転載【 PUBLICITY 】 1905 :各紙社説一気読み~ 8 月 15 日付(その2)

2010-08-29 09:40:33 | 社会
■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1905 2010/08/29日■■


◆今号のポイント◆-------------------
「米国依存の原因は昭和天皇にある」との主張を紹介した中日
(東京)新聞の社説
は出色だった。皇室を相対化する知的勇気
が、「ニッポンがニッポンである理由」を浮き彫りにする。
--------------------- ◆PUBLICITY◆


▼信濃毎日新聞からは、「アメリカはほんとにニッポンを守る
のか」に疑問を呈する以下の挿話。


----------------------------
10年ほど前、沖縄の米海兵隊を訪ねたときのことである。司
令官が力説していた。

「この基地にいる兵士は全員、日本を守るために命を捨てる覚
悟ができている」

本当なのか、と米国に詳しい友人に尋ねたら、「それは立て前
」と一笑に付された。若者の多くは退役後の奨学金目当てで軍
に志願している、日本のために死ぬなんてとてもとても、と。

貧しさゆえに、大勢の若者が軍の扉をたたく。米国の人々が「
経済徴兵制」と呼ぶ仕組みである。
----------------------------


▼戦争が景気対策である以上、徴兵制が「経済的」なのは当た
り前。たくさんの新聞が、こうした挿話だけでなく、新しい事
実に突っ込んでほしいが、東京新聞の半田滋さんの仕事がそれ
にあたる。


▼「終戦記念日」が過去のことではない、と具体的に網羅した
のが福井新聞。


----------------------------
■福井新聞

たとえば沖縄。民主党政権に変わり、米軍普天間飛行場移設問
題が蒸し返された。国内最悪の地上戦の舞台となったばかりか
、いまだ在日米軍基地の7割強が集中、県民に加重負担を強い
ている。この実態は「終戦」を意味しない。外交・安保の課題
やアジアにおける日本の立ち位置を国民目線で考える必要があ
る。

たとえば核廃絶。広島の式典に潘基文国連事務総長、ルース駐
日米大使が初めて参列したが、オバマ米大統領が提唱する「核
兵器のない世界」は先が見えない。先導すべき唯一の被爆国・
日本の使命は重い。

たとえば空襲。終戦の日をにらみ「全国空襲被害者と連帯する
連絡協議会」が結成される。国に損害賠償と謝罪を求めて係争
中の「東京大空襲訴訟」や「大阪空襲訴訟」の原告団が中心と
なり、救済法制定や被害者の実態調査などを求めていく。

旧軍人・軍属や原爆被害者、沖縄戦の犠牲者らは国から救済さ
れた。同じ戦争被害者なのに、なぜ空襲被害者は放置されたま
まなのか。国側は「(一般の)戦争被害者は国民が等しく受忍
しなければならない」との判断を崩さない。
----------------------------


▼なかには「沖縄の犠牲を放置してきたことを恥じる」(京都
新聞)という率直な意見を述べる新聞もあった。


▼さて、出色だったのは、中日(東京)新聞。ぼくはたまにこ
の新聞が書く「ですます調」の社説が大嫌いで読む気もなくす
のだが、「歴史は沖縄から変わる」と題した今回は、素晴らし
かった。ですます調でなければなおよかった。

その核心は、「米国依存の原因は昭和天皇にある」との主張で
ある(岩波現代文庫の「昭和天皇・マッカーサー会見」の豊下
楢彦・関西学院大学法学部教授の論考)。

こういう場合、会社自身の考えを前面に打ち出さないのがニッ
ポンの新聞の悪い特徴である。しかし、豊下さんの主張がブロ
ック紙レベルでも取り上げられることが少ないから、今回のよ
うに紹介するだけでも、充分価値がある。適宜▼改行。


----------------------------
▼敗戦で昭和天皇が直面したのは言うまでもなく戦犯としての
訴追と憲法改正による天皇制消滅の危機でした。マッカーサー
元帥の協力で極東軍事裁判を切り抜け、新憲法で象徴となった
天皇が直面した次なる危機が共産主義の脅威。昭和天皇にとり
日本を守ることと天皇制を守ることは同義でした。

