熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

八月納涼歌舞伎・・・「狐狸狐狸ばなし」「棒しばり」

2013年08月04日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   今月の歌舞伎座の夜の部の第三部は、喜劇のオンパレード、勘三郎の趣向であろう。
   とにかく、北條秀司作の色と欲の皮のつっぱた狐と狸の化かし合いのどんでん返しと、狂言オリジナルの歌舞伎で、酒好きの太郎冠者次郎冠者が、両手を縛られても飲みたい一心で必死になって編み出した珍芸の披露であるから、面白くない筈がない。
   お化けの芝居も良いが、暑気を一気に笑い飛ばすと言うのも、夏の良い趣向である。

   まず、「狐狸狐狸ばなし」が面白いので、一寸長いが、概略次の如し。
   手拭屋の伊之助(扇雀)はもと上方芝居の女方で、その女房おきわ(七之助)は元下座で三味線をひいていた女だが、酒飲みで怠け者の上、近所の閻魔堂に住む法印の重善(橋之助)と乳繰り合う仲。
   ところが、重善に、財産家「山権」の娘で舐め回すので「牛娘」と評判のおそめ(亀蔵)との婿養子の話が持ち上がっており、
   重善のすむ閻魔堂へ、おそめとの間を仲介した福蔵(巳之助)がやってきて重善に婿入りを催促していると、そこへおそめも忍んできて重善に口移しでお酒を飲ませたり、ベロベロ嘗め回したりしていると、おきわがやってきて怒って刃物をふりまわすので、おそめは逃る。
   おきわが一緒に逃げようと言うと、重善は亭主を殺したら一緒になってやると言う。
   家に帰ったおきわは、伊之助が用意しておいたふぐ鍋を食べ始める。一寸頭の弱い手伝いの又市(勘九郎)が、染め粉を買って来て棚に置いたので、伊之助は「染め粉は毒だから注意するように」と言ったのを聞いていたおきわは、伊之助が部屋を出た隙に、染め粉をふぐ鍋に入れる。戻ってきた伊之助は、味がおかしいといいながらふぐ鍋を食べて、苦しみだして倒れる。
   翌日、伊之助はふぐにあたって死んだと言うことにして、重善が経を読んで葬式をだし、火葬場に運ぶ。又市を番に残し重善とおきわは閻魔堂へ引き上げる。
   ところが、死んで火葬した筈の伊之助が、家で相変わらず立ち働いているので、仰天しながらも、伊之助はどうも幽霊ではなさそうだと思い直して、重善、甚平、福蔵、又市とおきわは一計を案じ、古沼のほとりでもう一度伊之助を殺すことにする。
   とぼとぼとやって来た伊之助を、又市が、今までこき使われてきた恨みをはらしたいので、殺害を自分にやらせてくれと言うので死体を沼の底に沈めるのも総て任せて、後の連中は夜鳴き蕎麦を食べながら待つ。しばらくして、又市が帰ってくるのだが、またもやその後から伊之助の亡霊がついてくるので皆恐れおののいて逃げ出す。
   閻魔堂で、おきわが重善に一緒に逃げてくれと縋るが、重善が伊之助の亡霊から逃れたい一心で牛娘と一緒になろうとしているのを悟って、重善に、伊之助に飲ませた染粉の毒を酒にまぜて飲ませ、自分も死のうと飲む。二人とも悶えるが苦しくも痛くもない。
   しかしここへも伊之助の亡霊がやって来るので、重善は泡を喰らって逃げ出し、おきわは気を失って倒れる。
   数日後、伊之助の家に庭先で、気のふれたおきわが三味線を弾いている。
   実は、伊之助を殺した又市は狂言作者で、おきわの浮気に悩んだ伊之助に頼まれて、毒だという染め粉も嘘で殺したと言うのも嘘、グルになって一芝居打っていたのである。放心状態になったおきわの口にご飯を食べさせてやる伊之助は、もう浮気される心配もなくなったと喜び、おきわを置き去りにして又市と遊びに出かける。
   そこへ寺男の甚平がやってくると、気がふれた筈のおきわが、ウキウキしながら重善からの便りを聞いて、喜んで「金毘羅船船・・」を爪弾きだす。
    騙した筈が騙されていた、正に色と欲の突っ張った狐と狸の騙し合いの夫婦物語。

   さて、この「狐狸狐狸ばなし」だが、昭和36年に、森繁久弥・山田五十鈴・十七代目中村勘三郎・三木のり平で初演され、勘三郎の重善、森繁の伊之助、山田五十鈴のおきわ、三木のり平の又市と言うのだから、さどかし抱腹絶倒、空前絶後の喜劇の世界が展開されたのであろう。
  その後の“新歌舞伎”の舞台では、十八代目の勘三郎が、福助や扇雀のおきわを相手にして伊之助を演じているのであるから、七之助や勘九郎が、素晴らしい喜劇役者ぶりを見せてくれるのも当然であろうか。
   しかし、勘三郎が存命であれば、中村屋一家の極め付きの「狐狸狐狸ばなし」が鑑賞できた筈なので、残念ではある。

   さて、ここで、大阪弁を上手く喋らなければならないのが、伊之助とおきわと又市だが、関西人の扇雀は当然としても、中村屋の両兄弟もそれ程なまりが気にならない感じで良い味を出している。
   七之助の重善への情の深くて激しいアタック振りや、頭の弱いボケ役の又市の勘九郎ともに、中々の芸達者であり、二人で、素晴らしい「狐狸狐狸ばなし」をお家芸にするのは、何時の事だろうか。

