熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立劇場・・・九月文楽「不破留寿之太夫 ファルスタッフ」

2014年09月14日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   この口絵写真(HPより借用)を見れば一目瞭然だが、シェイクスピア戯曲のファルスタッフを主役にした新作文楽「不破留寿之太夫」は、正に、良質のミュージカルを鑑賞している感じで、非常に密度の高い喜劇でもあり楽しませてくれる。
   舞台展開が実にスムーズでダイナミックなので、インターミッションなしの1時間20分の一幕物の舞台だが、そこは、シェイクスピア戯曲を凝縮した作品なので、魅力満載で、息もつかせぬ舞台展開が、これまでの文楽と大きく違っていて新鮮である。
   舞台劇としても、ストーリーを凝縮してオリジナリティを出しての舞台展開でありながら、シェイクスピア劇やオペラの舞台にも遜色なく上出来である。

   人間国宝三味線の鶴澤清治師の監修作曲で、シェイクスピアを知り尽くした河合祥一郎東大教授の脚本、イングリッシュ ナショナル オペラで舞台芸術を学び多くの斬新な舞台デザインで定評のある石井みつる氏の衣装とセットを含めた美術であるから、全く、別世界の文楽である。

   最後に、春若(和生)に追放された不破留寿之太夫(勘十郎)が、琴と胡弓の奏するグリーンスリーブスの楽に乗って、舞台から降りて、花道の位置の客席通路を静かに退場して行くラストシーンなどは、実に感動的で、通い詰めたロイヤルシェイクスピア劇場の舞台を彷彿とさせて、涙がこぼれるほど懐かしかった。
   丁度、5-12の私の座席の真横を、勘十郎の遣う不破留寿之太夫が、通って行ったのだが、ひょうきんながら堂々とした人形の姿が、臨場感たっぷりで、感激であった。

   さて、この文楽「不破留寿之太夫」は、シェイクスピアの「ヘンリー4世」と「ウインザーの陽気な女房たち」をミックスした舞台だが、後者をベースにしたヴェルディのオペラ「ファルスタッフ」やオットー・ニコライのオペラ「ウィンザーの陽気な女房たち」、狂言の「法螺侍」と違うのは、この文楽だけは、「ヘンリー4世の舞台」を核にして、ウィンザーの方の二人の陽気な女房たちとその夫を取り込んで面白くしたところである。


   ヘンリー四世の頭痛の種は、皇太子のハル王子(後のヘンリー五世)が、ごろつきどもと居酒屋などで遊び回っていることで、その一番の親友が放蕩無頼で悪いことなら何でもやってのけるサー・ジョン・ファルスタッフなのだが、その無頼漢ぶりが遺憾なく発揮されているのが「ヘンリー4世」の舞台で、ヘンリー4世の死去によって、ハルが、ヘンリー5世となった途端に、即刻、ファルスタッフをお払い箱にして追放する。
   とにかく、ハル王子に、追剥強盗等々あらん限りの悪行を教え込んだ太鼓腹の放蕩無頼の巨漢ファルスタッフは、肩書こそサー(騎士)だが、国家の運命などわれ関せず、欲と言う欲はひとつ残らず味わい尽くし、名誉心など一かけらもない勝手気ままな自由人で、居酒屋猪首亭に入り浸り。
   この入り浸っていた居酒屋に、ウインザーの陽気な女房たちに姿を変えて登場して貰って、居酒屋のお早(簑二郎)と蕎麦屋のお花(一輔)となって、同じ文面のラブレターを出しての恋のドタバタ騒動を取り込んだのがこの文楽で、基本的な筋は、ファスタッフとハルの放蕩三昧の生き様とファルスタッフの追放なのである。

   エリザベス一世女王も、ヘンリー4世をご覧になったのであろう。
   ファルスタッフに痛くご執心で、シェイクスピアに、ファルスタッフを主人公にして恋の物語を書けとお命じになって生まれたのが「ウインザーの陽気な女房たち」であって、ファルスタッフは、ヘンリー5世かヘンリー6世か忘れたが、この舞台で、寂しく世を去っている。
   このウィンザーの戯曲のために、ファルスタッフの株が一挙に上がったわけだが、二人の女房たちにお仕置きとして、洗濯籠に詰め込まれてウィンザー川に投げ込まれるのだが、この文楽では、ラブレターを貰ったと思って読み始めたら、勘定書きで、満座の前で大恥をかくと言う、歌舞伎にはよくある復讐劇に代わっていて面白い。
   

   ミュージカルのように、次々と移り変わる影絵のようなエキゾチックな照明に浮き上がる舞台が美しく、その上に、美意識を強調したファルスタッフをはじめとして、春若やお早やお花などの登場人物の衣装が、洋風を加味しながら日本風に装飾して、エキゾチックで素晴らしい。
   人形は、何故か、お早だけは、クレオパトラの様な頭の洋風美人で、中々魅力的である。

   さて、ヘンリー5世となったハル王子は、国家の疲弊に加えてフランスとの熾烈な戦争に直面しており、無頼漢のファルスタッフが身近にいては示しがつかず、国家の舵取りが出来ないので、追放してしまうのだが、この文楽でも、春若は、これからは厳しい冬の時代だから真面目に働けと檄を飛ばし、不破留寿之太夫を追放する。
   何故だと聞いた不破留寿之太夫に、「太りすぎじゃ」と意味深な返答を帰すのが面白い。

   心憎いのは、冒頭とラストにシェイクスピアを登場させており、それに、居酒屋と蕎麦屋の賑やかな舞台の後方で、一人静かに酒を飲んでいるシェイクスピアの姿を垣間見せるのも、この文楽の隠し味として味わい深い。
   RSCの公演では、よく、前後にナレーターが、登場して舞台に奥行きを醸し出すのだが、この手法の応用であり、新境地で面白い。

   戦争派のハルと、厭戦派のファルスタッフを対比する向きもあるが、真面目で高潔な平和主義者ならいざ知らず、生きて行くためにはどんなことをしてでも戦場から逃げ隠れする無節操かつインモラルなファルスタッフであるところが、シェイクスピアのアイロニー的平和主義かも知れない。

   とにかく、イギリスで、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなどの「ヘンリー4世」や「ウィンザーの陽気な女房たち」を何度か見て楽しんできたが、この文楽は、それにも負けないくらい面白く、舞台展開も舞台も、そして、大夫や三味線、そして、人形の繰り広げるシェイクスピア劇の魅力は秀逸で、出来れば、ストラトフォード・アポン・エイヴォンで、上演できれば、草葉の陰からシェイクスピアのみならず、劇場を訪れるイギリス人も大喜びするだろうと思っている。
   劇場前の公園に立つファルスタッフも、にんまりとするかも知れない。

   独断で、HPの写真を借用して、魅力の一端をお見せしたい。
   2枚目は、不破留寿之太夫に手紙を渡してすり寄るお早とお花、3枚目は、不破留寿之太夫と春若である。
   
   
   
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