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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

5000t型護衛艦 19DDのもたらす洋上防衛能力

2007-02-07 14:28:14 | 先端軍事テクノロジー

■最新型汎用護衛艦

 1982年より12隻が就役し、護衛艦隊の主力汎用護衛艦として、また新型護衛艦就役後は縮減される地方隊のワークホースとして活躍する“はつゆき”型であるが、近代化改修を受けるか、代替艦建造の決断が迫られる時期となってきた。今回は、アクセス解析などで好評の19DDを特集したい。

Fh000003  こうした中で平成十九年度防衛予算概算要求に盛り込まれた新しい護衛艦、“DD5000トン型”は19DDとして建造される新型艦が海上自衛隊に配備されることを示していた。

 防衛予算概算要求に記された“概要図”では、基本的に現行の護衛艦船体の設計を踏襲したもので、“むらさめ”型、“たかなみ”型の拡大改良型というものが的を射た表現となろう。一部で構想されていたような日本版ズムウォルト級駆逐艦、というような画期的な船体構造を有しているのではなく、誤解を恐れずに記せば欧州において建造が進む新型フリゲイト群に類似する印象を受ける。

Img_1400_1  この概要図においては“護衛艦部隊の防空重視グループのイージス艦が弾道ミサイルの警戒及び対処に従事している際に、航空機、潜水艦、水上艦艇等による攻撃から防護する等の機能を有する護衛艦(DD(5000トン型)を整備)”(P20よりそのまま引用)とある。この部分から従来の護衛艦は個艦防御能力を維持しつつ艦隊の作戦行動に従事する用途にて進められていたが、更に本艦では進んだ防御能力を付与させることが意図されていることが読み取れる。

Img_0823  さて、この19DDの先進的部分であるが、“あぶくま”型で船体に傾斜を設けるというかたちではあるものの試験的に導入され、“むらさめ”型以降上部構造物に対して本格的に導入された船体ステルス性の機能が特に重視された形状となっている。これにより搭載艇やSSM発射筒、更にアンテナマスト部分などがレーダー反射を最低限に抑える形状となっており、また前方の5in砲なども砲本体や周囲の船体へステルス性を考慮した覆いが為されている。

Img_0886_1  搭載する装備において先進的部分は第一にレーダーシステム、第二に5in砲である。レーダーシステムは、船体上部構造物艦橋直上と、ヘリコプター格納庫上部にアクティヴフューズドアレイレーダーらしきものが描かれており、これは試験艦“あすか”において試験中であった国産の射撃指揮装置3型(以下FCS-3)の改良型が、現在建造されている16DDHに続いて本型にも搭載されるものと思われる。特に米海軍が低空対処用XバンドレーダーPQ-9Bを各艦艇に追加搭載していることからイージス艦に用いられるSバンドレーダーは低空小型飛翔物体(対艦ミサイル)対処能力に問題があるのではといわれており、この部分で先進性のあるFCS-3の搭載には期待が持たれる。しかし、FCS-3については、試験艦“あすか”において試験開始から実用化まで時間を要しており、各種性能で極めて高い能力を発揮しイージスシステムとの競合により水面下では外交問題となったのではないかとの指摘、若しくは何らかの不具合のあるのではないかとの二つの解釈が成り立つ。しかし、配備に至ったとのことで問題の解消を見たと考えることも出来よう。

Img_9312  5in砲は、“たかなみ”型が搭載しているOTOメララ社製5in砲とは異なり、形状から判断するに米海軍が運用する最新型の62口径5in砲Mk45Mod.4が搭載されるものと思われる。本砲は“あたご”型ミサイル護衛艦に既に採用されているが、発射速度が従来砲と比較し劣る為、対空戦闘には必ずしも適しているとはいえないものの、射程延伸弾を用いることで100km以上の射程を有しており、対地攻撃能力を重視している砲である。これは、例えば沿岸から100km以内に配置された弾道ミサイルに対する策源地攻撃用途に用いることも可能であり、更に島嶼部防衛用では地上設置火砲の射程外から島嶼部防衛の為の火力投射が可能となることを意味する。持続射撃性能や迎撃が困難である砲弾を投射する能力は浅海域での戦闘に際してある程度のポテンシャルを付与することが期待される。