   扇雀は、あの「夫婦善哉」の維康柳吉をやらせても良い味を出すと思うのだが、上方芝居の女形と言う役どころがぴったりで、ほんわかとした味と、愛嬌のある幽霊ぶりが面白い。
   橋之助の助平で節操のない生臭坊主ぶりは、中々秀逸で、海老蔵もやったと言う同じセリフ「おれはどうしてこう女に惚れられるんだろうなぁ」と言うニヤケ振りも含めて、やはり、この舞台の要であろう。
   ずっと、牛女おそめを演じていると言う亀蔵だが、厳つい顔をした醜女の凄さ面白さは流石で、激しくアタックして押し倒された橋之助が口に武者ぶりつかれたり舐め回されたりして、必死になって逃れようとする異様な姿が爆笑を誘う。

   「棒縛」は、今年の2月の国立能楽堂での「式能」で、和泉流の野村万蔵家の素晴らしい狂言の舞台を観ており、歌舞伎での「棒しばり」は、久しぶりなので、そのバージョンの違いに興味を持って鑑賞した。
   棒で縛られるのがシテで、面白いのは、和泉流では、太郎冠者がシテなのだが、大蔵流では、次郎冠者がシテで、この歌舞伎は、三津五郎が奴だこのように棒で縛られる次郎冠者、勘九郎が太郎冠者、そして、彌十郎が主・曽根松兵衛なので、その流れを受けたのであろう。

   主人は、外出の用事が出来たのだが、太郎冠者次郎冠者が、留守中に酒を盗み飲みする心配があるので、一計を案じて、次郎冠者に棒を使わせて不意を突いて棒に両手を縛り、油断したすきに太郎冠者を後手に縛って、出かけて行く。
   そんな不自由な格好になっても、二人は、好物の酒を飲みたい。
   四苦八苦の末に、奇抜な手を考えて、次郎冠者が、右手に持った杯で酒を梳くって太郎冠者に飲ませ、次は、その盃を太郎冠者の後手に持たせて次郎冠者が飲む。  
   これを繰り返してほろ酔い機嫌になって、調子に乗って舞いを舞って酒盛りを楽しんでいるところへ、主人が帰って来て、大騒動。
   と言うのが話の筋だが、能と歌舞伎では、同じ、パーフォーマンス・アーツでも、その違い、バリエーションが面白い。

   狂言では、帰って来た主が、酒宴を見て憎い奴だと独白した後(静かに近づくだけの場合もある)、二人の間に置かれた盃の後に立ったので、主の顏が、盃に映るのだが、これは、留守中に酒を盗み飲みされやしないかと言う主の執心が映ったのだと二人は語り合って、これについて謡があると言って、「月は一つ、影は二つ、みつ潮の夜の杯は、主を乗せて、主とも思わぬ内の者かな。」と謡って舞う。
   これは、能「松風」の海女の謡をもじったパロディ版となっており、怒った主が中に割って入って二人は追い込まれる。と言う話になる。
   ところが、歌舞伎の方では、杯に影が映ると言った粋な趣向は消えて、酒宴中の二人に割り込んだ主人が、怒りながら一緒に舞うと言った形で終わっていて、狂言のような一寸捻ったアイロニー風の深みには欠けている。

   もう一つ、最初に、杯で酒を梳くって飲もうとしたシテが、杯に口が当てられないので、飲もうと杯を傾けると前のめりになったり酒が顔にバシャリと来るところなども含めて、不自由な両手縛りながら、酒を飲みたい飲もうと言った演技上の仕草などや、両手縛りでのさす手引く手を肩と顎で表現するなど、狂言の方が工夫がなされていたような気がするのだが、その代わり、松羽目もの歌舞伎は、三味線を活用できたと言う特色を生かして、バックに陣取った豪華な長唄囃子連中の共演を得て、非常に、舞い踊りの舞台が華やかで、見せて魅せる舞台であり、特に、三津五郎の本領発揮のシーンが楽しませてくれた。
   杯を地面に置いて、這い蹲って酒を飲んだり、その盃の尻を相方が足先で持ち上げたり、歌舞伎の演技のコミカルさは、狂言の洗練された演技とは違って、もっとリアルで面白い。

   主は、狂言では人間国宝の野村萬、歌舞伎では彌十郎が演じていたのだが、やはり、台詞回しは、狂言の方が、はるかに本格的で味があって良く、彌十郎の方は、どこか間延びがして冗長な感じがしたのだが、これは、三津五郎も勘九郎も同じような感じで、歌舞伎独特の松羽目ものの本歌取りとしての舞台のあり方が違うのかも知れないと感じた。
   三津五郎、勘九郎、彌十郎、夫々に、遊び心とユーモアのセンスを十二分に備え持った卓越した歌舞伎役者なので、実に楽しい舞台を楽しませて貰った。
   
   
コメント (2)   この記事についてブログを書く
« アベノミクス本花盛りの書店 | トップ | 役に立つ貴重な本は古書店で »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (mom)
2013-08-12 23:48:18
はじめまして。
ポコマムと申します。

本日、歌舞伎座に行ってまいりました。
3部、棒しばりめあてにいきましたが
2作品とも、本当に楽しかったです。
扇雀さん、艶っぽくていいですね。
びっくりです。
物語も面白くて何度も笑ってしまいました。

棒しばりは勘九郎さんがお父さんの芸を引き継いでいて
よかったですねえ。
三津五郎は当代きっての日舞の名人。
うまいなあと思いました。
歌舞伎を知らない人、歌舞伎を敬遠している人に
是非観て欲しいとおもいました。
検索してこちらに行きつきました。
嬉しくてついコメントしてしまいました。
追記 (ポコマム)
2013-08-12 23:50:52
昭和36年に、森繁久弥・山田五十鈴・十七代目中村勘三郎・三木のり平で初演され・・・これは面白かったでしょうねえ。観てきたいです。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

観劇・文楽・歌舞伎」カテゴリの最新記事