非武装が日本の最大の安全保障とする理想主義のマッカーサー
に対して昭和天皇はリアリストでした。憲法九条や機能不全の
国際連合では日本を守れず、米軍依拠の天皇制防衛の結論に至
ったといいます。

かくして、「米軍駐留の安全保障体制の構築」が昭和天皇の至
上課題となり、象徴天皇になって以降も、なりふり構わぬ「天
皇外交」が展開されたというのが豊下説の核心部です。

▼例えば一九四七年九月、宮内省御用掛寺崎英成を通じてマッ
カーサーの政治顧問シーボルトに伝えられた有名な天皇の沖縄
メッセージは

「米国による琉球諸島の軍事占領の継続を望む」

「米国による沖縄占領は共産主義の影響を懸念する日本国民の
賛同も得られる」

などの内容。沖縄の戦後の運命が決定付けられてしまったかも
しれません。

(中略)

佐藤栄作首相の密約を交わしてまでもの核抜き・本土並みの返
還要求でしたが、米側はしたたか。核をカードに狙いは基地の
自由使用。懸念された通り基地の固定化になってしまいました
。誠実、誠意が手玉に取られた格好でした。
----------------------------


▼1947年に天皇が示した意向は、殆ど全く論議の俎上に乗
らない。

ニッポンの戦争論の基底部には、皇室が横たわっている。そし
て、日米安保を論ずる場合にも、皇室が決定的な役割を果たし
た、という一事実を見落としてはならない。

中日新聞の社説は、豊下さんの研究成果を借りて、この当たり
前の視点を提示した。

戦争中に皇室の抱えていた問題を、社会科学的に研究する努力
は、これまで貧しかった。これからも貧しいなら、その貧しさ
こそがまさに「国体の危機」を招く。

皇室を相対化する知的勇気が、「ニッポンがニッポンである理
由」を浮き彫りにするだろう。

いまのところ、1万人以上が目にするメディアでこの問題を主
張する人は、皆無である。


freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

----------------------------
不思議なのは「空気」であり、「勢い」である。
米国にもそうした「勢」があるが、
日本のものは特に統一的である。
その勢が危険である。
あらゆる誤謬がこのために侵されるおそれがある。

昭和18年=1943年6月27日(日)

清沢洌『暗黒日記1』120頁
ちくま学芸文庫
----------------------------


■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1906 2010/08/31火■■


◆今号のポイント◆-------------------
昭和天皇の沖縄メッセージ(1947年)は、沖縄をニッポン
の手段として固定化した。「沖縄を手段としてだけでなく目的
として扱う政策」が必要だ。民主党は須らくカントに学べ。
--------------------- ◆PUBLICITY◆


▼海外在住の本誌読者で、「熱中症以外にニッポンのニュース
ないの?」という方に、以下の「映画」の話題。

言いたいことが山ほどあるのだが、遠慮しときます。一言でい
うと「時代は変わったなぁ」ということです。アイドル=偶像
の価値は、時代が変わっても変わらない。のか?


----------------------------
ぴあ映画生活

人気ボーカロイド・初音ミクのフィルムコンサートが開催決定!

今年3月にお台場Zepp Tokyoで昼夜二回公演され、5000人もの
ファンが集まったイベントの模様が『ミクの日感謝祭 39’s
Giving Day 初音ミク・フィルムコンサート ~ありがとう、初
音ミクです。~』のタイトルで31日(火)に角川シネマ新宿と全
国のシネプレックスで上映される。

ボーカロイドとは、PC用の音声ソフトの一種。メロディと歌詞
を入力することで合成音声によるボーカルパートやバックコー
ラスを作成することができ、中でもクリプトン・フューチャー
・メディアから発売されている初音ミクは、バーチャルアイド
ルとしてのキャラクターも相まって大ヒットを記録している。

ユーザーが作成した楽曲は動画共有サイト「ニコニコ動画」な
どに発表され、人気楽曲ともなると再生回数が600万回にも上
るほど。また、supercellやOSTER projectのように初音ミクを
きっかけにメジャーのフィールドに進出しているアーティスト
もいる。

