熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

中国の凄いピアニスト・ラン・ラン

2007年10月16日 | クラシック音楽・オペラ
   讀賣新聞の夕刊を見ていたら、中国生まれのピアニスト・郎郎(ラン・ラン)の記事が載っていた。
   私は、3年前にニューヨークのアベリーフィッシャー・ホールで、ロリン・マゼール指揮ニューヨーク・フィルとの共演で、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を聴いただけだが、凄いテクニックと華麗な演奏に驚嘆したので良く覚えている。
   来月、クリストフ・エッシェンバッハ指揮のパリ管弦楽団と来日してベートーヴェンのピアノ協奏曲を演奏するようだが、彼のオフィシャル・サイトを開くと、丁度、同じ組み合わせで録音した新発売のベートーヴェンの第1番と第4番のCDの華麗なサウンドが流れてくる。
   指揮者のエッシェンバッハ自身が、元々素晴らしいピアニストなので、パリ管の輝くようなサウンドに乗せた華麗な演奏が、実に素晴らしくて楽しませてくれる。

  讀賣の記事で、私が注目したのは、ラン・ランが中国を離れて10年だが、欧米で暮らしていて文化的なギャップはあまり感じないと語っていることである。
   上海で生まれて、既に5歳でコンクールで賞を取り公開演奏をし、9歳で北京中央音楽院に入学したと言うから途轍もない才能の持ち主である。カーチス音楽院でゲイリー・グラフマンに師事するためにフィラデルフィアへ15歳の時に移り住み、その後は欧米を行き来しているようである。
   私自身フィラデルフィアに2年間住んだことがあるのだが、彼の地は、独立宣言を行った自由の鐘のある古い都市だから、可なりアメリカでも古風な印象を受ける土地柄である。
   10年前と言えば、中国が経済成長をスタートさせ始めた頃で、アメリカとの関係もかなり進んでいたし、15歳の多感な少年時代に古い中国から新大陸に移ったので、すぐにアメリカ文化に溶け込んだのであろうか。
   日本やキリスト教国である韓国のように、比較的、西洋文化の影響を受けた国での音楽人生ならいざ知らず、共産中国からでは、キャッチアップは大変だっただろうと思うのだが、柔軟性があるのか、意思が強いのか、驚異的な順応力である。

   この記事で面白いコメントは、
   今はインターネットで世界中がつながっている時代。クラシック音楽の感じ方、考え方にグローバルなものが生まれても不思議ではない。と書いていることで、確かにデジタル革命でグローバリゼーションが進展して世界中がフラットになった文化上の変化は大きい。
   音楽は、文学と違って、多様性を持つ言葉ではなく、万国万人共通のシンボルで表現されるので、フラット化した世界においては、益々、グローバル化が進んで行き、民族や文化の壁は消えて行くのであろうか。

   ところが、一方でラン・ランは、
   「技術的なことはともかく、音楽を成熟させる為には、その背景にある歴史や文化を学ぶことが重要で、ヨーロッパではその勉強ができるのがうれしい。」と言っている。
   ラン・ランは、ホロビッツの弟子であったグラフマンから教えを受け、5年前からベルリンに移ってバレンボイムに師事しており、その師のルビンシュタインとアラウの芸を継承していると言われ、20世紀のピアノの巨匠からの太い線で結ばれる幸運を享受していると言えよう。
   カーネギーホールでの演奏後に、ホロビッツの再来と言われたようだが、むべなるかなである。

   しかし、更に凄いことは、
   「演奏に絶対の法則はない。伝統を尊重しつつ最後は自分で判断する。そういうふうにして、アジア人の自分がヨーロッパの音楽を広めることには意義があると思います。」と言ってのけるのである。

   何時もクラシックを聴きながら思うのだが、ラン・ランが言うように、やはり、音楽は、生まれ育った背景の歴史や文化の影響を色濃く背負っており、そのスピリットと伝統の継承と尊重は大切であるが、結局、最後は、演奏者が自分自身のフィルターを通して作曲家の意図した音楽を観客に伝えることになる。
   小澤征爾の音楽が凄くて偉大なのも、ラン・ランのピアノが欧米の観客を魅了してやまないのも、案外、アジア人の豊かなスピリットと感性に増幅されて西洋音楽の魅力が増すからではないかと思っている。
   

   
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