熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ユヴァル・ノア・ハラリ 著「21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考」(1)

2020年01月23日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   「サピエンス全史」で人類の「過去」を語り、「ホモ・デウス」で人類の「未来」を描いたユヴァル・ノア・ハラリの新しい本「21 Lessons」は、人類の「現在」、21世紀の人類のための21の思考を論じる。
   先の2著で、ハラリの基本的なビジョンは開陳されているので、特に、意表を突いた展開は少ないが、とにかく、多方面にわたって現在人類が直面する重要問題について論じていて、非常に興味深い。

   まず、今回は、冒頭の「Ⅰ テクノロジーの難題」について考えてみたい。
   ここでは、21のうち、幻滅、雇用、自由、平等を論じている。

   1990年代初期、共産主義体制が崩壊した時、過去の大きな政治問題や経済問題が解決した、民主主義と人権と自由市場と政府による福祉事業と言う一新された自由主義のパッケージこそが、唯一の選択肢として残ったとする「歴史の終わり」が歓迎された。
   このパッケージが、世界中に広まり、あらゆる障害を克服し、すべての国境を消し去り、人類を一つの自由でグローバルなコミュニティに変えることを運命づけられているように見えた。
   だが、歴史は終わらず、自由主義と言う不死鳥は、幻滅に終わり、いまや、ドナルド・トランプの危機を迎えている。と言うのである。
   自由主義は、我々が直面する最大の問題である生態系の崩壊と技術的破壊に対して、何ら明確な答えを持っていない。
   テクノロジー面の様々な革命が、今後十年間に勢いを増し、これまで経験したこともないような厳しい試練を人類に突き付けてくるであろうが、何よりも、ITとバイオテクノロジーの双子の革命に対する能力がどれだけあるかで真価が問われてくると言う。
   分かり易いのは、雇用で、テクノロジー革命は、間もなく、何十億もの人を雇用市場から排除して巨大な「無用階級」を新たに生み出し、既存のイデオロギーのどれ一つとして対処法を知らないような社会的・政治的大変動をもたらす可能性がある。

   情報テクノロジーとバイオテクノロジーの融合が、現在の価値観の核となる自由と平等を脅かすと言う。
   我々は、今、巨大な革命のさなかのある。生物学者たちが人体の謎、特に、脳と人間の感情の謎を解き明かしつつあり、コンピューター科学者たちが、前代未聞のデータ処理能力を開発しており、このバイオテクノロジー革命と情報テクノロジー革命とが融合した時には、我々の感情を自分たちよりもはるかにうまくモニターして理解できるビッグデータアルゴリズムが誕生する。
   その暁には、権限はおそらくコンピューターに移り、これまでアクセス不能であった我々の内なる領域を理解し操作する組織や政府機関に日々出くわし、人間や心をハッキングされて、自由意志と言う自分たちの幻想が崩れ去るであろう。と言うのでる。

   たとえば、一切の言動に加え血圧や脳活動をモニターするバイオメトリックブレスレットの直用を義務付けられたら、機械学習の途方もない力が働いて、その個人の一瞬一瞬の考えを余すところなく読み取ることが出きる。
  アルゴリズムが、益々進化してハッキングの能力が増すと、独裁政権は、ナチスドイツを凌ぐほどの、国民に対する絶対的な支配力を獲得し得るので、政権への抵抗は完全に不可能となり、民主主義国家においても、心をハッキングされて、自由意志を去勢される恐れがあり、このように、バイオテクノロジーとITが融合したら、民主主義が全く新しい形に自らが仕立て直すか、さもなければ、人間が、「デジタル独裁国家」で生きるようになってしまうか、どちらかである。と言う。

   平等については、生物工学とAIの普及の組み合わせの相乗効果によって、一握りの超人の階級と、膨大な数の無用のホモ・サピエンスからなる下層階級へと人類を二分しかねない。
   富める人が、多くの金を使って、能力を強化した体や脳を買って人間改造できるのなら、世界の超富裕層は、世界の富の大半のみならず、世界の美と創造性と健康の大半をも手に入れ、庶民との格差は、益々、増幅して行く。
   神のような力を一握りのエリートが独占するのを防ぐために、人間が、生物学的なカーストに分かれるのを防ぐためにどうするのか、難しい問題である。

   以上は、ハラリの説く状況の一面だが、雇用の喪失は殆ど既成の事実であり、
   バイオテクノロジーとITの融合進化が、人間の脳や心をハッキングしてコントロールする能力を備えれば、個人の自由もプライバシーも全てITに支配さててしまい、誰が、あるいは、機械がどのように大権を振るうのか、人類の死活問題となる。
   地球温暖化で、宇宙船地球号が危機的状態にあると騒がれているが、このITとバイオテクノロジーの融合進化こそが、人類にとって最大の危機ではないかと、ハラリは問うているのだろうか。

   現在、GAFAの途轍もない力が問題となっているのだが、公的機関がうまくコントロールして人類社会のために活用できれば良いのだが、もう、その域を超えている。
   それに、ITとバイオテクノロジーが癒合して自立運動を開始して動き出し、人間のコントロールの域を超えたら、どう制御するのか、
   AIとIOTの創造する途轍もない世界が、もう、そこまで近づいており、人間の能力を追い抜いてコントロールできなくなったら、どうするのか。
   我々老年は、その時には、もうこの世にいないと高をくくっているが、ハラリの予言提言は注目に値する。
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