上映では、ステージに“出現”した初音ミクが、『メルト』、
『ワールドイズマイン』、『初音ミクの消失』などの人気楽曲
を次々披露。入場特典として、公式イラストレーター・KEIが
手がけた“初音ミクオリジナルタンブラー”を配布する。

いまや、現実のアーティストをもしのぐ勢いで成長しているボ
ーカロイドが生み出す音楽シーン。新たなJ-POPの形とも言え
るこのムーブメントを、劇場で体感してみてはいかがだろう。
----------------------------


▼「メルト」名曲ですナ。個人的には「ワールドイズマイン」
の替え歌

Neru Akita PV「"Zaigou" Is Mine」
http://www.youtube.com/watch?v=6GIswiLd91Y&feature=related

が大好きだっ。おっと、観たらハマる可能性があるから、クリ
ックする人は心すてけろ。


▼8月15日付の各紙社説一気読みだが、あとは産経と日経を
それぞれ引用しておこう。


----------------------------
■産経

米国に寄りかかったことは、日本の復興を促したが、一方で独
立自存(じそん)の精神を希薄にしてしまった。

忘れられたことはまだある。敗色濃い戦局をひた隠しにし、破
滅的な結末を招来した戦争指導部の責任だ。自国による検証を
行わず、責任をうやむやにした。失敗からの教訓を学んでいな
い。

今、日本の安全保障環境に警報ベルが鳴り響いている。台頭す
る中国に対し、米国のパワーの陰りが随所にみられるからだ。

しかも米軍普天間飛行場移設問題の迷走が示すように、日米同
盟を空洞化させているのは日本自身なのだ。その結果、生じつ
つある日本周辺での力の空白を埋めるため、力の行使も辞さな
い勢力が覇を唱えようとしている。

(中略)

戦前・戦中の軍事力偏重は戦後、完全否定となった。絶対的な
無防備平和主義は、自己中心主義を育てたといえなくはない。

やはり自分たちの問題は自らで解決する基本に立ち戻ることが
求められている。自力で守れないときは同盟国とのスクラムを
強める。弱さは必ずつけ込まれる。
----------------------------


▼産経には「失敗からの教訓」をビシバシと発信してほしい。
それこそあんたらにしかできん仕事です。


----------------------------
■日経

朝鮮半島をはじめ日本の周辺にはなお多くの紛争の火種があり
、米国との同盟なしで安定を保つのは難しい。影響力を増す中
国とバランスを保つため、周辺諸国も強固な日米同盟を必要と
している。

情緒と願望に押し流され、現実を踏まえた冷徹な外交を忘れた
とき、国の安定と繁栄は危うくなる。この歴史の教訓を改めて
肝に銘じたい。
----------------------------


▼産経と日経と比べると、軍備増強をはっきり謳っている分だ
け、産経のほうが正直で信頼できる。朝日と讀売は、そのユル
い論調に食指が動かなかったのでパス。


▼一つ余談。以下に並べた二つの文章を読んでください。


----------------------------
「対アジア関係、対米関係、核問題と終戦の日にまつわる問題
は相互に複雑に絡み合っている。問われているのは日本の来し
方と行く末であり、考えるべきこと、なすべきことは山ほどあ
る」(岐阜新聞)

「対アジア関係、対米関係、核問題と終戦の日にまつわる問題
は相互に絡み合っている。考えるべきこと、なすべきことは山
ほどある」(宮崎日日新聞)
----------------------------


▼似てるでしょ? これはたぶん、共同通信の配信記事を使っ
ているのだろう。社説にも共同配信の記事を使うのは、珍しい
ことではないみたい。

だが、もし上記の仮定が正しかったとして、8月15日付の社
説くらいは、せっかっく自社の記者がいるんだから、自分たち
の取材で書いてほしい。と、個人的には思ってしまう。ま、買
ったものはどう使おうと自由だからね。余談でした。


