北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

現代陸上戦闘におけるオートバイの位置づけ

2007-02-20 18:31:45 | 先端軍事テクノロジー

■オートバイ斥候

陸上自衛隊では、その発足の頃よりオートバイの運用を行っており、各国陸軍からは既に連絡用途以外には軽輸送など限られた部門でしか運用されていないオートバイも、斥候用途として陸上自衛隊が展開する各種作戦などに従事している。

Img_2112  小型で文字通り小回りが利き、軽快な運動性を誇るオートバイ斥候は、極めて突破困難な地形も迅速に踏破し、部隊の情報収集に従事するもので、大型車輌ではエンジンから発する赤外線や走行時の騒音などにより位置が特定されやすい為、オートバイの利点を最大限に活かす事が出来る。ちなみに米軍のM-3騎兵戦闘車や英軍のスコーピオン、若しくは陸上自衛隊の第七偵察隊が運用する74式戦車のような戦闘車両を用いて、戦闘を展開することでその反応を観測することが偵察、敵の有無を隠密裏に探るのが斥候である。

Img_0550_1  オートバイは機甲科の偵察隊斥候小隊のみならず、戦車大隊や普通科連隊本部管理中隊の情報小隊などにも配備され運用されている。情報小隊とは、小規模な斥候などを通じて自隊の行動に際しての情報収集を行うものであるが、装備などは基本的に同じものが用いられているようである。他方で、自衛用の装備は携帯する小銃のみであり、基本的に機動力を最大の武器とし、やむをえない場合を除いては戦闘を極力回避するという運用を行うようで、その為にオフロードバイクの性能を最大限に活かした訓練を行っている。

Img_2445  偵察隊の訓練は、屈曲狭小路通過時のバランスコントロールを培う八の字、逆ハンドル時の対応を期したステップドリフト、重心移動を克服するシーソー、連続段差昇降を可能とする丸太越、一本橋による低速走行時のバランスコントロール、階段でのスピードコントロール、斜面での方向転換能力を培うキャンバー走行、丸太橋、アクセルターンを会得し、最後には林内走行を習得し、これを如何に短時間でこなせるかを訓練する。こうして、最悪の地形においても最善の判断を反射的に下せる能力を体で覚えるという。

Img_8542  こうした任務に対応するべく、1950年代にホンダドリームより始まったオートバイは、幾多の装備近代化を経て現在、旧型のホンダXLR-250と新型のカワサキKLX-250Rが運用されている。旧型新型といっても、民生品のオフロードバイクに対して無線機設置用の部分を追加し、バーなどを追加した自衛隊仕様であることから、74式戦車と90式戦車のような抜本的な性能変化があるわけではなく、構造寿命に伴う装備変更というかたちであるという。

Img_3725  しかし、軍用のオートバイとは斥候用途というのは稀有であり、連絡用途、軽輸送などに用いられることが多いという。米軍も冷戦時代にM-60A3戦車の後部にオートバイを搭載し、指揮官連絡用途に用いようと検討したことがあり、また、スウェーデンでは弾薬輸送や負傷者搬送など、広範に用いられている。こうした用途には、操作性が容易で、特殊な機材が無くとも整備が行える車輌が選定されている。無論、陸上自衛隊の偵察隊のような訓練も広範に行われているわけではない為、能力に限りはあるが。

Img_2021_1_1  訓練展示や総合火力演習の度に、その高い技量には驚かされるものがあるが、斥候という任務自体、競合地域(彼我の勢力が混在している地域)に対して、小規模の部隊が浸透することであるから、多分に特殊作戦部隊としての性格を有するものであり、そうした任務に対応する為に、前述したような訓練が必要であり、部隊としても厳しい訓練により洗練された人員の確保が必要である。いわばオートバイは熟達した能力を発揮する装備であるのだが、斥候用途以外のオートバイ用途は必ずしもこの限りではないように思えるのである。

Img_2520  地皺の多い日本列島においてはオートバイ斥候の有する能力は高く評価されるといえる。これは、閉所戦闘における弾薬や医薬品などの緊急輸送にも用いられるものであるが、他方で、操作性の高いオートバイを更に広範に配備し、少数精鋭の偵察部隊や情報小隊のみならず、部隊の柔軟な運用を期するオートバイ運用も考えられるのではないだろうか。

HARUNA

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