熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立能楽堂・・・第60回式能

2020年02月16日 | 能・狂言
   第60回式能は、16日、国立能楽堂で開催された。
   「五流宗家・正式五番能」と銘打ち、古式に則り、「神・男・女・鬼の五番立」を標榜する本格的な舞台を、朝の10時から夕刻の19時20分までのロングランである。
   わたしは、2012年から通っているから、今回で9回目である。
   プログラムは次の通り、
第1部
能 喜多流「翁(おきな)」友枝昭世/三番叟(さんばそう):野村万蔵
「竹生島(ちくぶしま)」香川靖嗣
狂言 和泉流「鍋八撥(なべやつばち)」野村 萬
能 観世流「盛久 夢中之出(もりひさ むちゅうので)」大槻文藏
狂言 大蔵流「寝音曲(ねおんぎょく)」茂山忠三郎
第2部
能 金春流「羽衣 替ノ型(はごろも かえのかた)」金春安明
狂言 和泉流「昆布売(こぶうり)」石田幸雄
能 宝生流「藤戸(ふじと)」佐野由於
狂言 大蔵流「腰祈(こしいのり)」大藏彌右衛門
能 金剛流「乱(みだれ)」廣田幸稔

   能の舞台の場合、「翁」の開演中は一切見所への入場は禁止されるので、翁が上演されるときには、遅刻は致命傷なのだが、遅刻常習犯の私は、これまで、2回も貴重なチャンスをミスっている。
   歌舞伎や文楽の場合には、「寿式三番叟」という形で演じられるからであろうか、私は、途中でも入れてもらったので、能ほど、格式には拘らないのであろう。
   翁は、「とうとうたらりたらりら、・・・」と荘重な謡から始まるのだが、誰にも意味が分からないらしい。しかし、安田登氏が、この「あらたらたらりたらりら」の詞章は、チベットの「ケサル王伝説の最初に謡う神降ろしの歌」だと言っていて面白い。
   学生時代に、安田徳太郎の『万葉集の謎』を読んで、日本語の起源はレプチャ語であると言う理論に興味をもったのだが、レプチャ語は、インドと中国に挟まれたシッキムで話されている言葉だと言うから、隣のチベット文化の影響を受けていてもおかしくないという言うことかもしれない。

   「翁」は、人間国宝友枝昭世の実に荘重な舞台で、観世流のように千歳をシテ方が演じるのとは違って、面箱持・千歳は野村又三郎、三番叟は野村万蔵で両方とも狂言方で、非常にエネルギッシュで格調高い舞台であった。
   この「翁」が始まってから能「竹生島」狂言「鍋撥」まで、途切れる事なき連続上演で3時間、流石に「翁」中はないが、途中で 席を立つ人が多い。
   緊張感の頂点は、「翁」までで、因みに、式能の最後「乱」までには、相当の客が見所から消えてゆく。
   江戸時代の式能情報はよく分からないので,何とも言えないが、一般庶民相手の歌舞伎や文楽などは,通し狂言が多かったようで、朝から晩まで連続上演で出入り自由で、飲食も自由であったというし、今でも、大阪の国立文楽劇場では、観劇中に弁当を食べている人を見かけることがある。

   さて、能5番なのだが、私は、他のは何度も見ているのだが、「盛久」と、「乱」は、初めてであった。
   「猩々」は観たことがあるので、「乱」の妖精猩々の巧みな足裁きが興味深かった。

   「羽衣」は、何回観ても美しい。
   能は、削ぎに削ぎきったシンプリファイの頂点を極めた究極の古典芸能だと言うことだが、装束と面に関する限り、妥協の余地がないほど華美を極めて、時には、装飾過多と思えるほど美を追究して創り上げられた日本美の象徴だと思われる。
   この素晴らしい天女の衣装を身につけて美の結晶とも言うべき面のシテ天人の姿は、実に美しくて、緩急自在の囃子と謡いに載せて、舞台狭しと、舞い続けるのであるから、凄いの一言に尽きる。

   狂言は、これまでにすべて観ている。
   面白かったのは、「昆布売」。シテ昆布売 石田幸雄、アド何某 野村萬斎
   供を伴わずに外出した何某が、旅の途中、昆布売を脅しあげて太刀持ちにするのだが、従者扱いに腹を立てた昆布売が、太刀を抜いて逆に脅して、昆布売りをさせて、太刀と刀を取り上げて逃げてゆくという話である。
   昆布売が、「若狭の小浜の召しの昆布」と謡っていたので、昆布は北海道のはずだと思っていたのだが、調べてみると、北前船で、蝦夷地から船で運ばれてきた商品を若狭湾で陸揚げされて陸路で京都に移送されており、昆布もその一つで、小浜で加工されていたという。「召し」は、高貴な人が召し上がると言う意味で、足利義政に献上されてから、「若さの召しの昆布」と呼ばれるようになったと言う。
   浄瑠璃節や踊り節などで、昆布を売る謡いと舞い踊りが面白い。

   とにかく、充実した貴重な式能公演で、人間国宝野村萬や大槻文藏が、至芸を披露した。
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