▼さて、前号で紹介した、中日(東京)新聞の社説から。

「米国による沖縄占領は共産主義の影響を懸念する日本国民の
賛同も得られる」という昭和天皇の沖縄メッセージ(1947
年)を少し読み込んでおこう。

▼最近、このメッセージの問題点をはっきりと言語化できるよ
うになった。

問題点は、「沖縄が皇室=ニッポンの【手段=道具】に過ぎな
い」ところにある。沖縄は、決して皇室=ニッポンの【目的】
ではなかった。昭和天皇メッセージは、沖縄を「ニッポンの手
段」として固定化した。

皇室=ニッポンにとって、沖縄は永遠の他者である--昭和天
皇の沖縄メッセージから、この単純な事実を汲み取ることがで
きる。沖縄はとっくにアメリカからニッポンに返還されてるじ
ゃないかって? 返還しても他者のままだから、こんなに厄介
なことになってるんじゃん。興南高校、甲子園春夏連覇おめで
とう!

▼以下の分析は、いまの政局を前にしたら、箸にも棒にもかか
らないんだが、一応書いておく。

現在の日本政府が沖縄問題を解決するためには、1947年に
昭和天皇が示した姿勢、その印象を、叩き壊す衝撃が必要だ。

ヒントになるのはカントである(←洒落じゃないよ)。

カントはこう訴えた。

「他者を手段としてだけでなく、同時に目的として扱え」と。

原文は岩波文庫の『道徳形而上学原論』とか中公クラシックス
(値段の高いやつ)の『人倫の形而上学の基礎づけ』に載って
いるが、面倒なので引用はパス。

大事なのは、手段として【だけでなく、同時に】目的として、
という箇所。

▼まず、いくら言い繕っても、他者は他者なんだナ。結局、手
段なんですよ。これ、当たり前。だって、他者を手段として使
わなかったら、人は社会生活を営めないんだもの。「わたしは
他者を手段にしない」ってのは詭弁の偽善の学級会。

でもね、それでは終わらない。カントは説く。他者を手段とし
て使うだけなら、人として駄目なんだ、と。

手段としてと同時に、目的として、相手のことを考える。ここ
から、新しい社会論を生み出したのが柄谷行人さんですナ。最
新刊『世界史の構造』は超面白い。オススメですよ。

▼政府は、沖縄を手段として扱ってきた。手段として扱われ続
けてきた沖縄は、狡智を磨いた。そのえげつなさは、守屋武昌
著『「普天間」交渉秘録』に、これでもかと描かれている。沖
縄は狡い。その狡さの根っこについてこそ、普天間問題を考え
る人は、考えなければならない。

政府は、沖縄を手段としてだけ扱う政策を捨てねばならない。
手段としてだけではなく、同時に目的として扱うような政策を
つくって実行しなければならない。

首相も、官房長官も、外務大臣も防衛大臣も、みんな沖縄に通
い、沖縄の声に耳を傾けて、

「アメリカの沖縄占領は、共産主義の影響を懸念する日本国民
の賛同も得られる」

という昭和天皇の言葉が持っている衝撃を、帳消しにする言葉
を生み出さねばならない。「ああ、沖縄のことを考えてくれて
いる」と思わせる政策を。

それだけが、米軍被害から沖縄の人を守り、沖縄の利権屋から
沖縄の人を守る道を開きうる。

「目的の設定」。これが政治家の仕事だ。

民主党は、すべからくカントに学べ。米軍の維持は、目的では
ない。手段だ。沖縄こそが目的なのである。

▼しかし。残念ながら今の国政は、その「産みの苦しみ」を支
える環境にない。よっちゃばって侃侃諤諤、それ人気万歳やれ
支持率三昧、「空気」で夜が明け「勢い」で夜が更けるニッポ
ン低国である(ん、久々に竹中労節やね)。

民主党代表選を通して、【マスメディアが「言葉」を潰してい
る】。これまでも、同じ構図だった。何かを「ネタ」に、【マ
スメディアが「言葉」を潰してきた】。

この情況を改善できるわけではないが、せめて何かしようと、
「マスメディアとの付き合い方」がいよいよ大事だ、等々、書
き始めてはや何年。「マスメディアの科学」に割く時間もアタ
マも足りない今日この頃です。

本誌は70代の読者がけっこう多い。
9月も猛暑列島の気配。
熱中症、気をつけてくださいナ。


freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


よろしければ、下のマークをクリックして!
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。