揺れる日米中:小泉外交・光と影・1 米国、「遊就館」を注視/毎日新聞

2006-01-31 20:14:02 | 世界
◇皇国史観、靖国不信広がる/「中国、韓国以外に靖国参拝を批判する国はありません」。先週の参院代表質問で靖国神社参拝について聞かれた小泉純一郎首相は、そう答えた。公式声明を見る限りではその通りだろう。だが、内実は違う。旧敵国であり、今は同盟国である米国の内部に微妙な変化が生まれている。靖国神社に併設されている戦争博物館の、第二次大戦に至るルーズベルト政権の対日政策や米軍主導の戦犯裁判を批判する展示や映画の強調が、米国を身構えさせている。

 「yushukan(ユーシューカン)」を話題にしたのは米共和党穏健派の重鎮で、昨年2月まで駐日大使を務めたハワード・ベーカー氏だった。

 「あれでは日本が戦争に勝ったみたいだ」

 離任に先立って自民党の有力議員を訪ね、日中問題について意見交換した時のこと。ベーカー大使は苦笑を交えて不満を伝えた。

靖国神社が創建130年記念事業の一環として戦争博物館「遊就館」の大改修を終えたのは02年7月。改修後は皇国史観が一段と強調された。日米開戦は資源禁輸で日本を追いつめた米国による強要であり、日本は「自存自衛」と「白人優越世界打破」のために立ち上がったという歴史観が整然と示された。売店には日本の戦争責任を問い続ける中国を逆批判する書籍類が平積みされ、政治性を強めた。当時既に80歳に迫っていたべーカー氏は自ら足を運び、確かめたのだ。

 旧日本軍による真珠湾攻撃から64年にあたる昨年12月7日(日本時間8日)。犠牲者を悼む半旗が掲げられたワシントンで、米国のアジア問題専門家たちが訪米中の前原誠司・民主党代表を招き、朝食会を開いた。

 日中両国のナショナリズムが話題になったこの席で、昨年1月までブッシュ政権の東アジア外交担当官だったジム・ケリー前国務次官補が「靖国神社参拝によって、日本の首相がyushukanの考え方を肯定していると受け取られないか」という懸念を表明した。

 遊就館を知らないという知日派外交官は、まずいない。東京勤務が長かった古株の一人は今月中旬、匿名を条件にワシントンで毎日新聞の取材に応じ、こう語った。

 「日中間に歴史解釈の違いがあるというだけの話なら米国は無視するが、yushukanは無視できない。真実を語っているとは思えない。首相が戦没者に敬意を払うのはいいが、問題はyushukanとのかかわりだ」

 ポール・ジアラ元国防総省日本部長も遊就館の展示に対する不満を記者にぶつけた。

 「第二次大戦が他国の過失によるという印象を受けるどころか、日本の戦争が正しいとさえ思わせる高慢な内容だ」

 ジアラ氏は「outrageous(常軌を逸している)」という表現を用いて首相の靖国参拝を批判、「日本の孤立化を招き、ひいては同盟国アメリカまでアジアから孤立する」とつけ加えた。

 ブッシュ大統領自身は靖国参拝を批判していない。だが、足元の官僚や政治家の間で不満が広がっている。日米同盟が根底から揺らぐわけではないが、以前は「日本の問題」として発言を控えていた人々が不満を隠さなくなった。この傾向は、昨年10月17日の小泉首相の秋季例大祭参拝直後から目立ち始めている。

◇進む米中の蜜月

 小泉純一郎首相が就任以来5度目の靖国神社参拝に踏み切った直後の昨年10月20日、米共和党の重鎮、ヘンリー・ハイド下院外交委員長が加藤良三駐米大使に書簡を送った。靖国神社に首相が参拝することに対して「遺憾の意」を伝えると書いてあった。現在81歳のハイド氏は第二次大戦に従軍し、フィリピンで日本軍と戦っている。

