再び、《アフガン・イラク侵略戦争》に荷担するな!/井上澄夫(市民の意見30の会・東京)

2006-01-30 08:25:24 | 世界
 大事なことを忘れてしまう、忘れてはならないことを忘れることは、未来を 暗くするとしみじみ思う。忘れるという行為について、人間は自分が体験し た余りに辛いことを忘却の彼方に押しやって生きるように作られていて、そ れは自己防衛(保存)の本能から生まれるという説がある。それはそうかもしれない。しかし一国の歴史上の経験、共通の経験として忘れてはならない
 ことを忘れたり、さりげなく棚上げすることは犯罪である。私たちが生きる
 一瞬、一瞬はたちまち過去になる。自分が責任を負わねばならないと強く自
 覚していても責任をとりきれないうちに、わが怠慢は過去に蓄積していく。
 責任を果たさねばならないのに果たさなかった怠慢の累積は、それでもその
 事態を振り返り、最大限想像力を働かせることを待っている。そう繰り返し
 自覚したい。

 「イラク反戦」運動が総じて〈アフガン〉を語らなくなったのは、いつの頃
 からであろうか。それはマスメディアの報道が〈アフガン〉に触れることが
 少なくなった頃からのことのように思える。しかしこの国が《アフガン・イ
 ラク侵略戦争》に荷担している、分かりやすくいえば、そこに参戦している
 という現実は続いている。

 1月25日の参院本会議で額賀防衛庁長官が明らかにしたところによると、
 イラク派遣自衛隊の活動(作戦)経費は2003年12月の派兵以降、昨年
 9月末までに約609億円に達した。そのうち「陸自分が医療、給水、公共
 施設の復旧活動やサマワの宿営地の維持管理などに約514億円、空自分が
 人道復興関連物資の輸送などに約89億円、海自分が陸自の装備輸送経費な
 ど約5億円となっている。」(2006年1月26日付『東京新聞』)

 だがこの説明はマユツバものである。航空自衛隊がクウェートを拠点に
クウェート―イラク間で実施している作戦は、米軍の治安維持作戦への支援
(いわゆる「安全確保支援活動」)であ
って、それは武装米兵の輸送などである。航空自衛隊は作戦の詳細をひたす
 ら秘匿しているが、実は米軍の武器・弾薬を輸送しているかもしれない。額
 賀長官が「人道復興関連物資の輸送」などとぬけぬけと言うのは、イラク派
 兵法(人道復興支援特措法)の内容が大方忘れられていると踏んでのことだ
 ろうが、そうはいかない。それに、作戦に用いられた約609億円は復興の
 インフラ(社会基盤)整備に使った方がいいと誰しも思うだろう。

 1月20日に始まった通常国会冒頭の所信表明演説で、小泉首相は〈イラク〉
 について少しばかり語った。それは「サマーワでの自衛隊員の献身的な活動」
 を賞揚し、「我が国自衛隊は、日本国民の善意を実行する部隊として、現地
 から高い評価と信頼を得ております。」と自賛する内容だったが、〈イラク〉
 とともに語られるべき〈アフガン〉については一言も触れなかった。昨年末、
 対テロ特措法の適用期限を繰り延べて海上自衛隊の艦隊による米軍支援(洋
 上給油なる兵站作戦)を続けることを自ら決定したにもかかわらず、である。
 米ブッシュ政権がアフガニスタンで行なっている血なまぐさい掃討作戦
 (「テロとの戦い」=対テロ戦争)を支援していることは注目されてほしく
 ないのである。

(ただしこの所信表明演説がきわめて攻撃的な「戦闘開始宣言」「宣戦布告」
であることを見逃すべきではない。「改革を続行し簡素で効率的な政府(小さ
な政府)を実現する」「官から民への流れを加速する」「少子化の流れを変え
る」などに加え、「教育基本法の改正」、「皇室典範改正案の提出」、「憲法
改正のための国民投票法案の整備」などに具体的に触れているからである。)


  パキスタン領まで攻撃し戦線を拡大する米軍

 しかしながら、小泉首相があえて触れなかったからといって、いま続いてい
 る事態がなくなるわけではない。米軍は2万人(!)の兵士をアフガニスタ
 ンに派兵し、タリバーンやアル・カイーダの掃討作戦を続けている。しかも
 戦線をパキスタンにまで拡大中である。

 米軍は1月7日、アフガニスタン・パキスタン国境沿いのパキスタン領北ワ
 ジリスタン地区を空爆し、タリバーンを支持する宗教指導者の家で8人が死
 んだ(1月22日付『朝日新聞』)。さらに「同月13日未明、米中央情報
 局(CIA)によると見られる空爆が国境沿いの(パキスタン領)バジャワ
 ル地区であった。泥と石で造った3軒の民家が吹き飛び、女性や子どもを含
 む18人が死亡した模様だ」という(同『朝日新聞』)。