Img_6258  概要図によれば搭載するミサイルは、SSMを除き“たかなみ”型と同じように艦橋前部のVLSに集中格納されるようである。VLSのセル数は概要図には記載されておらず、現行の32セル型か、48セル程度が搭載されるのかは不詳であるが、発展型シースパローSAMことESSMはVLS1セルに対して四発が格納できる為、16セル分に64発を格納でき、射程は60kmと現行のターターSAMシステムで運用されるスタンダードSM-1ミサイルの射程を大きく凌駕する。更に誘導に用いられるFCS-3改が多目標同時対処能力を有していることから、“はたかぜ”型を越える広域防空能力を有する可能性も考えられる。また、一説にはESSMのみならず、より長射程のSM-2を搭載することも可能ではないかとの意見もあった。しかし、ミサイルを誘導するイルミネーターが概要図に含まれていない為、FCS-3による誘導が不可能ならばSM-2の搭載は考えにくい。

Img_9717_1  概要図より気付かされるもう一つの点は、ヘリコプター運用能力である。艦載ヘリコプターの運用には、波浪時や強風時において着艦を支援する着艦拘束具が必要である。海上自衛隊では飛行甲板に移動式の拘束具“ベアトラップ”と搭載することで支援しているがDDHを除き、いままで一つであったベアトラップが概要図の後部甲板を見る限り二つ配置されているように見える。実のところ、“あさぎり”型以降の汎用護衛艦は常時1機を搭載していたが必要に応じて二機を収容できる格納庫の余裕があった。しかし、ベアトラップは一機分のみであった為その能力は限定的であったのだが、概要図の通りならば更に一機を常時搭載することが可能である。最新型のSH-60Kは対潜哨戒のみならず、対艦攻撃用のヘルファイアミサイルを搭載し、高速ミサイル艇に対する対処能力や、機材を短時間で下ろすことができ、邦人救出の際に人員輸送にも用いることが可能で、こうした機体は大いに越したことは無い。

Img_1162  他方で今回は装備見送りとなった幾つかの装備がある。概要図には個艦防護火器として高性能20㍉機関砲が描かれているが、この部分にはRAM近接防空ミサイル21連発射機の搭載計画もあったといわれる。これは射程9.6kmの小型ミサイルで、“ヤホント”や“サンバーン”といったロシア製超音速対艦ミサイルに対しても高い防御能力が米海軍の試験で確認されている。20㍉機関砲弾では有効射程は1.95km程度といわれ、従来の亜音速ミサイルに対して音速の二倍から三倍で突入するものに対しては、仮に先端部分の誘導装置を破壊したとしても惰性で飛翔体本体が体当たりする可能性も高く、より長距離で対処が可能なRAMの導入は、更に先延ばしとなったようである。ただ、20㍉であれば、管制方式を変えれば工作船などの船体射撃に用いることも可能であり、この点が重視されたとも考えることは出来る。

Img_0748  見送られた部分としては、技術研究本部において開発中と伝えられたAdvanced Enclosed Mast(先進型包容式マスト)が開発中と伝えられていたが、19DDへの搭載は見送られたようである。概要図を見る限りではアメリカ海軍のアーレイバーク級ミサイル駆逐艦のようなステルス式マストが採用されるように概要図では記載されている。先進型包容式マストは、やはりレーダー反射面積を拡大させる一因となる各種レーダーやアンテナ部分を電波透過性の高い複合素材で覆うことでステルス性を付与させるもので、塔型マストとも称される。また、余り関係のあるものではないが、ヘリコプター甲板に段差を設け、資材運搬を容易なものとしたいわゆる“オランダ坂”は今回の概要図には盛り込まれていない。1955年度計画での護衛艦“あやなみ”型以来の日本型艦容の一つであったが、ステルス性という時代の波に消えてゆくということなのだろうか。

Img_1646_1  全体的にバランスの取れた艦というのが印象であるが、こうした艦艇の必要性もさることながら他方で、沿岸警備や島嶼部防衛、邦人救出や緊急人道支援任務などの戦力投射能力では、従来のような単一艦艇では限界が来ているのではないかとの印象も拭えない。更に財政的問題から艦艇大型化という流れのみでは全体の能力バランスにも影響が生じることも考えられ、例えばアメリカの沿海域戦闘艦やフランスのスウォードシップのような3000㌧クラスの艦艇についての研究も行う必要はあろう。

HARUNA

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コメント (5)
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