 自衛隊のイラク派遣に感謝する書簡を小泉首相に送り、北朝鮮による日本人拉致問題の解決を支援してきたハイド氏だが、A級戦犯合祀(ごうし)の神社に日本の首相が参拝するという事態は黙過できなかったようだ。11月16日、京都にブッシュ大統領を迎え開かれた日米首脳会談は、大統領が「中国をどう見ているか」と切り出し、日中関係をめぐる意見交換に最も時間が割かれた。

 大統領の質問の背景には、米議会内で「いまや日中問題こそアジア最大の懸案」という見方が急速に広がっている事情があったと見るべきだろう。下院は「日中関係悪化が米国の国益を損なう」という問題意識を踏まえて3月にも日中関係の公聴会を開く予定だ。

 東アジアに詳しい下院事務局のスタッフに公聴会が開かれる背景について尋ねると、匿名を条件にこう答えた。

 「アジアで政治的、軍事的危機をはらむ地域といえば朝鮮半島、台湾海峡、インド・パキスタンだが、現在のホットトピックは日中だ」「米国の債券は北京、上海、東京にあり、日中摩擦は米国にも波及する」

 公聴会の背景には米ビジネス界の利害と関心もあるようだ。

 小泉首相の靖国神社参拝を契機とする米議会の日中関係への関心の高まりは、同盟国・日本に対する配慮であるというより、中国側の働きかけによるところが大きい。

 国防総省の元中国部長で、ブッシュ政権に近いシンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」研究員、ダン・ブルーメンソール氏の話--。

 「昔は中国人が来ると台湾を問題にしたが、最近は靖国問題を持ち出し、日本のナショナリズムを批判していく」

 ビジネスとナショナリズムが絡み合い、米議会で中国によるロビー活動が活発化している。昨年7月、下院で「対中制裁法案」が否決され、話題を集めた。対中武器輸出解禁に踏み切った欧州企業に対する制裁権限を大統領に付与する法案である。

 シンクタンク「ヘリテージ財団」のラリー・ウォルツェル研究員は「中国は議員の選挙区事情に通じ、親中派の議員や企業を巧みに使って影響力を行使する」と解説する。

 採決直前の昨年6月、下院の親中派議員が「米中ワーキンググループ」という議員連盟を結成していた。発起人のカーク(共和党)、ラーセン(民主党)両議員らは新年早々訪中し、呉邦国・全国人民代表大会常務委員長らと会談した。カーク議員は選挙区周辺にボーイング、モトローラなど中国市場をにらむ大企業を抱える。

 ならば、日本のロビー活動はどうか。先に紹介した下院スタッフに言わせればこうなる。

 「格付けすれば台湾がAプラス、中国はBプラス。日本は静かで評価のしようがない。米国でも靖国問題への関心が高まってきたため、最近ようやく議会の人間を大使館に呼び、勉強会をするようになった」

 議会のみならず、政府内でも中国の勢いが目立つ。ブッシュ政権1期目のアジア外交は知日派のリチャード・アーミテージ前国務副長官が仕切った。昨年2月、後任に就いたロバート・ゼーリック氏はアーミテージ氏が始めた「日米戦略対話」は引き継がず、中国との間に新しい高官協議の仕組みを整えた。

 その米中高官協議の第2回定期会合がワシントンで開かれた昨年12月9日。協議を終えたゼーリック氏は戴秉国外務次官をニューヨーク州ハイドパークにあるF・ルーズベルト元大統領記念図書館へ誘った。

 第二次大戦で旧連合国を勝利に導き、米露英仏中による戦後体制の基礎を築いたF・ルーズベルトの記念館は、靖国神社の遊就館とはまったく相いれない歴史観で貫かれている。折しも真珠湾奇襲記念日から2日後。米中の両高官は時間をかけ「恐怖からの自由」と銘打たれた記念館の展示を見学し、内外に蜜月をアピールした。=つづく

    ◇   ◇

 遊就館の展示に対する米国内の懸念について、靖国神社広報課に感想を尋ねたところ、ファクスで回答が寄せられた。「論争に加わるつもりはございません」という簡単なコメントに、「マスコミの批判報道で拝観者は増大した」と伝える社報(2月1日発行予定)が添えられていた。


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