 これらの事実は無視されていいことだろうか。2001年の〈9・11〉直
 後、米軍はアフガン攻撃を始めた。これは一方的な報復攻撃であり、明白な
 国際法違反である。その後、米軍は空爆を続けながら地上部隊を送り込んで
 掃討作戦を続け、それがはかばかしい成果をあげないため、逆上して(と言
 うべきだろう)、ついにはパキスタン領まで攻撃し始めた。だが、確認して
 おこう。パキスタンは米国と戦争していない。新聞の解説はこういう。アフ
 ガニスタンと国境を接するパキスタン領の「この地域の住民の多くは、保守
 的なイスラム教徒だ。民族的にもタリバーン勢力と同じパシュトゥン人で、
 原理主義を唱えるタリバーンに共鳴する人も多い。アルカイダを率いるビン
 ラディン容疑者、タリバーン指導者のオマール師も、国境地帯に潜伏してい
 るとの説がある」(同『朝日新聞』)。つまり米軍はアフガン攻撃の一環と
 してパキスタン領を攻撃しているのだが、そうであれば「パキスタン国内で
 は1月13日以来、全国の主な都市で宗教保守派を中心に反米デモが続いて
 いる」のは当然のことである。

 パキスタンのムシャラフ政権は、米軍によるタリバーン残党の掃討作戦を支
 援するため、アフガニスタンとの国境に7万人の自国兵力を投入している。
 それゆえ、米軍に自国領を攻撃され無辜の民が殺されてもろくに抗議しない。
 ムシャラフ大統領がパキスタン北西部での米国の空爆にぼそぼそと「抗議」
 したのは、なんと1月21日になってからだった。


  英国を中心にNATOがアフガンに増派

 アフガン駐留米軍がパキスタンを越境攻撃し戦線を拡大しているだけではな
 い。NATO(北大西洋条約機構)もアフガン増派を決めた。2006年1
 月27日付『東京新聞』から引用する。
〈リード英外相は1月26日、アフガニスタンでの平和維持活動に、英軍33
00人を追加派遣し、最大時で5700人規模にすると発表した。NATOが
主導する国際治安支援部隊(ISAF)の規模拡大に伴う派遣で、時期は4月
か5月となる見通し。NATOは現在のアフガン北部や西部に加え、治安が悪
化している南部地域に活動を拡大するため、現在の約9000人から1600
0人規模への増強を計画。英軍のほかオランダ軍兵士約1200人の派遣が予
定されている。英軍は現在、約850人がアフガンに駐留している。〉

 妙なことになってきた。英軍は今春、イラク南部のサマーワから撤退すると
 伝えられる。それでいて英軍は大幅なアフガン増派を決めた。オランダ軍は
 さっさとサマーワから撤退したが、今度はアフガニスタンに展開するという。
 どうなっているのだろうと思う人もいるだろう。
 
 しかしそういう疑問が湧くのは、〈アフガン〉と〈イラク〉を切り離して考
 えるからである。米国やNATO列強にとって〈アフガン〉と〈イラク〉は
 別の話ではなく、同じ問題なのだ。

 イラクはもう手がつけられない状況になっている。米軍は1月26日、女性
 5人を含む拘置中のイラク人419人を釈放したと発表したが、こういう場
 当たりの人心慰撫策に、米軍の動揺ぶりが透けて見える。そのうえ「国際社
 会」の支援によって安定したはずのアフガニスタンもますます治安が悪化し
 つつある。このままではこれまでの努力が水泡に帰すると、米国とEU列強
 は焦りを深めている。それらの諸国にとって、エネルギー資源(石油・天然
 ガス)の《生命線》である中東の不安定化はどうあっても見逃せないのであ
 る。米ブッシュ政権の「全中東民主化計画」は、世界第1位の石油大量浪費
 国である《アメリカ帝国》の死活にかかわるから、中断したり放棄すること
 はできない。


 しかし、とはいっても、米国政府(ブッシュ大統領やネオコン一派を除いて)
 もEU列強の政府も、アラブ―イスラム世界の民衆を軍事力で抑え込むこと
 はできないことをじわじわ痛感し始めているように私は感じる。マスメディ
 アでは「自爆テロ」ばかりが喧伝されているが、反占領闘争がすべて武装抵
 抗であるわけはない。むしろ無関心を装いつつ内心深く占領への敵意を秘め
 た人びとが無数に存在することこそが、占領という軍事力による強権支配の
 根幹を揺るがしているのではあるまいか。占領軍は占領地の民衆を殺すが、
 すべての民衆を殺すことはできない。

 米軍はイラクでも無差別の掃討作戦を拡大しつつある。その作戦にも国境は
 ない。そうした事態とアフガンでの米軍の戦線拡大・越境攻撃およびNAT
 O軍の増派決定とは、アフガニスタンとイラクの人びとの非武装の抵抗の強
 化(政治的な対抗力の急速な成長)、あるいは不服従の拡大・深化を逆に証
 明していると私には思える。圧倒的な武力を前にすれば、面従腹背で生きる
 しかない。だがそれは全面的に屈服していることではない。占領への怒りは
 内面に深く根を張り、人びとを最大限知恵を駆使する抵抗の工夫に突き動か
 す。占領から解放されて、自分(たち)のことは自分(たち)で決め、人間
 らしく生きようとする衝動を誰も押し止めることはできないのだ。英国はイ
 ンドを100年間支配したが、ガンジーらの非暴力・不服従の抵抗に屈し独
 立を認めざるを得なかった。

 アラブ―イスラム世界の人びとは、想像を絶する苦難のなかで、自分(たち)
 の自分(たち)らしい姿が世界の歴史に誇り高く浮かび上がる日を準備しつ
 つある……私にはそう思える。


 だからこそ、《アフガン・イラク侵略戦争》への荷担を止めよ。アラブ―イ
 スラム世界の人びとをして、自らの文化に根ざして自前の発展を遂げさしめ
 よ。私はそう考える。

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