北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

自動迫撃砲搭載型高機動車の必要性

2007-02-09 23:22:36 | 先端軍事テクノロジー

■米軍で進む自走中迫撃砲の試験

 アメリカ陸軍では輸送コンボイの警護や市街戦に対応するべく、2004年より海兵隊と共同で機動性に富む砲兵体系の構築を研究中である。

Img_0630  アメリカ陸軍のみならず陸上自衛隊や各国軍隊では歩兵部隊(普通科部隊)の前線直協火力として必要な地域に直接火力を投射可能とする軽便な中口径迫撃砲を配備させている。写真は陸上自衛隊で運用される81㍉迫撃砲L-16であるが、こうした迫撃砲は分解することで人力搬送が可能であり、例えばインドシナ紛争ではその趨勢を決めたディエンビエンフー攻防戦でも人力搬送された迫撃砲による火力がその戦闘の決着に大きな作用をもたらした、とされる。

Img_2122  そもそも迫撃砲とは、日露戦争に際して最も大規模な戦闘の一つに数えられる旅順要塞攻防戦において、手榴弾をより遠くに投射する方法として、手筒花火にヒントを得て現地で工兵部隊(自衛隊で言うところの施設科部隊)で急造された木製火砲がルーツであり、これが第一次世界大戦で今日に続くストーク式迫撃砲に展開してゆくのである(日本では曲射歩兵砲として逆輸入)。砲身肉厚が薄い為軽量である反面、発射装薬が少ない為初速が遅く命中精度は従来火砲より劣るとされる。

Img_9134_1_1  さて、写真は陸上自衛隊の高機動車であるが、この車輌に大きな影響を与えた米軍の高機動多目的車輌(HMMWV:ハンヴィー)の後部にルーマニア製ワシレーク2B9型82㍉迫撃砲を搭載したものが、ノースカロライナ州の第82空挺師団、ヴァージニア州の海兵兵器試験場で試験されているという。同82㍉迫撃砲は半自動装填により毎秒4発、一分間の最大持続射撃速度は120発という性能を発揮し、市街戦や車輌縦隊警護、重要施設警備に大きな威力が期待されているという。

Img_2488  さて、米軍では陸上自衛隊と同じように重迫撃砲として120㍉重迫撃砲を有しているが、ハンヴィーの後部には120㍉重迫撃砲は搭載不可能ということである。他方で、ハンヴィーの後部に搭載出来る最大火力という82㍉迫撃砲を運用している為、一発あたりの火力や射程は当然異なるものの、機動性の高さを活かし、状況の進展に極めて早く対応、必要な地域に対して迅速且つ効果的な火力投射により、その威力を補うことが可能であるとの結論に至ったようだ。

Fh000002  写真は陸上自衛隊の96式自走120㍉迫撃砲であるが、これと同様にM-113装甲車に120㍉迫撃砲を搭載しイラクにおける市街戦では大きな威力を発揮しているM-106A3自走120㍉迫撃砲やオーストリア製自動装填式四連装120㍉自走迫撃砲MMS-4、密閉砲塔様式のスウェーデン製自走迫撃砲AMOSなどが開発されているが、現在試験中のハンヴィー搭載型中迫撃砲は、より安価であり、且つ実用性が高く、広範な装備(例えば軽歩兵中隊に対しても)に適している装備といえる。

Img_7829_1  現在、陸上自衛隊では81㍉迫撃砲を原則として73式小型トラックに搭載し、必要に応じて車輌から降ろすことで運用しているが、射撃準備にある程度の時間を要することは否めない。車載式では無論、現段階ではどの程度の命中精度を得られるか、また果たして日本において半自動装填式迫撃砲の高機動車搭載型を開発する技術的土台があるかは未知数ながら、特にコンボイ護衛や市街戦など、いわゆるゲリラコマンド対処という任務はハンヴィー搭載型中迫撃砲を生んだ土壌と似たものがある。

Img_2135  他方で、軽装甲機動車の配備が開始された頃には、車体後部の扉配置や車体形状からこの81㍉自走迫撃砲型が生まれるんどえはないかとの説が誌上に流れた。この点、確かに火力拠点である自走迫撃砲は攻撃の対象となる可能性がある為、従来型のL-16をそのまま搭載するという論理は説得力を有するが、標桿の問題や後部形状から考えれば車体設計の一部変更が必要となる可能性があり、そうした問題が解消されたとしても、軽装甲機動車とL-16で価格は6000万円近くなる可能性があり、やや安価な高機動車から派生型を開発するほうが配備の広範化に寄与しよう。

Img_2392  何となれ、従来の地上戦闘は野戦を念頭にした火力投射の応酬を転機とする陣地占領に主眼が置かれていたが、今日の“非対称型の戦い”ではこの限りではないように思う。したがってやや地味ながら迫撃砲の高機動車搭載、米軍で検討されている命題ではあるが、これはある程度、陸上自衛隊においても検討に値するものではないだろうか。

HARUNA

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