮮が戦争一歩手前の緊張状態の中で相手からの譲歩を引き出す手法として1993年の朝鮮半島核危機以来実に四半世紀にわたり継続されている。即ち突沸する緊張状態というものを常に認識し我が国は万全準備体制が求められます。文大統領と金委員長との板門店南北首脳会談が示唆した緊張緩和も、瀬戸際外交の振れの一つだったといえましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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